有吉京子の『SWAN』を観る(5) ~『スパルタカスの慟哭』・永遠のパートナー、レオン登場~

2016年8月25日バレエ&オペラ&クラシック, 有吉京子の『SWAN』

言わずと知れたバレエ漫画の金字塔。地方のバレエ教室の一生徒に過ぎなかった聖真澄が、ロシアの名教師アレクセイ・ミハイロフをはじめ、数多くの強敵や天才との出会いを通して、世界を代表するバレリーナへと成長していく物語。単なるスポ根的展開にとどまらず、人生とは何か、芸術とは何かを問いかける、深く哲学的な内容に仕上がっている。バレエに興味のない人や男性が読んでも学ぶところは多い名作だ。

その名作漫画『SWAN』を読むのではなく観よう、というのが当サイトの企画です。

今、本が手元にないので、セリフなど細かいところはうろ覚えになっていますが、順を追って説明してまいります。

STORY

聖真澄は、アキレス腱を切った京極小夜子の代わりに、ボリショイで公演が予定されている『白鳥の湖』の主役をかけて、強敵ラリサ・マクシモーヴァ、そして真の天才リリアナ・マクシモーヴァと演技を競います。
ラリサとの競演では辛くも勝ちを取ったものの、十代にして「天上の芸術」を身に付けた天才リリアナに対しては恐怖が先行して実力を出しきることができません。
必死の思いで舞台に上がったものの、あまりの緊張に、演技の途中で音楽が聞こえなくなるというアクシデントに見舞われ、真澄は苦い敗北をかみしめます。

そんな彼女の前に現れたのが、ドイツ・シュトゥットガルトのバレエ学校からやって来たレオンハルト・フォン・クライスト。
後に永遠のパートナーとして結ばれるレオンは、大胆で、率直で、草壁飛翔や柳沢葵とはまったくタイプの違う男性でした。
「誰だって、腹の底には、強烈な自我を秘めているんだ。あんただってエゴイストなんだ」と言い放つレオンに翻弄されながらも、心惹かれてゆく真澄。

そんなレオンが世界バレエコンクールで踊るのが、ボイショイ最高の権威であり振付家だったグリゴローヴィチの代表作『スパルカタス』。その激しく、奥から突き上げるような演技に、真澄は心をふるわされます。

バレエ『スパルタカス』は、紀元前73年から紀元前71年にかけてイタリア半島で起きた、古代ローマ共和国の剣闘士・奴隷による大規模な反乱の史実をもとに創作されました。
ソビエトの民族意識を鼓舞するために制作されたともいわれるこの作品は、従来のクラシックバレエとは趣がまったく異なる男性中心のバレエです。
美しいチュチュも無ければ、豪華な舞台装置もなく、「戦闘」「支配」「奴隷」「死」といった重厚なテーマが、男性中心の力強い舞踊によって描かれています。

物語は、ローマの闘将クラッススの支配によって奴隷に落とされたスパルタカスが、美しい妻フリジアの愛と支えによって仲間の解放と独立を誓い、闘いに赴くというものです。
しかし、クラッススの愛人エギナの奸計とローマ軍の圧倒的な力の前に反乱軍は敗れ去り、スパルタカスは処刑されますが、その精神は永遠に生き続ける――というメッセージが込められています。

音楽は、「剣の舞」でお馴染みのハチャトリアン。
全編、スペクタクルといった感じで非常に聞き応えがありますが、中でも最も美しく、有名なのが、「スパルタカスとフリジアのアダージョ」。
反乱の最中、束の間の平和を味わったスパルタカスとフリジアですが、戦闘開始の知らせを受けると、スパルタカスは身を切られるような思いでフリジアに別れを告げ、戦場へ赴きます。
このアダージョは、フリジアの深い愛と悲しみが非常に美しく描かれています。

ここでは、深い嘆きと悲しみをたたえながらも、決然と夫スパルタカスを送り出すマヤ・プリセツカヤの誇り高いフリジアを見てみましょう。

私もこのビデオは持っていました。心に迫る素晴らしい演技でした。

Maya Plisetskaya / Aram Khachaturyan “Spartacus”

こちらは、ボリショイの名花と謳われたリュドミラ・セメニャカと、元ボリショイの肉体派スターで、現在は英国で活躍中の(今も?)イレク・ムハメドフのアダージョです。
プリセツカヤほど感情を全面に押し出した演技ではありませんが、美しくまとまっていると思います。
セメニャカは膝から下のラインが独特で、遠い座席からでも、足を見るだけで「セメニャカだ」と分かるくらい。
ボリショイの中ではスマートな技巧派でした。

私もこのビデオは持ってました。ムハメドフのむきむきも見応えがありますが、クラックスを演じたアレクサンドル・ベトロフも圧巻でした。

Spartacus Act III – Spartacus and Phrygia (Bolshoi)

こちらは世界バレエコンクールでレオンが踊る『スパルタカスの慟哭』。
剣闘志に落とされたスパルタカスは、クラッススの酒宴において、覆面を付けた別の剣闘志との戦いを強要されます。
相手を殺し、覆面を取ってみると、それはスパルタカスの親友でした。
人の命を弄び、幸福を踏みにじるクラッススとローマ軍に対し、仲間の解放と独立の為に立ち上がるスパルタカスの心象を描いたのがこの力強いソロ。
『スパルタカス』は、当時、ボリショイで最高の男性舞踊家と言われたウラジーミル・ワシリーエフをイメージして創られただけに気品と迫力は随一。歴史的名演と言われています。
(レオンの演技もさぞかし力強いものだったでしょうね。ついでにセクシー?)

Vladimir Vasiliev dances Spartacus スパルタカスの慟哭

奥様のエカテリーナ・マクシモーヴァもまたボリショイの花形スターであり、彼らはロシア・バレエのみならず世界の至宝として今に語り継がれています。
ちなみに、真澄のライバルであるラリサ・マクシモーヴァ、リリアナ・マクシモーヴァの名前は、エカテリーナ・マクシモーヴァから取られたものに間違いないと思います。
エカテリーナは、マヤ・プリセツカヤに並ぶ当時のボリショイの大スターだったのです。

こちらは『くるみ割り人形』の第三幕。
エカテリーナの愛らしさに注目!
(このLDも持っていたのですが、ポーランドに来る時、泣く泣く手放しました。再販はされていないようです。本当に残念です)

Nutcracker Grand Pas De Deux

↓2005年に再販されてました☆

スパルタクス ボリショイ・バレエ

上記でも紹介しているイレク・ムハメドフ&リュドミラ・セメニャカの映像です。
NHKが撮影しているだけあって画像と音質も良好。カメラワークも上出来です。
またクラッススを演じるアレクサンドル・ヴェトロフの凶暴で野性的な演技、愛人エギナを演じるマリア・ヴィローワの妖艶な踊りにも吸い寄せられます。
これぞスペクタクル!という演出で、日本でも何度か来日公演されました。
ボリショイ・ファンは必見のDVDです。

現在、2005年度版の【スパルタクス [DVD]】が販売されていますが、こちらはナタリア・ベスメルトノワで全く雰囲気が異なります。悪くはないけど、セメニャカのような可憐さがない。
またクラッススもヴェトロフの方が圧巻。
セメニャカ版が再販されないのが不満ですね。
買うなら、セメニャカ版がおすすめです。気長に待ちましょう。

※ 今、どなたか分割でUPしてくれてます。ベトロフのクラッススは邪悪で、セクシーで、パワフルで、必見ですよ(^^)


とりあえず有名なアダージョだけ聴きたい、できれば有名な「剣の舞」も……という方には、こちらのCDがおすすめ。
スパルタカスとガイーヌのおいしいとこどりCDです。
私が持っているCDにはプロコフィエフの「ロミオとジュリエット」の抜粋も入っていたのですが、このバージョンは今はもう発売されていないみたいです。