20-4 月夜の願いと恋の予感

女神

お披露目が一段落すると、リズは宴を抜け出し、月夜に思いをはせる。
その様子を遠くから眺めていたウィレム・ヴェルハーレンは彼女に声をかけ、誰かを恋い慕う胸の内をやさしく労る。

ウィレムは彼女のために恋のおまじないに興じ、頑なだったリズもようやく笑顔を見せる。
その様子を遠くから見ていたアルも満足げだ。

一方、ファーラーは「もう一人の恋人は飼い殺しか?」と嫌みを言い、アルは「飼い主など必要ない」と言い返す。

そんなファーラーにアルは言う。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「どうやら僕はあなたを困らせるだけで、道化の役にも立たないようですね。もしかしたら、今夜は笑顔を見せて下さるかと期待したのですが、あなたの心は誰かのことでいっぱい、髪の一筋から血の一滴まで、その人に注がれているみたいだ。でも、それが間違いとは思いませんよ。そうまで純粋に恋できるのが羨ましい限りです。あなたのような女性にそこまで想われる相手の方もね」
「ヴェルハーレンさんは、恋のご経験は?」
「さあ……有るとも無いとも、どちらとも言えません。少なくともあなたのように、朝から晩まで思い詰めるような恋の経験がないのは確かです。どうやら僕はコメディ向きで、ロマンチックな恋愛にはとんと縁が無いらしい」
「そんなことはありませんわ。お顔も、身のこなしも、素敵でいらっしゃいますもの。密かに想いを寄せている女性も多いはずです」
「そうでしょうね。なんと言っても、大物議員の息子ですから」
 ウィレムが自嘲するように答えると、リズも少し彼の横顔を見やり、
「ご自身で自分の魅力に気付いてらっしゃらないだけです。今も私の非礼を気遣って、わざと砕けた物言いをなさってる。そういう優しさは、黙っていても周りの女性に伝わるものですわ」
「それは本気で仰っている? それとも型通りの慰めですか?」

<中略>

「もう一人の恋人は飼い殺しですか?」
「あれは放っておいても自分で餌を取ってくる。飼い主など必要ありません」
「だが、それで納得しますかね」
 ファーラーは含みのある声で言った。
「あなたにそのつもりはなくても、相手の方で『裏切られた』と感じれば、信じた分だけ怒りも激しいでしょう。勇ましい猟犬も、頭を撫でてくれる主があればこそ。皆が皆、あなたのように賢哲で、独立独歩とはいきませんよ」
「ご忠告は有り難く心に刻んでおきます」
「ところで、宇宙開発機構の査問はどうなさるつもりです。あれは鉱業局の監査とは訳が違う。下手すれば、国際的に非難を浴びるでしょう。今後、厳しい制約を課せられ、海台クラストの採鉱事業に待ったがかかれば、何百億の投資も水の泡ですよ」
「そうでしょうな」
「あなたも、まさか自分の飼い犬に墓穴を掘られるとは夢にも思わなかったでしょう。科学的な正義心で潜ってみたら、まさかの土着生物の巣だ。今も引き続き宇宙生物学の学術団体が調査に入っているが、この一週間で四種類の棘皮動物が発見されたそうですよ。ティターン海台も全く問題ないとは思えない」
「もちろんです。今まで何も見つからなかったのが不思議なくらいです」
「それとも、すでに鉱物学者の父子から聞いて心構えが出来ていましたか? アステリアにも豊かな生命圏があると」
「それを言うならネンブロットも同様でしょう。あなた方も全て知っていた。あのニムロデ鉱山が大規模な破局噴火で形成されたことも、坑道の深部で金属成分を凝集する微生物のコロニーが度々発見されたことも、何代も前から知っていた。ただ、鉱物学者の父子には学界を丸ごと買収するほどの資本も政治力もなく、マイニング社にはそれを可能にする力があった、その違いです」

Product Notes

「ヴェルハーレン」の出所は、オランダの誇る世界的ギタリスト(ロックバンド)ヴァン・ヘイレン Van Halen です。(顔のイメージは違うけれど)

私はヴォーカルのデイヴィッド・リー・ロスのファンですが、ギタリストのヴァン・ヘイレンが神レベルのギタリストなのは疑いなく。

こちらは私の大好きな Hot for Teacher ポップで、スピード感のある曲作りが秀逸。

ヴァン・ヘイレンといえば、Jumpが一番有名ですが、私はPanamaの方が好き。1980年らしいパフォーマンスです。