10-4 人工島の海洋都市と社会の現実

ヴェニス

美しい半円形のペネロペ湾を訪れたヴァルターは、フランシス・メイヤーが設計する洋上のヴェニス『パラディオン』の建設計画が水面下で推し進められている事を知る。フェールダムであれほど強硬な反対に遭ったにもかかわらず、まったく臆することなく、ここでも同じ事をやろうとしているのに唖然とすると同時に、メイヤーの底知れぬ実力とコネクションに打ちのめされる。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「あと数年は開発ラッシュが続くだろう。問題はその後だ。果たして見込み通り金と人が集まるのか。用地でも、エネルギーでも、アステリアの資源は限られている。箱だけ増やして肝心の人が居着かなかったら、あっという間に衰退してゴーストタウンだ。ステラマリスでも類似のケースがあるだろう。優遇政策を追い風に投機的に開発を推し進めたものの、途中で情勢が悪化して、建設途中で開発がストップするケースだ。人も住まず、土地価も暴落して、巨大なスクラップだけが残る」
「どっちに傾くと思う?」
「それはウェストフィリア次第だ。あそこが天然資源の供給地になれば、ペネロペ湾が後援拠点となる。湾の南側にオールインワン型の宇宙空港と工業団地の建設が進んでいるのもその為だ。ウェストフィリアで採掘したものを半加工し、ダイレクトに輸出する」
「オールインワン型?」
「自動車道、係留施設、飛行機の発着場、倉庫などが一体となったシームレスの複合ポートだ。陸海空の輸送ラインを一本化し、コンテナの積み替えや集荷の手間を削減して効率化を図る。積荷の検査や追跡もデータ管理を一元化するので、業者間で無駄なやり取りをする必要がない。間違いや不正の防止にもなる。都市作りを一から設計しなければ出来ないことだ」
「よほど手慣れてないと難しいだろうな。それもマリンユナイテッド社が手がけたのかい?」
「違う。お前が一番よく知ってる人間だ」
 彼は弾かれたように顔を上げた。
「そう、フランシス・メイヤーだ。オールインワン・ポートとスカイタワー周辺の都市設計を請け負っている。聞いた話では、数年前からペネロペ湾開発公社に助言を行っているそうだ。ターミナルビルやスカイタワーなど、個々の建物の設計は別のデザイナーが手がけているが、ベイエリア全体の構想はメイヤーのアイデアがベースになっている。いけ好かない奴だが、製造・輸送・管理が一体化したオールインワン・ポートや、水際を活かしたスカイタワー周辺の町作りは流石という他ない。そして今、メイヤーが大手と組んで猛烈にアピールしているのが『パラディオン』だ。ペネロペ湾を埋め立て、直径七キロメートルの円環の海上都市を作り出す。『洋上のヴェニス』だ」
「洋上のヴェニス――」
「オレが目にしたパンフレットにはそう銘打ってあった。それが一番イメージしやすいからだろう。『パラディオン』は円形の浮体構造物に低層のオフィスビルや住居を建設するアイデアだ。円の内部は直線のブリッジで区画し、左右対称の美しい幾何学模様を作り出す。都市部には住居や公共施設だけでなく、発電プラント、農作物のグリーンファクトリー、機械製作所なども建設し、世界に比類なき海上コミュニティを形成するそうだ」

Product Notes

未来の建築デザインも見ていて飽きないですよね。

『絵』としては、どれも斬新で、ユニーク。

絵だけなら、どんどん描けます。

だけども、実際にそこに住み、地元の経済や社会や環境にどんな影響を与えるか……となれば、別次元の問題です。

そのあたりが個人の芸術作品との大きな違いです。

建築 未来都市
Photo : https://goo.gl/images/048o4y

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