16-2 潜水艇の廃船と同僚との再会

深海 生物

有人潜航調査の目的も曖昧な中、ヴァルターは昔の同僚ルノーに再会する。
ウェストフィリアをめぐって、二転三転する開発公社と方針と、それに振り回されるオーシャン・リサーチ社や海洋調査会社。

一方、プロテウスが廃船になることを聞かされ、ヴァルターは複雑な思いを滲ませる。

二人は、本当にやり甲斐があった海洋調査の経験を思い返し、「生命(いのち)って不思議だな。ありきたりの表現だけど、本当にそれしか思い浮かばない」と、協力の気持ちを新たにする。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「君も聞き及んでいるかもしれないが、海洋技術センターの『プロテウス』、廃船に決まったよ」
「廃船?」
 彼は信じられないような思いで聞き返した。
「そう、廃船だ。本年度のスケジュールを消化したら解体されて、一部は新しい潜水艇に再利用される」
 数年前から噂には聞いていたが、船艇自体はまだまだ使用に耐える状態だ。有人潜水調査も徐々に減少していたが、将来的に完全にゼロになるわけではない。廃船になるとしても、もっと先の話か、あるいは部分的なバージョンアップを重ねて、十年後も、二十年後も、存続するものと思っていた。
 それがこんなに早く廃船になるとは、まさに寝耳に水だ。
「それじゃあ、新しい潜水艇を建造するのかい?」
「いや。大深度の有人潜水艇は当分造らないそうだ。少なくとも海洋技術センターでは扱わない。今後は無人機が主流になる。今、開発チームが力を入れているのは、水深一万メートルにも耐える自走式探査ロボットだ。二つのサブロボットを従えて、カメラ撮影やサンプリングを行う。宇宙探査技術の応用だよ。人間が小さな覗き窓から観察するよりはるかに鮮明で広い視野を確保できるらしい。深海での航行速度もプロテウスの数倍で、小回りも利くそうだ」
「そう……」
「皮肉な話じゃないか。海洋調査は遅々として進まないのに、宇宙探査の方はどんどん技術が進んでいく。百万光年先の惑星より、水深一万メートルの方がうんと遠いんだからな」

<中略>

「いったい、どういう流れで、オーシャン・リサーチ社が開発公社の調査に協力することになったんだ?」
「僕も詳しくは知らないけど、最初はこんな予定じゃなかったそうだ」
 ルノーは小さく溜め息をついた。
「オーシャン・リサーチ社がトリヴィア政府からオファーを受けたのは昨年六月のことだ。その時はまだ開発公社も準備段階で、事業の詳細も確定したわけではないから、あくまで『近海の基礎調査』という前提で準備を始めたらしい。島周辺の海底地形や水温、潮流、海底地質といったところだ。ところが、十月になって流れが急変し、海底熱水鉱床がどうのこうのという話になった。調査も『近海』ではなく、メテオラ海丘を中心にやれとのお達しだ。それならそうで構わないが、海底の熱水活動を精査するなら、それなりの機材とオペレーターを揃えてもらわないと困ると返答したら、そこでまた話が二転、三転し、いったん契約も切れた。それでも、やはりステラマリスから海洋の専門家に来て欲しいという依頼があり、とにもかくにも年明けに『SEATECH』と組んでマーテル海岸沖を調査することになったんだ。ところが、現場に来てみれば全く話が違う。SEATECHも高度な調査船を所有していたが、運航部も『ウェストフィリアに来るのは初めて』というスタッフが大半だし、真冬の海でろくに操船したこともない。調査はおろか、無事に航行できるかどうかも分からない状況で、開発公社は『やれ』と言うし、運航部は『できない』と突っぱねる。甲板作業で怪我人が出なかったのが不思議なくらいだよ。そういう経緯もあって、今度の調査ではノボロスキ・マリンテクノロジー社に話が行ったわけだが、その時も、プロテウスを出すか出さないかで、ずいぶん揉めた。オーシャン・リサーチ社はそこまで有人調査にこだわってない、むしろ君と同じ意見で、無人機による精査を主張していた。だが、結局、開発公社に押し切られる形になった。無人機より有人調査の方がはるかに優れているとでも思ってるのかな。君のスキルがどうこうという話じゃなくて、プロテウスを投入するのは、予備調査をしっかり行い、対象を絞り込んでからの最終段階で十分間に合うという意味だ。お金も人手もかかるからね」
「分かってる。事情を知ってる人なら、誰でもそう思う」

<中略>

「今からこんなに意気消沈してたら、調査の出来も知れてるよ。その点、ケイマン海溝は面白かったな。水深五〇〇〇メートルの海底火山で新種の生物が続々と見つかった。みなモニターに釘付けになって、調査が終わった後も興奮してた」
「俺も覚えてるよ。あんな所に、あれほどたくさんの深海生物のコロニーが存在するとは夢にも思わなかった」
「生命(いのち)って不思議だな。ありきたりの表現だけど、本当にそれしか思い浮かばない」

Product Notes

こちらはフランスの国立海洋開発研究所(IFREMER) が所有する潜水艇『Nautile』と支援船の様子です。
客船や貨物船と違って、船全体が研究施設付きのオフィスみたい。
こういう所で働いてみたいですよね。長時間、洋上に拘束されて大変だとは思いますが^^;

これナニー?? 

Nautileのその他の写真はこちら。

Sismo OFM 1992

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