曙光 Morgenrood

第2章 採鉱プラットフォーム

-接続-

接続ミッション開始と潜航準備 一つ一つの航海が心の糧

Introduction

前日の雨も嘘のように晴れ上がり、海も穏やかな中、ついに接続ミッションが始まる。一度は失職したが、不思議な運の巡り合わせで再び潜水艇プロテウスを操縦する機会を得たヴァルターは、感慨も新たに、大学生のエイドリアンを伴って耐圧殻に乗り込む。
二人のミッションを心から案じるリズは、採鉱プラットフォームのサブマネージャー、ガーフィルドから接続ミッションの手順を聞いてビックリ。「それでは中の人が危険にさらされるではないか」と動揺するが、アルに諌められる。
皆が注視する中、いよいよ潜水艇が後部甲板に振り出され、潜航準備に入るが、ヴァルターとエイドリアンはまたもリズのことをめぐって口喧嘩。周りがハラハラする中、接続ミッションが始まる。

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Quote

 プロテウスは梯子付の白い作業台に固定され、重要なミッションを待っている。
 それは彼の知っている海洋調査とは異なるが、鉱業を変える世紀の瞬間だ。
 アル・マクダエルの構想が正しければ、プラットフォームによる海底鉱物資源の採掘は市場に劇的な変化をもたらす。これまでネンブロットの鉱山の地下でしか採掘されなかったニムロディウムが、完全自動化された採鉱システムによって海洋底からも回収できるようになれば、製造や流通はもちろん、鉱山労働や企業の在り方まで違ってくるだろう。そして、それはニムロディウム市場を寡占し、政治経済まで牛耳ってきたファルコン・グループの一党支配を揺るがせ、新たな潮流を生み出す。
 彼はクロムイエローの船体を見上げながら、「お前もずいぶん大きな仕事を任されたもんだ」と呟いた。
「地殻の割れ目を覗きに行くのではなく、未来を繋ぐんだからな」
 彼の脳裏に、プロテウスに出会ってから今日までの道程が懐かしく思い出される。
 運航部に配属された日、操縦士長に分厚いマニュアルをどんと積み上げられ、「一週間でマスターしろ」と言い渡された。そして、その通り、機能や構造はもちろん、配線の一本一本、ボルトの位置や種類に至るまでつぶさに記憶し、すらすら諳んじてみせると、操縦士長は目を白黒させ、すぐに操縦席に座らせてくれた。
 あれから何度潜り、何度見つけただろう。
 一つ一つの航海が心の糧だった。
 だが、それも長い人生のほんの一ページに過ぎない。
 この後も航海は続く。
 だが、今度はもう少し自然に自分を委ねられるような気がする。

   

*

 

 やがてタワーデリックの方で大きな金属音が鳴り響くと、オペレーション室のマードックから揚鉱管の海中降下の準備が整ったと連絡が入った。
 時計の針はきっかり午前八時を差している。
「OK。こちらもプラットフォームのポジションは万全だ。始めてくれ」
 チーフオフィサーのブロディ航海士が答えると、その後ろでダグとガーフィールドも目を見合わせ、「いよいよだな」と声を掛け合った。
 まず、ムーンプールのクレーンに吊り下げられた揚鉱用の水中リフトポンプがゆっくり海中に降ろされる。
 高さ四メートル、縦横六メートルの格子型メタルフレームには十二個の球状チャンバーが搭載されている。チャンバーは水圧をかけて揚鉱管に海水の循環を作りだし、管の内部を負圧にすることで海台クラストの泥漿を吸い上げる仕組みだ。
 ポンプ底部の中心には長さ一五〇メートルのフレキシブルホールが取り付けられ、その先端は重錘式のコネクターになっている。これを水深三〇〇〇メートル下で集鉱機と接続するのがプロテウスのミッションの一つだ。
 白いあぶくを上げながらリフトポンプが海中に沈むと、続いて、パイプラックに縦向きに収納されたライザーパイプがハンドリング装置のアームに一本ずつ掴まれ、タワーデリックのパイプラッキング・システムによって縦方向に高く持ち上げられる。さながら筆箱から機械の手で一本ずつ鉛筆を掴み上げるような要領だ。
 それからドリルフロアに設置された「アイアンラフネック」と呼ばれる連結装置にピストン運動のように打ち込まれ、ネジが締結される。さらに油圧シリンダーで回転力をかけて完全に締め込み、パイプの連結作業が完了する。
 一本のパイプを連結する所要時間はわずか十数秒だ。機械の流れだけ見ていると、深海に向けて細長いロケットを繰り出すようなイメージである。
 水深三〇〇〇メートルに到達するのに必要なパイプの数は約一五〇本。単純計算すれば、一時間とかからないが、適宜、作業を一旦停止して、パイプ先端の位置や深度を確認したり、それに合わせてプラットフォームのポジションを調整したり、何段階もの安全確認が行われるため、実際には倍の時間を要する。また、潜水艇や無人機の降下とタイミングを合わせる為、各部署の進行状況を見ながら抽出のペースを調整する必要もある。
 揚鉱管がリフトポンプの深さまで降下すると、一旦、ムーンプール直下で揚鉱管の先端とリフトポンプの上部を接続する作業が行われた。使用される無人機は、前回マルセルが用いた『ヴォージャ』だ。水深数十メートル下で接続が完了すると、ヴォージャは揚収され、再び揚鉱管の降下が始まる。今度は先端にリフトポンプが取り付けられている為、揚鉱管の抽出も慎重だ。

*

 プロテウスが最上位置まで吊り上げられると、フーリエから「着水させるぞ」の号令がかかり、Aフレームクレーンが海側いっぱいに降り出された。あっという間にプロテウスは海面に着水し、大きなラグビーボールのように波間に揺れる。
 操縦席の覗き窓からは大量の水泡が見え、船体の大半が海面下に沈んだことを実感する。
 続いてスイマーが船体の上部に接近し、突起金物からクレーンの索を取り外す。
 その間にも、操縦席では高度ソナー、流向流速計、放射線測定装置、温度警報装置、前方探査ソナーなどの計器を次々にONにし、フーリエに再度状況を確認する。
0 「主索が完全に外れた。スイマーも引き上げたよ。水中通話機の感度はどうだ?」
「良好だ。こちらも完全に潜航の用意ができた」
 タワーデリックのオペレーション室やブリッジの管制室でも準備万端が確認されると、フーリエから「潜入開始」の指示があり、彼はメインバラストに海水を注入する為のベント弁を全開した。これにより潜水艇の重量が増し、自然に海中に下降してゆく。
 海水が注入されると、プロテウスはあっという間に海面下に沈み、一〇メートル、二〇メートルと潜航を始めた。
 潜航速度は一分間に約四十五メートル、水深三〇〇〇メートルのティターン海台まで約一時間の行程だ。
 エイドリアンは左側の覗き窓からじっと海中の様子を見詰めている。
 三度目の潜航とはいえ、あらゆる光が吸収され、鉄球をも押し潰す超水圧が支配する深海は不気味そのものだ。だが一方で、計り知れないほどのエネルギーに満ち、もう一つの宇宙の深淵を覗き込む如くである。

   

*

 

「Herr Vőgel(フォーゲルさん)。もういい加減、心にもないことを言うのは止めましょうよ。僕はあなたより八歳年下ですけど、恋愛に関しては、あなたよりよほどまともな感性を備えているつもりです。ミス・マクダエルのことが好きなら好きでいいじゃないですか。理事長だって、時代遅れなお家主義ではありません。あなた、本音は幸せになるのが怖いんじゃないですか?」
 最後の一言は胸に突き刺さったが、
「俺は偽ってるわけでも、無理してるわけでもない。もし、お前が舵の壊れた帆船で、向こうから最新鋭の高速艇がやって来たら、愛する女はそっちに乗せるだろう。漂流すると分かって、みすみす道連れにする馬鹿がどこにいる。それから、俺は Herr Vőgel じゃなくて Menner Vőgelだ。ドイツ名でも、俺はオランダ人なんだよ」
「じゃあ、訂正します、Menner Vőgel、あなたの高速艇の話には共感しますけど、世の中には、舵の壊れた帆船でも最後まで生死を共にしたいと願う女性もいるんじゃないですか? あの人も表面はたおやかに見えるけど、いざとなれば弓矢をとって戦う人です。怒らせると、意外と怖いですよ」

*

 潜航開始から四十分が過ぎ、ガーフィールドが状況を伝える為にカンファレンステーブルの方にやって来ると、「よかったら、ミッションの段取りについて簡単に教えていただけませんか」と声をかけた。
 ガーフィールドは得意げに彼女の隣に腰掛けると、 
「我々が接続ミッションと呼んでいるプロセスは三段階あります。まず最初に集鉱機に揚鉱管のフレキシブルホースを取り付ける作業。次に水中リフトポンプと揚鉱管の接続部に歪みセンサーを取り付ける作業。最後に高電圧リアクターの電源をONにします」
「高電圧リアクターですって?」
「あくまでリアクターの電源装置をONにするだけです。採鉱システムの通電は全ての接続作業が完了してから行いますから、海中で感電することはありません」
「潜水艇はどれくらい機械に接近するのです?」
「接続作業を行う無人機『クアトロ』はプロテウスのランチャーから発進して、有索で遠隔操作をします。ケーブルの長さは二十五メートルありますが、対象を目視する為、ぎりぎりまで接近するでしょうね。五メートルか、一〇メートルか。それはパイロット次第です」
「それほど接近すれば、潜水艇が揚鉱管や集鉱機に衝突する可能性もありますね」
「その可能性は決してゼロではありませんが、確率としては非常に低いです。なぜなら、船上で常に互いの座標を確認し、慎重にナビゲートするからです。潜水艇自体にも前方探査ソナーが備わっていて、障害物を検知したら自動的に推進装置が停止したり、危険回避の行動を取るようになっています。揚鉱管や集鉱機に機体が接触するとしたら、むしろ無人機の方が可能性が高いかもしれません」
「だけど、万一、潜水艇が接触したら、感電したり、爆発するのではありませんか?」
「採鉱システムはそれほど柔じゃありません。当然のことながら、悪天候や誤操作による接触事故も計算にいれて安全対策を施しています。たとえば、揚鉱管に接続するフレキシブルホースは金属ではなく、非常に強くて柔軟性に富んだ特殊樹脂で出来ています。万一、無人機が接触しても、多少の衝撃では折れたり曲がったりしません。それにミッションで直接操作する部分はコネクターとコンソールに限られますから、全速で機体に衝突でもしない限り、人命にかかわるような大事故は起きません。というより、現在の技術では人が歩くほどの速度しか出ないんですよ。それより、海上の波力や風力の方がはるかに巨大です。深海で本当に怖いのは、船体の位置を見失うこと、船体そのもののトラブルで浮上できなくなることです」
「潜水艇に故障が生じて、自力で浮き上がることが出来なければ、どうなりますの?」
「一応、五日間は耐圧殻のライフサポートが機能しますが、それを過ぎると、まあ、どうしょうもないですな。船外から水や食料を差し入れる訳にもいきませんし、体力的には三日が限度でしょう」

*

 プロテウスが水深三〇〇〇メートルの目標位置に到達すると、マードックから連絡が入った。
「現在、集鉱機の位置はプロテウスから西に一〇〇メートルほどだ」
「フレキシブルホースの先端は?」 
「集鉱機の前方三メートルだ。ほとんど横並びになっている」
「OK。では、このままもう少し前進する」
 程なく、プロテウスのメインモニターにフレキシブルホースの先端、集鉱機、プロテウスの位置関係を示す三次元マップが現れた。音響データからリアルタイムで作成されたイメージ画像だ。さらに八〇メートルほど前進すると、右モニターにプロテウスの音響ビデオカメラが捉えた集鉱機のイメージが映し出された。
「集鉱機の背面がかなり左に向いている。もう少し左回りして、背面をこちらに向けてくれないか」
「OK。調整するよ」
 オペレーション室の集鉱機オペレーターがアンビリカブルケーブルを通じて海上から遠隔操作すると、集鉱機はのっそり左に旋回し、ポジションを整えた。
 だが、前から予測していたように、採鉱区全体が約一〇度傾斜している為、採鉱機も前方が少し持ち上がるような形になっている。だが、これ以上、機体を調整しても完全に水平になることはないだろう。 
 続いてルサルカを遠隔操作するノエ・ラルーシュから連絡が入り、
「こちらもプロテウスと集鉱機を捉えた。これから接近して投光器を向けるから、それを目標に前進してくれ」
「了解。あと一〇メートル、前に移動する」
 そうしてプロテウスが集鉱機の背面から一〇メートル手前まで接近すると、そのほぼ真上にルサルカの強力なハロゲンライトが見えた。ライトが照らし出すわずかな視界に、集鉱機の白い背面と、機体後部に接続されたアンビリカブルケーブルがはっきり目視できる。
 ヴァルターはエイドリアンの方に向き、
「今からクアトロを発進させる。俺がコントローラーでプロテウスを集鉱機の左サイドに保持するから、お前の方でクアトロを集鉱機まで接近させろ。集鉱機のアンビリカブルケーブルに絡まないよう、気を付けてな」
「了解」
 ヴァルターはエイドリアンと操縦席を変わると、レバーコントローラーと数種類のボタンが付いたコントローラーを持ってカーペットに腰を下ろした。左の覗き窓と操縦席のメインモニターで外の様子を確認しながら集鉱機の左側面に回り込み、集鉱機と同じ高さに位置を保ちながらホバリングする。
 エイドリアンはクアトロのコンソールを操作し、プロテウスの前方に取り付けられたランチャーから発進した。ケーブルに繋がれた四〇センチ四方の無人機が小さなスラスタを回転させながら、そろそろと海中を進んで行くのが見える。
 クアトロにはソナートラッキング機能があり、ソナーが捉えた目標物までの距離と方位を自動的に算出して、前進操作だけで目標物に接近することができる。またコンソールを神経質にいじらなくても、機体を常に水平に保ち、同じ深度を維持する自動操縦支援機能も備わっており、その点では「大学生でも出来る」というのは本当だ。
「もう一度、対象物の位置を確認しよう」マードックが呼びかける。
「フレキシブルホースの先端は集鉱機の真上、一〇メートルの位置にある。これから揚鉱管全体を十一メートル下げるから、先端を捉えたら合図してくれ」
 タワーデリックから再び揚鉱管がゆっくりと海中に降下され、ちょうど一〇メートル下がった時、「見えました!」とエイドリアンが叫んだ。
 クアトロの水中カメラが、フレキシブルホースの先端に取り付けられた直径三〇センチの重錘式コネクターをはっきり捉えている。
 管制室で見守るリズも、モニターに銀のコネクターがユラユラ映し出されると、ぎゅっと両手を握りしめた。
「僕もルサルカのカメラで確認した。集鉱機の接続部に届きそうか」
「やってみます」
 フレキシブルホースは柔軟性に富んだ特殊樹脂で作られ、等間隔でジャバラが施されているため、白と蛍光黄のまだらのウミヘビのように見える。
 直径三〇センチのコネクターはプラグ型、集鉱機の接続口はソケット型になっており、両側の接合パーツが組み合わさると、自動的にロックダウンされる。
 エイドリアンはクアトロをもう三メートルほど前に進め、マニピュレータの両側アームをいっぱいに伸ばすと、コネクターの上部に取り付けられたU字型のフックをグラバーでキャッチした。
 全長九メートル、幅六メートルの集鉱機はクアトロのカメラに収まりきらないが、何重にも入り組んだ配管やポンプユニット、プロテクトケージに守られた油圧装置、大小様々なスイッチと計器が配された配電盤が暗い水の中に浮かび上がって見える。そして、重機の真上には金属フランジの接続口。直径はフレキシブルホースのコネクターより一回り大きい三十六センチだ。
 エイドリアンはグラバーでコネクターを把持しながら徐々にクアトロの深度を下げ、両者の距離が五〇センチまで近づいた。
「接続する前に、もう一度接続口を確認しろ。たまに異物や堆積物が被っていることがある」
 マードックの指示を受け、ヴァルターもモニターに目を凝らして凹型の接続口を確認するが、特に異常は見られない。
「よし、接合していいぞ」
 マードックからGOサインが出ると、エイドリアンはさらにコネクターの先端を近づけ、ゆっくりアームを降ろした。それと同時に向かい合ったフランジが重なり、一見、凹凸が噛み合ったような感じだが、まだ完全に接合していない。
「少し右に回すような感じで、もう一度、ムーブダウンしてみろ」
 マードックが助言すると、エイドリアンはコネクターの先端を二〇センチほど持ち上げ、再び接続口に近づけて、少し右に回すような感じで凹部に押し込んだ。
 すると接続面が上手く噛み合ったのか、かちりと音を立てるように金属円盤が回転し、コネクターの先端が自動的に一〇センチほど内側に引き込まれた。動作が完了すると、金属フランジのグリーンランプが点灯した。
「いいぞ。接続はそれでOKだ。次にT型ピンを抜いて、安全装置を解除しろ」
 T型ピンは大人の拳ほどの大きさで、金属フランジの後方二〇センチほど離れた所に差し込まれている。エイドリアンは再びマニピュレータのアームを伸ばし、T型ピンの頭を掴むと、縦向きに回転し、ピンを抜き取った。
「よし、次はダイヤル式スイッチを『CLOSE』から『OPEN』に回せ」
 再びアームを伸ばし、T型ピンの右側にある掌ほどのダイヤルを掴むと、『OPEN』に切り替えた。
「パーフェクトだ、エイドリアン。これで揚鉱管は繋がったぞ」

*

 一〇分後、プロテウスはいったんクアトロをランチャーに回収した後、ゆっくり上昇し、ルサルカの照らす光源の下で水中リフトポンプを目視した。  リフトポンプは十二個の球状チャンバーからなるハイドロモーターで、横幅五メートル、縦二・五メートル、高さ二メートルの格子型メタルフレームの中に前後六個ずつ並んでいる。空中重量は一二〇トン、プラットフォームに設置された注水ポンプの作用により、一分間に十五立方メートルの泥漿を組み上げる力がある。  最初にルサルカが至近距離まで接近し、揚鉱管と水中ポンプのトランジション・ジョイント、ポンプ本体、ポンプ底部とフレキシブルホースを繋ぐコネクターの状態を水中カメラで確認する。 「目視でも、計器の上でも、特に異常はないようだ。そちらに問題がなければ、ストレインセンサー(歪み感知器)の取り付けを開始していいぞ」  ストレインセンサーは揚鉱管にかかる異常な圧力や衝撃を検知するスティック状の装置で、揚鉱管とリフトポンプのトラジション・ジョイントの上部に取り付ける。揚鉱管の歪み、膨張、振動、温度以上などを検知することで機械の変形・破損、システムダウンといった深刻なダメージを回避するのが目的だ。海中に降下してからセンサーを取り付けるのは、パイプが目標の深度に到達し、海中に静止した状態でインストールしなければ感知器がダメージを受けやすいからだ。 「ノエ、ルサルカの投光器をストレインセンサーにフォーカスしてくれ」  ルサルカが一メートルほど上昇し、右上方から投光器を向けると、あらかじめ揚鉱管に取り付けられている黄色いスチール製のプロテクト・ケージがはっきり目視できた。  ケージの長さは約九十センチの円筒形で、四本のスチールパイプに守られている。

   

--中略--

   

 クアトロがプロテクトケージの前まで接近すると、まず左のアームでスチールパイプの真ん中を掴み、機体を固定する。それから右のアームを機体の下方に伸ばし、工具バスケットから黄色いインストールボックスを取り出る。このボックス型ツールの中に細長いセンサーが収納されており、揚鉱管のプロテクト・ケージの中に嵌め込んで、スイッチを入れれば完了だ。
 インストールボックスの形状は真ん中が少しくびれていて、プロテクトケージの内側に取り付けられたプラスチック製のブロックとぴったり合うようになっている。彼はインストールボックスの上下を確認すると、型を合わせるようにプロテクトーケージに嵌め込んだ。同時に、ストレインセンサーの上下に取り付けられたフランジボルトが揚鉱管の金具に合わさり、両者が一体化する。
 さらに固定を完全にする為に、工具ボックスから六角形の細長いレンチを取り出すと、フランジボルトの六角形の凹みに差し込んだ。続いてグラバーの手首を右にフル回転し、フランジボルトを深く締め付けて行く。これでストレインセンサーが完全に揚鉱管に固定される。まずは上側。そして下側。


Product Notes

潜水艇の構造や潜航に関しては、ウッズホール海洋研究所の『Alvin』のドキュメンタリーが参考になると思います。

こちらはフランスの潜水艇『Nautile』の潜航の模様。このクロムイエローの船体が大好きなのです。深海にも、至る所に、雲仙や別府地獄めぐりみたいな所があるのです。
ちなみに、本作ではJAMSTECの『しんかい』の手順を参考にしています。

こちらは無人機を使った深海調査です。前半部に、無人機のオペレーションの様子が映っています。本作では「ジム・レビンソンが泥酔して、後部甲板から海に落ちた」という設定ですが、採鉱プラットフォームもこんな感じで、柵のない場所がたくさんあります。特に重機や調査機器をランチャーするあたり。

無人機(ROV)を使った海中オペレーションの模様です。参考に。

北海で稼働している石油リグ会社のプロモーションビデオです。洋上プラットフォームも一昔前は隔絶された世界でしたが、今はオンライン化で陸地のオフィスとリアルタイムに情報のやり取り、機械のモニタリングやオペレーションも現場ではなく、オフィスで完全制御になってきてますから、物理的な距離感は確実に縮まっていると思います。
私の書き方はドロ臭いので、あまり格好よく感じないかもしれませんが、実際はクールです。プロモーションビデオだから、ハリウッド風の演出も入ってますけどね

ストレインセンサーにも色んな種類がありますが、これはあくまで一例として。
水深数十メートルならともかく、数百メートル、数千メートルにもなれば、水圧の破壊力も半端ないですし、鉄パイプは真っ直ぐでも、洋上のプラットフォームと、深海底の重機の位置は必ずズレてきますから、常にポジションを垂直に保ち、なおかつ、パイプの歪みもチェックする、非常に重要なポイントです。
パイプが途中で折れるより先に、洋上のプラットフォームが引きずられて、採鉱システムが激しく損傷する危険性もあるでしょうしね。

ストレインセンサー 海中作業
Photo : https://wn.com/subsea_alloy

採鉱システム 揚鉱管

ストレインセンサー
Photo : http://goo.gl/Vjc5c4

無人機 オペレーター
Photo : http://goo.gl/7gyeja

海洋調査でも、石油リグでも、とにかく海中というのは暗い。これは撮影用に横からライトを照らしてますから、まだ明るく見えますが、それでも数メートル先が闇なのは変わりません。加えて、海中の浮遊物(プランクトンや舞い上がった堆積物)も多いですから、視界は非常に悪い。場合によっては、魚が機材に絡んでくることもあります。(それをROVが救出するビデオも見たことがあります)
技術も日々進歩していますので、数十年後にはもっと性能の良いライトやカメラが登場するでしょうけど、それでも「暗闇の作業」は変わらないと思います。

水中無人機
Photo : https://goo.gl/R8Wd9j

海外では女性も洋上プラットフォームで技術者として働いています。一生ものの技能職です。

採鉱プラットフォーム
Photo : http://www.oceaneering.com/rovs/rov-personnel-and-training/

ライザーパイプ(本作では揚鉱管)のオペレーションを紹介するビデオです。CGアニメーションですが、イメージの手助けに。

水深3000メートルの海底に到達する『揚鉱管』のイメージはこんな感じです。山より距離的に長いわけですから、技術的にどうよ、という話です。

日本にはオイルリグはありませんから、それを専門とするオペレーション業者もメーカーも目立ちませんが(プラットフォームの設計・建造を受けたり、部品を作っている企業はあります)、海底油田やガスの採掘をやっている国や企業では、オペレーティングや部品製造が一大産業になっています。

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