有吉京子の『SWAN』を観る(6) ~レオンと真澄の『ドン・キホーテ』

2017年9月14日バレエ&オペラ&クラシック, 有吉京子の『SWAN』

言わずと知れたバレエ漫画の金字塔。地方のバレエ教室の一生徒に過ぎなかった聖真澄が、ロシアの名教師アレクセイ・ミハイロフをはじめ、数多くの強敵や天才との出会いを通して、世界を代表するバレリーナへと成長していく物語。単なるスポ根的展開にとどまらず、人生とは何か、芸術とは何かを問いかける、深く哲学的な内容に仕上がっている。バレエに興味のない人や男性が読んでも学ぶところは多い名作だ。

その名作漫画『SWAN』を読むのではなく観よう、というのが当サイトの企画です。

今、本が手元にないので、セリフなど細かいところはうろ覚えになっていますが、順を追って説明してまいります。

STORY

それまで自分の内面を覗くことなく、また人間や世界というものを単純に捉えていた真澄にとって、「誰だって、腹の底には強烈な自我を持っているんだ。あんたも一度、自分の腹の底を覗いてみるといい」と言うレオンとの出会いは衝撃でした。

「失礼な人」と反発しながらも、レオンの強靱な精神に心ひかれずにいない真澄。

そんなレオンが得意とするのが、スペイン舞踊をベースとするクラシック・バレエの傑作『ドン・キホーテ』のバジル。

『ドン・キホーテ』は、「愛」や「死」など、テーマの重いクラシック・バレエにおいて、唯一、コミカルな要素を持つ異色の作品です。

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ラ・マンチャに住むドン・キホーテは、騎士物語に取り憑かれて、いつも書斎で本を読み耽っています。
そのうち、自分が騎士であるような錯覚に陥り、何か手柄を立てようと、近くに住むおトボケ農夫、サンチョ・パンサを従者に引きつれて、旅に出ます。
夢の中の理想の女性、ドルネシア姫を探しに行くためです。

一方、バルセロナの広場では、闊達な娘キトリと恋人の床屋バジルが戯れながら踊っています。
欲張りなキトリの父親は、町で一番の金持ちガマーシュとの結婚を画策しますが、キトリはガマーシュが大嫌い。
そこへ、サンチョ・パンサを連れたドン・キホーテがやって来て、キトリこそ憧れの姫ドルネシアと見定め、思いを打ち明けます。
広場が大混乱する隙に、キトリとバジルはその場から逃げ出します。

ガマーシュとの結婚を潰す為に、キトリとバジルは一芝居打ちます。
結婚を認められないバジルが狂言自殺を図るのです。
そこへドン・キホーテやガマーシュが入り乱れ、大混乱になりますが、最後にはめでたく結ばれ、キトリとバジルの結婚式(パ・ド・ドゥ)で舞台は締めくくられます。

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私は、ドン・キホーテは、一度も通しで見たことがありません。
テーマに余り興味がないというか、いろんな登場人物が入り乱れて、そそられなかったのです。

ですから、見るといえば、ガラ・コンサートなどでよくプログラムに組まれる、最終幕のキトリとバジルのグラン・パ・ド・ドゥ、あるいは第一幕、広場で踊られるキトリのソロぐらいでしたか。

『ドンキ』を得意とする人は多いですが、ここは、アメリカに亡命する前の、「世界のミーシャ」ことミハイル・バニシリコフと、ボリショイ・バレエの花形だったリュドミラ・セメニャカのパ・ド・ドゥを見てみましょう。
バレエのみならず、ハリウッド映画にも進出したミーシャの演技は、大技を難なくこなして爽快です。

Mikhail Baryshnikov – Don Quixote Pas De Deux

こちらはアメリカン・バレエシアターでのバニシリコフ&シンシア・ハーヴェイの演技。
フィナーレの部分です。
バニシリコフは爪先まできれいに伸びて、本当に素敵です。
シンシア・ハーヴェイもきっぷのいいお姉さまという感じで、粋なキトリですね。

DON QUIXOTE (Harvey-Baryshnikov, ABT 1983)


全編UPされてます

キトリを得意とするバレリーナも多いですね。
ここはボリショイ出身の世界的バレリーナ、ニーナ・アナニアシヴィリの演技を見てみましょう。
大柄で華やかな美貌に加え、跳躍の時、足が200度ぐらいに開いて、まさに舞台の『花』という感じです。

Don Quixote (Kitri var) Nina Ananiashvili
/video/donq_ana.flv

大回転も閃光のように鋭く決まります。

Don Quixote, Nina Ananiashvili

『SWAN』では、世界バレエコンクールの舞台で、レオンがバジルを踊って、観客を魅了します。
「あのタイツ姿のセクシーさが分からないなんて、女じゃないわ!!」
という熱狂的なファンも現れたり。

その印象があまりに強烈だったため、後に踊ったシドニー・エクランドの男性パートナーが調子を狂わせ、せっかくのシドニーの優れた演技が台無しに。

(レオンの『あれは自滅する』というセリフが強烈でした)

どんなに個人が優れていても、パートナー次第で左右される現実を目の当たりにした真澄は、「自分にとってのパートナー」というものを真剣に考えるようになります。

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そんなレオンと真澄は、世界バレエコンクールの後、ニューヨーク・シティ・バレエ団の招きでアメリカに赴き、モダン・バレエの名振付家ジョージ・バランシンの舞台に参加することになるのですが、その際、バランシンが、「真澄の音楽センスを知りたい」と踊るように求めたのが、このパ・ド・ドゥでした。

自分の実力が疑われていることに対し、一瞬、真澄は恐れを感じますが、レオンに力強く後押しされて、新しい第一歩を踏み出します。

「そうよ、レオンの『ドンキ』は超一級だものね!」と。

二人のパ・ド・ドゥは息もぴったりで、バランシンのテストにはとりあえず合格。

しかし、これから先、真澄はモダン・バレエの世界で自分を見失い、パートナーのレオンとも軋轢を生じます。
このニューヨーク編は、『SWAN』における大きな見所の一つです。

私のレオンに対するイメージは、かつて「アンファン・テリブル(恐るべき子供)」と言われ、現在は、パリ・オペラ座の芸術監督を務めるパトリック・デュポンかな。
一度、生の舞台を見たことがあります。

セクシーで、情熱的で、弾けるような個性があり、文字通り「うっとり」しちゃう素敵なダンサーです。

こちらはパリ・オペラ座のエトワール、モニク・ルディエールとのリハーサル風景。
真澄ちゃんともきっと、こんな感じだったんじゃないかしらね。

※ 動画は削除されました

『ドン・キホーテ』に関するDVD・CD

ドンキのDVDはたくさん出ているのですが、ダイナミックに楽しむなら、ミハイル・バリシニコフがおすすめ。
こういうコミカルな演目は、難度の高い大技がピタリと決まる踊り手の方が見応えがあります。
こちらはバリシニコフのバリエーション。セクシーで溜め息モノです。

華やかさとロマンティックを求めるなら、パリ・オペラ座がおすすめ。
一世代前のゴールデン・カップル、マニュエル・ルグリとモニカ・ルディエールの現代的で、ハイセンスな踊りが楽しめます。
ルグリとルディエールのバリエーションはこちらです。

大輪のバラのようなニーナ・アナニアシヴィリのダイナミックな踊りが堪能できます。
この方の登場でボリショイ・バレエもずいぶんスタイルが変わったような気がします。

ドンキも全曲聞くのはちょっと・・という方には、こちらがおすすめ。
大人気の熊川氏がセレクトする美しいグラン・パ・ドドゥの名曲オムニバス。
入門編としても最適です。

☆ドン・キホーテは【白鳥の湖】に次いで名盤が多いですね。それぞれに劇団の個性が出て、ラインナップとしても面白いと思います。