22-1 デザインとは精神の具象 

未来 建築

気分転換にリズとローランド島を訪れたヴァルターは、マックスの手引きで建築家のジュン・オキタ社長と面談することになる。
「女より『男』が好き」なオキタ社長は、さっそく彼に興味を示すが、彼の方は仕事について痛いところを突かれて素っ気ない。

そんな彼にオキタ社長は自作のCG画を見せる。それは奇妙な形をした『アンビルト・アーキテクト』の世界だった。

実作ではなく、「メッセージ」としてのデザインの意義を知ったヴァルターは、自身の『リング』にもそうした使い途があるのではないかと思い巡らせる。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「そのオキタ社長というのは何ものなんだ?」
「便宜上、『社長』と呼んでるが、正式には嘱託だ。『スタジオ・ユノ』という自身の建築デザイン事務所から半分ボランティアで来てる」
「ボランティア?」
「そう。設計部の指導教育の為にね」
「どういうこと?」
「マリン・ユナイテッド社もこれまでは港湾土木や道路建設や、ローランド島のインフラ整備で先陣を切ってきたが、こんな小さな島だ、今に頭打ちになる。現に大型土木に関しては過当競争になりつつあるからな。今後は土木だけでなく、住宅、公共施設、商業施設といった建築にも力を入れないと到底生き残れないとの判断から、設計部の顧問としてオキタさんを迎えた。週に数回、社に顔を出して、設計士の指導や勉強会をしてる。社長と呼ぶのは、『スタジオ・ユノの社長』という意味だよ」
「なるほど」
「で、ペネロペ湾のアイデアコンペはどうだ? ちっとは興味が湧いたか」
「俺には分からない。商業地として栄えた方がいいのか、それとも新たな臨海コミュニティとしてして住民重視の作りにした方がいいのか。どちらにも利があるし、社会にとっては急務だ。何にせよ、俺は庶民の立場でしか考えられないし、どうせ大金を投じて開発するなら、商業と居住性のバランスの取れたエリアになって欲しい。だが、それとデザイン云々はまるで無関係だろう」
「そんなことはない。町作りの基本はデザインだ。川に橋を一本架けるにしても、利便性重視か、景観との調和はどうか、デザインによって機能も印象も全く違ってくる。文化的だからといって、都心の高速道に太鼓橋を架けるバカはないだろう。いくらパースは洒落てても、派手な建物が街の景観をぶち壊すこともある。要は百年の計で役割や美観を考え、その地に適ったものを築くことだ。オレは施工管理が職務だが、エヴァの仕事ぶりを見ていると、デザインとは何かをいろいろ考えさせられる。時々、意見の相違もあるが、いい刺激になる」

<中略>

「アンビルト・アーキテクトよ。一口に『建築デザイン』といっても、みながみな、実作を前提に描いてるわけじゃない。また、実際に建設されないからといって、そのデザインが全く無価値とは限らない」
「実作されなくても、価値がある――?」
 彼は打たれたようにオキタの顔を見た。
 オキタもまた彼の顔を見返すと、
「デザインとは思想よ。そして社会愛でもある。独り善がりでも駄目だし、没個性でも意味が無い。自己と他者の間を取りながら、共生の空間を創り出す。ある意味、公共性の強い芸術といえるわね」
「こんな宙に浮いた人口都市にも社会愛が?」
「そうよ。この空中都市は現実社会に対するアンチテーゼなの。地図には国境があり、全ての物事は一方的なルールで細かく区分けされている。そんな世界に、何にも束縛されない共生の空間を創り出すとすれば、もはや中空にしか存在しない。でも、それさえも、いずれそこに住む人々によって差別され、分断されるでしょう。だから、この空中都市もボトムが溶け出しているの。要は現実社会の重力には逆らえないということ。ある意味、無力と虚のイメージね。これはあたしのコンセプトじゃないけど、制作過程は面白かったわ。メンバーそれぞれに意見が違って、あたしたち自身がお互いの重力に逆らえないようだった」
「なるほど」
「肝心なのは、精神を具象化することよ。詩人は言葉で美を語り、音楽家は旋律で心の高ぶりや静けさを表現する。建築デザインにも、線の一つ一つに主張があり、理念があるの。たとえ街角の小さなバス停でも、安全性はどうか、雨風をしのげるか、待合は快適か、電光掲示板は見やすいか、いろんな面を考慮する。たとえ作った人間の顔は見えなくても、屋根やベンチの形に作り手の思いやり、創意工夫、美意識、社会性など、様々な側面が見えるものよ。わけても、アンビルト・アーキテクトは実作に囚われず、自由に思想を表現することができる。それは時に百万の言葉より雄弁よ」

『アンビルト・アーキテクト』といえば、新国立競技場のコンペで優勝した建築家のザハ・ハディッドがきっかけで知った方も多いのではないでしょうか。
建築も、実作が前提の意匠や設計ばかりでなく、コンセプトを伝える絵としての役割も大きいです。
単純に美しさや独創性を楽しむことができて、実は非常に奥深い芸術なんですよね。
これからますますツールも発達して、より臨場感のある「絵」を楽しめるようになると思います。
それだけに競争も厳しいですが、学ぶ価値はありますヨ。

これなんか、古くなった採鉱プラットフォームに使えそうです。
洋上のプラットフォームもホテル並にアコモデーションやインフラが充実してますから、何にでも応用が可能なんですね。

Photo : Xandar city – circular building https://www.artstation.com/artwork/nZ3be

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