谷川俊太郎の詩  ~世界が私を愛してくれるので~

谷川俊太郎さんの詩は、一言で言うなら、『宇宙』ですね。

誰にも属さず、誰にも真似できない、完全に独立した一つの小宇宙のように感じます。

たとえば、詩を書く人はたくさんいるけれど、本物の詩人は少ない。
有名な詩は多いけれど、天性を感じさせる詩は少ない。

そして、谷川さんは、唯一無二の詩人であり、シンプルな言葉の羅列を芸術の域にまで高められる人――という気がします。

ちなみに、お父さまは、哲学者の谷川徹三さんなんですよね。宮沢賢治さんの作品を世に広く知らしめた方です。
京都・祇園の名妓だった岩崎峰子さんの著書『祗園の教訓―昇る人、昇りきらずに終わる人 (だいわ文庫)』の中に、谷川徹三さんとのやり取りが描かれているのですが、谷川さんの仰る「物事はね、感じたままでいいんだよ」という言葉が印象的でした。

そんなお父さまの哲学が、そのまま谷川俊太郎さんの詩の中に生きているように思います。

収録されている詩集は、『空の青さをみつめていると―谷川俊太郎詩集 1 (角川文庫 (2559))』です。

世界が私を愛してくれるので

私が谷川俊太郎さんの詩に魅せられたのは、『世界が私を愛してくれるので』がきっかけでした。
私にとって、後にも先にも、これに勝る詩はありません。世界で最愛の詩です。

世界が私を愛してくれるので

世界が私を愛してくれるので
(むごい仕方でまた時に やさしい仕方で)
私はいつまでも孤りでいられる

私に始めてひとりのひとが 与えられた時にも
私はただ世界の物音ばかりを 聴いていた

私には単純な悲しみと喜びだけが 明らかだ
私はいつも世界のものだから

空に樹にひとに 私は自らを投げかける
やがて世界の豊かさそのものとなるために ……

私はひとを呼ぶ すると世界がふり向く

そして私がいなくなる

詩集『空の青さを見つめていると』から

さながら風が木の葉をそよがすように

さながら風が木の葉をそよがすように
世界が私の心を波立たせる

時に悲しみと言い時に喜びと言いながらも
私の心は正しく名づけられない

休みなく動きながら世界はひろがっている
私はいつも世界に追いつけず
夕暮や雨や巻雲の中に 自らの心を探し続ける

だが時折私も世界に叶う
風に陽差に四季のめぐりに 私は身をゆだねる──
──私は世界になる
そして愛のために歌を失う

だが 私は悔いない

【 ミランダ 】
【 ミランダ 】

私は言葉を休ませない

私は言葉を休ませない

時折言葉は自らを恥じ 私の中で死のうとする
その時私は愛している

何も喋らないものたちの間で 人だけが饒舌だ
しかも陽も樹も雲も 自らの美貌に気づきもしない

速い飛行機が人の情熱の形で 飛んでゆく
青空は背景のような顔をして その実何も無い

私は小さく呼んでみる 世界は答えない

私の言葉は小鳥の声と変わらない

【 ミランダ 】
【 ミランダ 】

私が歌うと

私が歌うと 世界は歌の中で傷つく
私は世界を歌わせようと試みる
だが世界は黙っている

言葉たちは いつも哀れな迷子なのだ
とんぼのように かれらはものの上にとまっていて
夥しい沈黙にかこまれながらふるえている

かれらはものの中に逃げようとする
だが言葉たちは 世界を愛することが出来ない

かれらは私を呪いながら
星空に奪われて死んでしまう

──私はかれらの骸を売る

谷川俊太郎に関する書籍

二十一歳のときの第一詩集『二〇億光年の孤独』をはじめ三十三歳の【週刊朝日】連載の時事諷刺詩まで、主要作品を年代順に自選形式で網羅。宇宙的なものへ、社会的なものへ、前進的で活動的作品である。

谷川さんの類い希なるセンスと世界観がたっぷり味わえる初期の傑作集。
「空の青さを見つめていると 私に帰るところがあるような気がする」なんて言えそうで言えません。
まさに天才。
初めての方にもおすすめの一冊です。

ピンポンをするようにごく自然に詩を書き始めた青年は、やがて「ことばあそびうた」をあそび、自らの声でその詩を語り、透明感あふれる日本語宇宙を広げていった。いつもいちばん新鮮でいちばん懐しい谷川俊太郎の決定版・代表詩選集。

「二十億光年の孤独」「ネロ」「はる」「わたくしは」……ひとりの少年が見つめた宇宙、孤独、そして未来──半世紀を超えて輝き続けるデビュー詩集が初の文庫化

これも言うまでもない名詩集ですね。円熟期の作品もいいですが、やはり初期の瑞々しい詩に惹かれます。

その他のおすすめ

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