10-1 愛と疑いは一緒に居られない 『エロスとプシュケの寓話』より

女性 森 恋愛

ヴァルターはローランド島に暮らすマックスとエヴァに再会する。
エヴァは彼を一途に思い詰めるリズの心中を察し、『恋』と『愛』の違いを説いて聞かせる。

エヴァはリズの思いを「恋しているだけ」と指摘する。

エヴァは『エロスとプシュケの寓話』になぞらえ、愛と信用の大切さを説く。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「ずいぶん自信がないのね。彼はあなたに十分真心を見せていると思うわよ」
「でも、本当に大事に思うなら、言葉にして言ってくれたり、もっと、その、いろいろと……」
「要するに、もっとデートに誘ったり、毎日『愛してるよ』と言ってくれたり、あれこれ尽くしてくれると思い込んでいるわけね。でも、それはあなたのシナリオよ。他人がそんな都合良く動くわけないじゃないの。それに彼もやっと人生をやり直す機会を得たところでしょう。心もビジー、仕事もビジーで、あなたの事も二の次になってしまうのだと思うわ。でもね、彼はあなたのことを心から大切に想ってるわよ。あなたを見る眼差しで分かるの。デザートのクレームブリュレを注文した後、あなたは中座して化粧室に行ったわね。その間にクレームブリュレが運ばれてきたのだけど、彼は自分のお皿とあなたのお皿を交換したのよ。『こっちの方がきれいに焼けて、美味しそうだから』って。あなたは化粧室から戻ってきて、美味しい、美味しいと喜んで食べていたけど、彼がお皿を交換したことに気付きもしなかったでしょう。そりゃあそうよね、私たちも気を利かせて言わなかったから。彼はそういう人なの。あなたの目に見えないところでいっぱい愛情を注いでる。きっと自分でも気付かないほどに。でも、あなたは不安と淋しさでいっぱい。彼のあなたへの眼差しは思いやりにあふれているけど、あなたの目は『恋する目』だわ。だから、その愛が見えなくて不安になるの」
「愛が……見えない?」
「断言してもいいわ。あなたは恋してるだけ。本当に愛しているのは、むしろ彼の方よ。本人はそうは思ってないでしょうけど」
 リズは信じられない思いでエヴァの顔を見つめた。
「たとえば、あなたの思い描く幸福は、彼があなたと結婚してここに定住し、名実ともにお父さまの右腕になることじゃない? 咎めてるんじゃないのよ。私があなたの立場でも、きっとそう望むわ。だけど、彼の願いはそうでなかったとしたら? それでもあなたは彼を応援することができる? たとえば、彼がステラマリスで大きな仕事のチャンスを得て、いよいよ故郷に帰るとなった時、それを心から祝福できるかということよ。あるいは迷わず彼に付いて行くか」
「……」
「厳しいことを言うようだけど、あなたはそれを肯定できるようにならないと、自分で幸せを壊してしまうような気がするわ。どんなことをしても彼を自分の側に引き留めようとして、彼が嫌がるような愚かな振る舞いをしてしまうの」

『エロス(クピド)とプシュケの寓話』はギリシャ神話の中でも有名なエピソードなので、興味のある方はぜひご一読下さい。

二人の姉に「お前の夫は怪物だ」と吹き込まれ、不安に耐えきれずに夫の姿を見てしまうプシュケ。

彼のことは信じたいけれど、「本当は愛されてないのかも」「他に交際している女性がいるのではないか」などの不安から、彼のスマホを覗いたり、上着のポケットを探ったりしてしまう行為と同じですね。

疑えば愛は消え、愛すれば疑いは消える。

ギリシャ神話の時代から、女性は不安や疑念に苦しんできたのかもしれません(また、それに振り回される男性も)。

クピドとプシュケ
Photo : http://greekmythology.wikia.com/wiki/Cupid_And_Psyche:Detailed_Version

自分の過ちに気付いたプシュケは、恋しい夫の姿を求めて彷徨しますが、エロスの母、アフロディーテ(ヴィーナス)は、自分の息子を傷つけられたことに激怒し、プシュケに無理難題を命じます。

プシュケとアフロディテ

愛の試練に打ち克ったプシュケは、再びエロスの愛を得て、神々の仲間に迎えれられます。
二人には可愛い娘が生まれ「悦び」と名付けられます。

プシュケとエロス