6-12 父の死と総決起の顛末 ~植樹を守れ

風車 オランダ

ヤンから電話を受け取ったヴァルターは、故郷の仲間が総決起し、無謀な臨海都市計画にNOを突きつけたことを知る。
有名ジャーナリストの支援もあり、復興ボランティアの活躍は全国に知れ渡り、計画に歯止めがかかる。

その過程で、ヤンは彼の父の最期を看取った人の存在を知る。
目撃情報から、父がわずか数分の差で高波に呑まれたことが分かり、彼のショックも計り知れない。

彼は茫然自失とし、ミッション前にもかかわらず放心してしまう。
それを知ったリズも動揺し、アルに「こんなことで見捨てたりしないで」と懇願する。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「コンペの後、フェールダムの再建は、メイヤーの臨海都市建設の流れで話が進んでいた。もう誰にも止められない様相だった。だが、オレもお前に言われた事をずっと考えていた。『君は仲間が汗水流して土を耕し、植樹した場所をブルドーザーで掘り返されて、本当に平気なのか?』と。基礎工事は八月初めから始まった。最初に沿海部、湖岸、次々に大型重機が乗り入れて、土砂を運んだり、枯れた樹木を伐採したり――だが、それがデンボンメルまで及んだ時、俺もデ・フローネンのメンバーも黙って見ておれなくなった。仲間を集められるだけ集めて総決起したんだ」
「総決起?」
「そうとも。あの森を潰されてまでボランティアに打ち込む意味がどこにある? 堤防も田畑も、あるべき姿に戻ってこその再建だ。そもそも、オレ達にとって再建とはなんだ。以前と変わらぬ暮らしと風景を取り戻すことじゃないか。それさえ達成できず、デ・フローネンの存続に拘るなんて本末転倒だと思ったんだ。オレたちは自治体の役員じゃない。フェールダムの住民だ。フェールダムのことは、フェールダムの住民が決める。現に一般投票で支持されたのは『緑の堤防』だろう。経済性だの、美観だの、もっともらしい理屈を並べて、フェールダムとは何の関係もない審査員が選んだ作品では断じてない。それに皆が納得し、反対運動に協力してくれた。八月二十日から二十七日にかけて植樹の前で横断幕を掲げ、重機を一歩も通さなかった。何度も作業員や現場監督と揉み合いになり、しまいには自治体の役員や警察も出動して激しくやり合ったが、それでも引かなかった。一週間、踏ん張ったよ。ちょうど夏休みで学生もたくさん協力してくれた。みな、デンボンメルの森にテントを張って泊まり込みだ。お前が居たら、もっと盛り上がっただろうにな」

<中略>

「パパに言われたの。愛を掴みたければ、もっと相手の気持ちや状況を見なさい、って。何でも正直に真心をぶつければ相手が喜ぶわけじゃないのね。私も心のどこかで自惚れていたような気がする。誰にも言わないお父さんの話も私にはしてくれる、私だけは特別だと。私にはウミガメが何を意味するかは分からない。優しさなのか、好意なのか。でも、もう一度、向き合う機会があるなら伝えたい。もっと言葉を交わしたい。どんな小さな事でも、心と心で語り合いたいと。その果てに拒まれたら、その時は潔く諦めるわ」
「トリヴィアに戻る気はないんですか?」
「これが駄目なら、次はこれ。そんな都合よく切り替えられるものじゃないわ。それに、私も自分の課題に取り組みたいの。具体的に何をするかは決めてはないけど、もう少しここに居て、身の振り方を考えるつもりよ」
 だが、エイドリアンは軽く頭を振り、
「僕はね、気付いてるくせに気付かない振りをされるのが一番傷つくんですよ。あなたは思いやりのつもりでしょうけど、それは少しも思いやりになってない。本当に僕のことを思いやってくれるなら、正面から話して下さいませんか? 目をそらしながら気遣われても、嬉しくもなんともない」
「エイドリアン……」
「もう、どうあがいても勝ち目がないのは分かりました。それこそ一生かかっても、あなたが僕に振り向いてくれることはないでしょう。あなたは少女の頃からああいうのが好みで、将来も変わらないと思います。なぜって、あなたも本質的には奔放な情熱家だから。自分で気付いてないだけです」
「そんな風に言われても、私には分からない。自分がどんな人間かなんて、今までじっくり考えた事もなかったから」
「それは僕も同じです。あなたの事も、自分の事も、本当の意味でじっくり考えたことなどなかった。思えば、あなたあっての僕でした。進路を決めるのも、アイスクリームの味を決めるのも、いつも、あなたを意識して、あなたの気を引くことしか考えなかった。でも、そんな風にしたって、何も残らない。相手に媚びるやり方では、その場の歓心は買えても、信頼も友情も得られないのだと。あなたに限らずね。あなたが違う道を歩き始めて、僕もやっと自分自身を客観的に見られるようになった気がします。大学の仲間と馬鹿騒ぎするのもこれきりにしますよ。サンロイヤル・ジェネシスを操船したところで、誰も僕のことなど仰ぎ見ない。本当に尊敬されるのは、嵐の中、小舟で病人を島に連れ帰った人の方だと身に染みたから。でも、最後に一つだけ言わせて下さい。僕のあなたへの想いは本物だ。いつもあなたを幸せにしたいと願ってきました。今もその気持ちに変わりはありません。その機会を下さるなら、いつでも応えるつもりです」

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