松任谷由実 『A HAPPY NEW YEAR』

2017年9月15日音楽, 松任谷由実

誰かを好きになることは「祈り」にも似ている。

本当に愛したら、その人が、いつまでも元気で、幸せでいることしか願わなくなる。

自分は苦しさで潰れたっていい。

でも、心から愛するあの人だけは、いつも笑顔で、幸せでいて欲しい。

あの人の幸せが、私の幸せ。

あなたが居るから、私が居る。

そういう気持ち。

*

私が初めてユーミンの『A HAPPY NEW YEAR』を聞いたのは、まさに正月三が日のこと。

普段は聞かないラジオのNHK第一放送から、ふと流れてきたのがこの曲だった。

その頃、私には大好きな人がいて、明けても暮れても、その人のことばかり想っていた。

でも、それは「恋」と呼ぶにはあまりに稚ない感情で、心の中で想うのが精一杯の人だった。

電話して二人だけで話したいとか、デートに誘って欲しいとか、そういう月並みな願望もほとんどなくて、その人を好きであることにすっかり満足してしまっているような感じ。

たまに声かけてもらったり、こっちを見てニコっと微笑んでもらうだけで幸せで、その人が他の女の子と親しくしても嫉妬らしい嫉妬もせず、彼女たちに並べるとも思わなかった、なんとも無欲で淡泊な恋だった。

そんな時、耳にした、松任谷由実の『A HAPPY NEW YEAR』。

雪の町を天使の羽根で駆け抜けて行くような透明感に、「美しい」という言葉が涙とともにあふれそうになった。

まるで世界中の恋する女の子を祝福しているかのようだった。

*

お正月。

この歌の彼女みたいに、彼に会いに行けるわけじゃないし、電話だって気軽にかけられるような間柄じゃない。

ふと触れ合った、一瞬一瞬の面影をつなぎ合わせて、遠くからぼんやり想うだけ。

それでも、ユーミンの歌を聴いていると、一緒に初詣に出かけたり、電話で「おめでとう」を言い合うのと同じくらい幸せなこともあるように感じずにいなかった。

それは、あの人の幸せを思うこと。

こうして年の始めに、想う誰かがあるということ──。


ただ「好きである」ということに満足する気持ち。

もしかしたら、それは恋と呼ぶにふさわしいものではないかもしれないけれど、誰かがその人を思うだけで幸せになる……というのは、人間にだけ許された奇跡のような感情とも思う。

あるいは、恋の一番美しい部分は「両思い」ではなく、心の片隅でひそやかに思いを馳せる瞬間、その人の笑顔や幸せを願って、祈りにも似た気持ちになる一瞬を言うのかもしれない。

A Happy New Year!
大好きなあなたの部屋まで
凍る街路樹ぬけて急ぎましょう
今年も最初に会う人が
あなたであるように はやく はやく

A Happy New Year!
今日の日は ああどこから来るの
陽気な人ごみにまぎれて消えるの
こうしてもうひとつ年をとり
あなたを愛したい ずっと ずっと

今年も沢山いいことが
あなたにあるように いつも いつも

「あなた」という、かけがえのない存在と、その人を想う幸福。

人に生まれてよかったと思うのは、いつも、こんな瞬間だ。

本当の恋は、それだけで奇跡とも思う。

風のように過ぎ去っても、想いは永遠に──。

CD

長年のユーミン・ファンの中でも特に評価が高いこのアルバム。
懐かしの神戸をテーマにした「タワーサイド・メモリー」から始まって、どれもシックに聞かせる曲ばかり。
もう一度、デジタルリマスターして欲しい名盤です。