6-1 出航したら三日で忘れる ~恥ずかしい生き方

帆船

ヴァルターは補給線で採鉱プラットフォームに向かう途中、シャツに染み付いた香水の匂いからリズにキスしたことを思い出す。
だが、それは美しいことでも何でもない。「恥ずべき自分」を想起させるだけだった。
彼女の面影を振り切るようにして、ミッションに身を投じる。

一方、プラットフォームでは、十月十五日の本採鉱に向けて、着々と準備が進む。
マードックはパイプラックで揚鉱管の点検中だ。

マードックに重役会議で恥をかかされた経緯を愚痴ると、マードックは苦笑する。

マネージャーのダグにも嫌みを言われ、腹が立つことばかりだ。

その夜、ヴァルターはマードックと缶ビール片手に屋上で語り合う。
マードックは、ダグとガーフにも一理あることを説く。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。

「この際、はっきり言ってやる。俺とあんたとどっちに分があるかといえば、残念ながら俺の方だ。俺はあんたの気付かぬ事にも気付いて、解決策も提示できる。タヌキにしてみたら、あんたの膠着した意見より、俺の新しい視点の方が十倍面白い。タヌキに数十年の苦労を語って聞かせたところで、あの人の事業熱の前には何の意味もないことぐらい、あんたにも分かるだろ? あの人はいい人だが、根っこは誰よりも強毅で執念深い。それだけの情念があるから、辺境の海にこんなでかいプラットフォームが建つんだ。ここで長く働きたければ、俺と揉め事を起こすな。あんたの話に『うん、うん』と頷きながらも、頭の中ではきっちり査定して、いつか精算に乗り出すぞ」

<中略>

「父親同士がチームメイトだったから、ダグとガーフも実の兄弟みたいに育った。絆も深いし、考え方も似ている。能力的な話になれば、難があるのは彼らも百も承知だ。だが、上の二人ががっちりスクラムを組んで、『採鉱システムの完成』という大きな目標に挺身しているから、下もそれに続く。いくら管理能力に優れても、サラリーマン根性丸出しで、自分の利益しか頭にないようでは、下もバカバカしくなって、やる気をなくすだろう。ことプラットフォームに関しては、あの二人で正解だ。そして、あの二人をフォローする為に、僕の奥さんを総務部長に据えたのは英断だよ」
「なるほど」
「人事とは面白いものだ。能力や性格だけでは計り知れないものがある。個々は未熟でも、ペアを組めば三人分の働きをする人もあるからな。理事長はその妙をよく知っている。『拾いの神』と称されるのも、能力だけで人を判断しないからだ。お前の言う通り、あの人の本質は経営者だ。利益を上げ、事業を拡張する。ボーイスカウトの隊長みたいに、義気と仁愛だけでは到底回らないだろう。だが、一つだけ、お前は勘違いをしてる。あの人はぎりぎりのところで利益よりも義理を取るということだ。世の全ての経営者が算盤勘定だけで生きてるわけじゃない。そう信じることが、物の見方を変えるんじゃないかな」

Product Notes

マードックが手入れしていた揚鉱管(ライザーパイプ)。
水深数千メートルの規模になると、パイプの数も半端ないです。

ライザーパイプ
Photo : http://www.intgos.com/equipment/delivered-equipment

ライザーパイプ 揚鉱管
Photo : https://goo.gl/KfV8w0

採鉱プラットフォーム
Photo : https://goo.gl/tBAUeh

ウォールのPhoto : http://www.ais4ndt.com/internal-pipe-crawlers/