曙光 Morgenrood

第4章 ウェストフィリア

-二回目の潜航-

写真の改竄と科学者の良心 カメラは真実を知る

Introduction

少しずつ調査スタッフが打ち解ける中、にファルコン・マイニング社のロバート・ファーラーが視察にやって来る。科学調査の意義や公益をまるで理解しないファーラーの態度に怒りを覚えながらも、ヴァルターは冷静に話し合いに応じる。調査の行方も、突破口も見えない中、元同僚で、画像解析も得意とするルノーが興味深いことを指摘する。オリアナの提示した写真が改竄されているというのだ。コンチネンタル号座礁事件の裏側も、ローガン・マクダエルの不審死も、真相がまったく見えない中、調査スタッフは懸命にデータ収集に励むが、ファーラーが突きつけたのはとんでもない要求だった。


Quote

 プロテウスが潜水を始めると、ステラマリスと似た海中の様子に目を凝らしながら、「オーシャン・リサーチがソロモン・プロジェクトの海底熱水鉱床の探査に協力したのは六十年以上前なんだがね」と苦笑する。
「まさか、こんな所でもやってるとは思わなかった。ローレンシア海域の海台クラストというのはステラマリスのマンガンクラストと似たような感じかい?」
「そうですね。同じように黒色で、大小様々な粒子が含まれているものもあれば、薄いクラストが何層にも重なって、石の年輪みたいな外観を呈しているのもあります。でも、大きな違いは一目でそれと分かる金属光沢があることですね」
「それがニムロディウム?」
「複数の金属が混じっているんです。マンガンクラストのように海水中の金属成分が沈殿して凝集したと言われていますが、詳しいことは何も分かっていません。そもそも、なぜアステリアの地殻の大半が海面下に存在するのか、かつては広大な陸地が存在したのか否かも全く分かっていません」
「どうして研究しないんだ?」
「助成金も出ないし、設備もない。トリヴィアの国立研究所にサンプルを最良の状態で持ち帰るだけでも大変だからです」
「もったいない話だね。目の前に生命誕生や環境変異の謎を解く鍵があるかもしれないのに。学究的探求には目もくれず宝探しか」
「それも、ウェストフィリアの資源開発に成功して、アステリア全体が豊かになれば、学術調査にも弾みがつくのかもしれません」 「まったく、『金、金、金』だな。金がなければ、調査船も出ない。正規の研究が日の目を見るかどうかもスポンサー次第だ。案外、天体望遠鏡一つで研究に集中できた時代の方が科学者にとっては幸せだったんじゃないかと思うこともある」

*

 いったんカルデラ底に着底すると、しばらく周りを観察した後、海上チームと連絡を取りながら、音波探査で水温上昇が見られた第五マウンドに向かう。昨日調査した北側と同じく、この辺りの岩盤もかなり黒っぽい。海底面にも凹凸があり、数センチから十数センチの礫岩があちこちに転がっている。
 地下からの熱水の噴出を示唆するデータは、SEATECH社が所有する自律式無人探査機のサイドスキャンソナーによって得られた。探査機から発せられた音響が海底で反射する時、海底面の地形や、岩や砂の性質などによって、反射の強度が異なる。それをソフトウェアで解析し、強度に応じて色分けしたり、立体的に描画することで、海底面の微細な地形の変化や底質の違い(岩礁、砂、泥など)、熱水噴出によって生じる海水の変化などを視覚的に捉えることができる。この探査法は、沈没船の発見や魚礁の確認などにも効果を上げており、解析プログラムもどんどん進化している。
 今回、音響データから熱水噴出のイメージ画像を描出したのはルノーだ。解析プログラムが描き出すイメージは、音響の反射率が高い部分(堅い岩盤など)を薄黄色、反射強度が弱い部分(海水など)をダークオレンジの濃淡で描き分けている。画像では細かな地形を把握するのが精一杯で、表面の細かな色形や岩石質までは分からないしかし、岩盤の隙間から立ち上る熱水の存在は、湯気のように揺らめく陰影ではっきりと見て取れる。計測ポイントが正確ならば、かなりの確率で目視することが出来るだろう。
 やがてナビゲーションスタッフから目標位置に到達したことを告げると、彼はイヴァンに着底するよう指示した。微細な堆積物がほのかに舞い上がる中、覗き窓の外にじっと目を凝らすと前方に黒ずんだ岩の斜面が見える。操縦席のリアルタイム解析モニターにもマウンド状の海底地形図が映し出され、間違いなく目標の第五マウンドの麓に着底したようだ。
「データ上では三〇メートル先に熱水の湧き出すポイントがある。まずはそこにアクセスしよう」
 サンチェス博士が言うと、イヴァンは数十センチほど浮上して、鍾乳石のようなマウンドに接近する。
 ハロゲンライトに照らし出されたマウンドの斜面は、基底部は黒いが、上に行くほど表面が白い鍾乳石に覆われたみたいにゴツゴツして、所々、黄白色に変色した箇所が認められる。こうした色の変化は音響分析データには現れず、目視の重要性が問われる所以だ。さらに左方に移動すると、白い沈殿物の隙間からポコポコと気泡が立っているが目に入る。このマウンドに活発な熱水活動が存在するのは明らかで、音響分析データに認められた「陰影」が次第に現実味を帯びてくる。
 操縦するイヴァンも窓の外の光景に見入っているのか、ふと前方に軽い衝撃を感じ、プロテウスが斜面にぶつかったことを認識する。

*

 加えて腹立たしいのは、開発公社の内部にも、企業責任だの、説明義務だのに同調している者がいることだ。先日も開発公社の理事や幹部の数名が区政の代表者を交えてあの小娘と意見交換し、「アステリアで産業活動するなら区民の理解と協力を得ることは不可欠」と公言したとも聞く。色爺いどもが、ジャンヌ・ダルク気取りの小娘に鼻の下を伸ばす様が目に浮かぶようだ。
 今からでも広報部に圧力をかけて止めさせたいが、開発公社においてはロバート・ファーラーも理事の一人に過ぎない。理事会にはGPオイルやスタットガスなど、エネルギー業界の重鎮が名を連ねているだけに、ファーラー一人が睨みを利かすわけにもゆかず、たかが個人のウェブサイトに目くじらを立てていることが知れたら、かえって沽券にかかわる。
 だからといって、彼らの好きにさせておけば、労働組合や環境保護団体を増長することにもなりかねず、その対策費もバカにならない。奴らときたら、ろくに鉱業も知らないくせに、ちょいと労働者の居住区から有害な成分が検出されただけで、鬼の首でも取ったように騒ぎ立て、学者が論理的に事情を説明しようとしても、陰謀論で一蹴してしまう。そのくせ最新式のモバイル端末が売りに出されたら、いの一番に買いに走り、自らが鉱業問題の一端を担っているなど考えもしない。この上に、ウェストフィリアでも悪徳代官のように糾弾されたら、父の代とは違って、温厚路線で名誉を取り戻そうとしているファーラーの企図も水泡に帰す。
 ロバート・ファーラーは苦々しく息を吐くと、いつものように高級ビロード仕立ての紺のジュエリーケースを取り出した。青い貴石(ブルーディアナイト)を取り上げ、船窓から差し込む日の光にかざしてみると、陰気なウェストフィリアの空の下でも煌めくような六条の星彩効果(アステリズム)を浮かび上がらせる。それが人工照明の下では愛らしいピンクパープルに色合いを変えるのだから、まったく自然の妙としか言い様がない。
 さらに素晴らしいのは、純度九九・九九パーセントのニムロディウムから構成される針状結晶だ。酸化もせず、硫化物でもなく、まるで宇宙の精霊のように青い石の中に閉じ込められている。神秘的な輝きを見る度、このところずっと伸び悩んでいる人工宝石の事業が否応でも頭に浮かぶ。
 ファルコン・マイニング社がマニュエル&マクローリンと資本・技術提携したのは一五五年のことだ。マニュエル&マクローリンは若い女性をターゲットとしたイメージ戦略で売り上げを伸ばし、ファッションジュエリーの代名詞として絶大な人気を誇ってきた。
 しかし、裏で流通している加工宝石を正規品に紛れ込ませるのが年々難しくなり、闇業者も彼らの弱みを知って、ここぞとばかり高額のコミッションを要求してくる。それもこれも、あの女狐、ダナ・マクダエルが宝石協会のスポンサーになり、女性客の啓蒙のみならず、悪徳業者の取り締まりにも乗り出したからだ。
「ジュエリーは宝石協会の正規加盟店で購入しましょう」
「本物のジュエリーを見る目を養いましょう」
「合成宝石や加工宝石の偽保証書や不正価格に気をつけて」
 近頃は、マニュエル&マクローリンに対し、「これは模造品ではないか」というクレームを入れる客も後を絶たず、イメージ回復の宣伝費やカスタマーサービスの対策費も馬鹿にならない。なんでもかんでも模造と騒ぎ立てる消費者に、天然石に色彩の改善を目的とした加熱や放射線照射、ワックス処理などを施すのは合法であり、採掘の人件費やカッティング等の費用を含めばこの値段は適正だと何度説明しても、「詐欺だ」とヒステリックにわめき散らし、すぐに消費者団体に駆け込んで問題を大きくする。
 ここ数年はマニュエル&マクローリンのクリスマスセールに女性が殺到することもなく、「小さくても、天然石」を持つことがお洒落になりつつある。一部では、自分で原石を購入し、名指しの研磨士にカッティングさせる『オリジナル・ジュエリー』がステータスになっているとか。この世に一〇〇パーセント天然の宝石など、それこそ希有であり、装飾品にふさわしい色艶を醸し出すには「良心的な加工」は必須なのに、加工は悪と決めつけ、「天然」というただ一点に拘る正義派気取りの馬鹿女ども。
 それもこれも、あの女狐が啓蒙キャンペーンなど仕掛けるからだ。宝石協会からはずいぶん受けがいいが、あんなものは正義を語った営業妨害に他ならない。啓蒙キャンペーンも、かえって無知な消費者を増やしただけで、昔からまっとうな加工技術で美しい宝石を市場に送り出してきたメーカーが変に誤解される要因にもなっている。

   

*

   

「今、君と道徳について語り合っている暇はない。私も多忙な身でね。手短に話そう。思うに、君は少々独善的で、誤った価値観に取り付かれている。その事をもう少し自覚してもらえないかね」
「誤った価値観?」
「企業には企業の方針があり、何を為すべきかは企業のトップが考える。経営権も地位もない人間にあれこれ口を挟む筋合いはない。まして君は行政の責任者ではないし、アステリアの区民でもない。いったい、どんな権限があってウェストフィリア開発に首を突っ込むのかね」
「それは、あんた達が本来やるべき事をやろうとしないからだよ。俺もここに来るまでは一方的に物を見てた。だが、先入観を抜きにすれば、ウェストフィリア開発にも意義があると思い始めている。万人の役に立つと分かれば、人々も協力するだろう。同じ取り組むなら、正しい方向を目指して欲しい」
「だから、それが独善的だと言ってるのだ。正しいか、正しくないかは、我々が判断することだ。君が決めることじゃない。まして我々の代わりに広報してくれなどと、誰も頼んでない」
「俺一人が声を上げてるわけじゃない。社会の在り方に疑問を感じ、情報共有や企業説明の必要性を訴えている人は他にも大勢いる」
「だったら、なおさら事前に話し合いを持つべきだと思わないかね」
「問い合わせなら何度もしたさ。開発公社だけでなく、区政の窓口や海洋調査の関係者にも。それから、もう一人のミス・マクダエルにも、開発公社の担当者と話をさせて欲しいと何度もお願いした。話し合いに応じなかったのはそっちだろう。俺もオーシャン・ポータルを使って、あんた達の悪口を書き立てようなど微塵も考えてない。単なる絵日記だよ。調査の模様やウェストフィリアの風景を写真とテキストで綴る。ウェストフィリアがどんな所で、海洋調査には何が必要か、何をどんな風に調べるのか、一般にも親しみやすい形で紹介するだけだ」
「そして、無知な大衆を扇動するのが君の得意技だ。お得意の詩的な言い回しで、権威に噛み付き、有名人をこき下ろすことに快感を得ている。だが、そんなものはただの怨念だ。正義でもなんでもない。天下のファルコン・マイニング社に頭を下げさせれば、自分も大物になった気がするだけだろう」
「俺はそこまでさもしい人間じゃない」
「じゃあ、正義の人か」
「俺はただ、父が生きていたら『きっとこうしただろう』と思うことを実践しているだけだ」
「その父親が間違いだったら?」
「父が間違いかどうかは関係ない。俺がどう解釈するかの問題だ」
「もはや信仰だな。だが、そういう事は自分の中だけに留めておけばどうだ? 我々には我々のルールがあり、仕組みがある。君などに到底、理解できる話ではない」
「俺はあんたたちの社会やルールを根こそぎ変えようというわけじゃない。あんたの商売を妨害する気もなければ、横取りする気もない。俺はただ、一般人にも海洋調査や情報共有の重要性を理解してもらい、可能性に満ちた社会を作って欲しいと願ってるだけだ」
「結果的に我々の商売の邪魔になるなら同じことじゃないかね」
「なぜ一方的に邪魔と決めつける? もしかしたら、開発公社の活動にもプラスになるかもしれないのに」
「我々にどんな得があると言うんだね」
「理解が深まれば、人材と技術が育つ」
「理想論だ。海洋調査や情報共有の重要性を理解したところで、社会は何も変わらない」
「どうして? 会社の基本だろ? まさか、あんた一人で探鉱から製錬までやるわけじゃなし、人を使うなら、人を育てるのは当然じゃないか」
「世の中、真面目で、勤勉な人間ばかりではない。人並に給料をやっても、あわよくば、楽してさぼろうという働き手が大半だ。そんな連中に立派な理念を説いて聞かせても、明日の朝にはきれいさっぱり忘れている。期待する方が無駄というものだ。正直、会社というものは、一握りの秀才がいれば十分に事足りる。あとは決められた事を決められた通りにこなすだけでいい。この世の八割の人間は切り捨てるぐらいの気持ちでないと、とてもじゃないが経営など成り立たない」
「それが、あんたの会社で働いている従業員に対する気持ち?」
「彼らには人並みに暮らせるだけの給料をやっている。その人件費も、突き詰めれば、捻出しているのは、このわたしだ。一生感謝されてもいいぐらいだ」
「給料が全てじゃない」
「全てさ。それ以上に、会社に何を望む? 社長に頭を撫でられたら満足するとでも? 賞状か金一封か、どちらか選べと言われたら、九十九パーセントは後者を選ぶだろう。そして、わたしは九十九パーセントが満足するだけの給金を与えている。本当にマイニング社が悪徳企業というなら、なぜ彼らは辞めない? よそへ行っても、それ以上のものは得られないからだろう。つまり、そういうことだ。悪の手先と言われようと、従業員の大半は名誉より給料を選ぶ。わたしはその現実を理解し、合理的にやっているだけの話だよ。人材だの、技術だのは、報酬に付いてくるものさ。理念じゃない」
「だったら、あんたの会社が悪徳企業と呼ばれ、それが売り上げにも響いているのはどういう訳だい。金が全ての人間が寄り集まっているから、MIGにも技術で出し抜かれたんだろう。仮に採鉱量が減って、給与にも響けば、今までおべんちゃらを口にしていた重役も、蜘蛛の子を散らしたように逃げるだろう。我が身を捧げて会社を建て直そうなど夢にも思わない。いったい、あんたの会社に『わたしはマイニング社で働いています』と胸を張って答えられる従業員がどれだけいるんだ? 自分まで産業廃棄物の垂れ流しに荷担しているように見られて、肩身の狭い想いをしている人も多いんじゃないか。あんた、社員にそんな想いをさせて、恥ずかしくないのか? 採鉱プラットフォームでは、司厨部の下働きでもどこか誇りを持っていた。自分はアル・マクダエル理事長の下で働いている、世界があっと驚くようなプロジェクトの一端を担っているという自負だ。だが、マイニング社ではどれほど真面目に勤めても、世間に冷たい目で見られるだけだ。それでも会社にしがみつくのは、とおに家のローンを組んで、身動きがとれないだけだろう。そんな従業員があんたや会社に一生感謝するとでも?」
「自分の仕事に対する誇りは個人の責任だ。わたしが与えるものではない」
「だとしても、従業員に対する社会の評価は社長の責任だろ」
「どういう意味だね」
「俺が初めて採鉱プラットフォームを訪れた時、理事長が通りかかると、誰もが作業の手を止めて会釈した。中には、わざわざヘルメットを脱いで挨拶する人もあった。何も聞かなくても、皆この職場が好きで、それぞれの任務に誇りをもって取り組んでいる様子が窺えた。あんた、鉱区に顔を出しても、誰一人、会釈なんかしないだろう。いつもボディガードで脇を固めて、防弾ガラス付の後部座席で亀みたいに首をすくめて視察してるんじゃないか? そんなので社長をやって楽しいか? 陰で憎まれ、蔑まれ、力で不満を押さえつけるのがあんたの人生か? やろうと思えば、今からでも方向転換はできる。少しでも改める勇気を持てば、世間は拍手喝采であんたを称えるだろう」
「君の理屈で企業が回るなら、みなビジネススクールではなく、教会に行くだろうな」
「だが、現実的な話、あんたの会社は技術でも信用でも、完全にMIGに負けてるじゃないか」

*

 午後三時、自律型深海探査機『メビウス』が回収されると、早速コンピュータルームでデータ解析が始まった。ルノーが指摘した通り、南の麓には大小様々なマウンドが存在し、なだらかな北東西とは全く様相が異なる。しかもマウンドの幾つかは天辺にスープ皿のような窪みを有し、何かが流れ出たような跡がくっきり残っている。
 ルノーは別のモニターを指さすと、「この下、やはり間隙がありますね」と皆に注意を促した。
 サブモニターに映し出された地層分析データは、メビウスの船底に取り付けられた発信器から海底に向けて音波を発信し、その反射の強弱から、海底下の層状構造を識別する。白黒で描出された画像を分かりやすく色づけしているが、点描のようなデータを読み取るには相応の知識と経験が必要だ。また発信された音波が幾重にも反射したり、地質や地形によっては解像度が変化することもあり、どこまで正しい結果が得られるかは条件にも依る。
 それでも、マウンド群の地下数メートル、幅二十五メートルにわたって他の場所とは異なる層状の陰があるのは確かだ。
 ルノーは画像の角度を変えながら、皆に分かりやすいように説明する。
「音波が多重に反射して、間隙があるように見えるだけかもしれませんが、もし、そうだとしても、こんな風に幅二十五メートルだけ特異的に現れることはないと思います。また別の音響分析データにおいて、このマウンド群の随所で『周囲より温度の高い何か』が確認されている事を考えても、海底下に何かが存在する可能性は高いのではないでしょうか」
 彼も不思議な陰影を食い入るように見詰め、カルデラ底のドームと海底温泉に考えを巡らせた。海底下の岩盤の隙間に海底温泉をたたえたような構造があるとは想像しにくいが、ここはステラマリスとは違う。全く異なる機序が働いていても不思議はない。これだけのデータで断言するのは難しいが、カルデラ底よりはるかにユニークなのは確かだ。
「どうする? 明日も予定通りカルデラ底に潜航するか?」
 一人が口にすると、他の数名も顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
「研究員としては、こっちの方が興味あるな」
「プロテウスでカルデラ底を潜航しながら、南のマウンド群にもう一度メビウスを降ろせないか」
「それはさすがに甲板部が泣くよ。彼らも一昨日から不眠不休だ。その上、プロテウスの準備も重なれば、負担が大きすぎる」
 いろんな意見が飛び交う中、ルノーが言った。
「潜航のチャンスは明日と明後日の二回です。だけども、明日は悪天候で中止になる可能性が高い。『あと一回』とするなら、可能性の高い方を選ぶべきでは? カルデラ底はいつでも無人機で精査できますが、プロテウスはそう簡単に出せません。それに、数メートルおきにマウンドが存在するような複雑な地形では、自律型の無人機だと逆に制御しにくいと聞いています。たとえば、こういうマウンドとマウンドの谷間、メビウスだと上方からしか観察できませんが、プロテウスなら間隙に入り、側面や基底部を目視することができます」


Product Notes

こちらは国立海洋開発研究所(IFREMER) が所有する潜水艇Nautileがガラパゴス諸島の熱水噴出孔を調査する模様です。熱水がわき出す周囲にモロモロ、フワフワ

こちらはアメリカ・ウッズホール海洋研究所の『Alvin』。

こちらはアメリカのNOAAのフォトアルバムから。

調査機器の海中降下。
arct0217

これは多分、海底堆積物の採取です。
expl0396

女性整備士も活躍。
ship1079

深海の不思議な生き物。
expl2248

      B! 

Kindle Store

Amazonにて販売中。kinde unlimitedなら読み放題です。