33-2 海賊旗とアイデアを阻む声 信念は自分で説いて回る

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海 波

パラディオン建設への批判が日に日に高まる中、反対側では、リズの振る舞いを疑問視する声も上がりつつある。
EOS海洋開発財団の運営を実質的に任されているマルティン・オイラーは、リズと差し向かいで話し、あなたにとって一番大切なのは、自身と家族の幸福ではないかと諭す。

そんな中、ヴァルターの運営するオーシャン・ポータルに海賊旗が上がる。
ついに全体構想としての『リング』の鳥瞰図が掲載されたのだ。

だが、事態は思わぬ方向に転がり始める。
リングは全体構想として認められないとの声が上がったのだ。

一方的に否決され、納得いかないヴァルターは、海洋情報ネットワークと同じように、自分でメリットを説いて回ることを選ぶ。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「たとえ全体構想が提出されず、願い通りに運ばなかったとしてもいいではありませんか。おかしな言い方だが、パラディオンのせいで社会が傾いたとしても、それは決してあなた個人のせいではない。まして理事長のせいでもありません。自身の幸福と家族の将来を第一に考え、その中で社会に貢献する道もあるはずです。空白が長引けば長引くほど、やり直すのは難しくなりますよ」
「それも頭では分かっています」
「わたしとしては、これからも末永くあなたに代表理事を務めて頂きたい。それは本心です。あなたが財団の顔だからこそ周りも納得する。あなたが既存社会に一方的に肩入れし過ぎと疑問を呈する声もありますが、それでも産業振興会をはじめとするローレンシア島の古株が依然としてアステリアの社会を支えているのは確かです。たとえ象徴的にせよ、そうした人たちの心の支えは重要でしょう。ただ、そこに個人的な理由が見え隠れすると信頼も揺らぐというだけで、あなたが大きな過ちを犯しているとは思いません」
「……いろいろと不安なのです」
「ちなみに、六月か七月にはアステリアを訪問なさるのですか」
「そのつもりです」
「では、それでいいではないですか。アステリアに暮らしたければ、そのように生き方も仕事も変えればいい。それほど深刻に悩むことですか」
「……」
「あなたの本音は一つだけ、『彼に勝って欲しい』。それが全てでしょう。彼が負けて、二人がやり直す機会も、愛情すらも失うのが怖いのではないですか。でも、わたしに言わせれば、それこそ疑心暗鬼ですよ。お互い二年近くも顔も合わさず、メールのやり取りもなく、それで本心など分かるはずがありません。でも、そんな不安も一瞬で吹き飛びますよ。彼の方も、あなたの為、しいてはマクダエル社長の為、恥も外聞もかなぐり捨てて取り組んでいるのではないですか。本当に何の情もなければ、さっさとステラマリスに帰ればいいだけの話です。全体構想やお父上の遺産が思惑通りに運ばなくても、愛があれば、何度でもやり直せます。いろいろあって、気持ちが傷ついたのは分かりますが、あなたもそれを乗り越えないといけない。いつかは大きな決断を下して、未知の海に飛び込まなければならないのは、あなたも同じです」

<中略>

「ミス・マクダエルは、これまた随分、『リング』の提案者に肩入れなさいますな」
と個人攻撃に転じた。
「『リング』の提案者はお父上の腹心だったと伺っています。もしかして、二人で示し合わせて区政を操ろうという魂胆ですか」
 議場がざわつくと、リズはきゅっと口元を引き締め、
「邪推です。あの方とは、この一年八ヶ月、顔を合わせたこともなければ、連絡を取ったことさえありません。音信不通の中、どうやって示し合わすのです? 第一、誰がどのような提案をしようと、アイデアの良し悪しを決めるのは区民です。たとえ示し合わせたとしても、区民が支持せぬものは、どうしようもないのではないですか」
と毅然と返した。
 一瞬、マルムクヴィストが詰まると、
「ミス・マクダエルの言う通りだよ」
と最高齢のミムラ管理委員も言い添えた。
「たとえ、この人たちが示し合わせて『リング』を考案したとしても、皆が否決すればそれまでだ。そんな博打に人生を懸けるぐらいなら、パラディオンに群がる諸兄のように、もっと手の込んだ、しかも確実に儲かる方法を画策した方がよほど利口だろう。私も企画書を見てみたが、非常に丁寧に作られているし、アイデアとしても面白い。都市計画というなら、パラディオンに建設予定のカジノや高級ホテルが十年先、二十年先も、羽振りのいい客で賑わうとは限らないだろう。それより、社会の歩みに合わせて集合住宅を増設したり、農園や牧草地を開いたり、工業区として活用する方がよほど役に立つんじゃないかね」
「そうは仰るが、現実的とはいえません。高さ十五メートルの建物ではなく、直径十五キロメートルの鋼製ダムですよ」
「その割に、ウェストフィリアに長さ五キロの人工島と空港をこしらえようと、既に画策しているという噂も聞かないでもないよ。まだ安全性も確立していない火山島に、それほどの施設を建設しようという発想も驚きだが、いったい数千人の労働者を何所に住まわせるつもりなのか、それに比べれば、よほど現実的だと思うがね」

<中略>

「誰か協議会に意見を言えるような知己はないの? 産業振興会とか、MIGの関係者とか」
 彼も思い巡らせるが、これといった顔は浮かばない。
「余計なことに首を突っ込みたくないのは、みな同じだ。特に企業は利害関係もある」
「だが、このままでは引っ込みつかないだろう。この三ヶ月、死に物狂いでやった。目を通した資料だけでも膨大じゃないか」
「そうよ。今回はしつこく食い下がるべきよ。明らかにアイデアに間違いがあるならともかく、規模と試算だけで却下なんて、まともに検討してない証でしょう。建築コンペだって、審査後の実施設計で建物の高さを低くしたり、アーチの形状を変えたり、条件に応じて調整するのが普通よ。せめてプレゼンテーションぐらいさせて欲しいわね。このままパラディオンに押し切られ、誰かさんの高笑いが聞こえてくるのだけは御免だわ」
「だが、全体にプレゼンテーションするとなれば、それなりの場がないとな」
 ヴァルターはじっと考えていたが、
「場がまったく無いわけじゃない。こういう場面は前にもあった。海洋情報ネットワークの時だ。何の伝もない中、俺は自分で企業や諸機関に説明して回った。そんな草の根みたいな運動でも、見てくれる人はちゃんとあるものだ。ウェストフィリア実況だって、ローレル・インスティテュートの個人講座を利用したゲリラ中継だからね。俺が合点がいかないのは、開発協議会の中だけで採決されたことだ。技術検証の結果ならともかく、建築土木にまったく素人の議員だけで可不可が判断できるとは到底思えない。議会がまともに取り合わないなら、俺にも考えがある。このまま引き下がってたまるか」

Product Notes

ドバイも都市としては本当にパワフルで、凄いですね。
昔の風景と見比べると、とても同一のスポットとは思えません。
建築家にとっても、やり甲斐のある実験場であり、プロモーションの場であり、いろんな野心が弾けて飛ぶパワーに満ちあふれています。
一方で、外国人労働者の不当な扱いやマネーにまつわる問題も多々あり、栄光の陰に黒い真実、といったところでしょうか。
遠くに眺めるだけならファンタスティックな町並みですが、中に入ると、庶民には少しも幸せではないのかもしれません。

ちなみに、本作に登場するペネロペ湾やパラディオンの雰囲気は『ドバイ』を参考にしています。
ただし、そこで描かれる庶民の生活うんぬん、投資うんぬんは、全てフィクションです^^;

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