14-5 資源開発・地元の期待とバランス

南極

厳冬期の海洋調査に備え、防寒具を買い出しに出掛けたヴァルターは、「こんな衣料品店でも、ウェストフィリア開発に対する期待は高い」「長期間泊まり込んでも調べたい科学者は大勢いる」と聞かされる。

やはり実況は「非常識」で「無謀」な試みなのか。
再び揺れる彼の元にリズが訪ねてくる。
産業見本市のイベントで、開発公社の関係者と直に話したリズは、皆が皆、マイニング社寄りの考えではなく、新規事業を切り開きたいと願っている向きもあることを説明し、彼の方向性は決して間違ってないと励ます。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。

「それでも聞いた話とずいぶん違う。オーシャン・ポータルも、ウェストフィリアの広報も、やるだけ無駄で非常識かと思ってた」
「そんなことはないわ。鉱山会社やエネルギー会社に限らず、新規事業の可能性を探っている企業も少なくないのよ。中には、お金を払ってでも詳しい現地情報を得たい人もいるでしょう。これから調査を重ね、正確なデータに基づいて情報発信することは決して無駄ではないわ」
「そうかな」
「もちろんよ。ウェストフィリアに限らず、創設されたばかりの経済特区が現地の気候や暮らしや情勢などを詳しく紹介して、世界中の企業や投資家にPRするのは基本中の基本でしょう。ウェストフィリアの場合、それこそ未知の領域だもの。未曾有の可能性があるなら、尚更、正しい情報を広報するべきだと思うわ」
「……やっぱり、そうだよな」
「それでね。海洋調査の実況だけど、ローレル・インスティテュートの遠隔教育システムを利用してはどうかしら」
「遠隔教育システム?」
「アステリアに暮らす子弟もトリヴィアと同等の教育が受けられるよう、ローレル・インスティテュート基金が中心となって整備したオンライン教育システムよ。遠隔教育システムを使えば、自宅でも、教室でも、図書館でも、何所でもトリヴィアの学校の授業を聞くことができるし、先生とマンツーマンで指導も受けられる。教科書や資料の共有、オンラインフォーラムやゼミへの参加、デジタル図書館の利用など、使える機能も幅広いわ。この遠隔教育システムの一番の特徴は、パソコンやモバイル端末など、通信可能なデバイスが一台あれば、専用ネットワークを利用して自ら講義ができることなの。もちろん、有料の講義を開くには管理委員会の許可が要るけども、学生が研究発表したり、講師が勉強会を開いたり、ワーキンググループが有志を募ったりするのは自由で、学術目的であれば、ほとんど制約はないわ。もし、あなたが潜水艇から実況したければ、支援船の通信機能を利用して、『講義』という形で発信することが可能なはずよ」

<中略>

「至れり尽くせりだね」
「当然よ。皆の将来がかかってるんですもの。のんびり構えてなどおれないわ」
「皆の将来?」
「そうよ。私も、初めてウェストフィリア開発の話を聞いた時は、ファルコン・マイニング社が噛んでいるというだけで厭悪しか感じなかったけど、今日、参画企業の代表と話して、皆が皆、マイニング社寄りの考えを持っているわけではないと確信したの。アステリアが発展すれば、いずれエネルギーや原料不足に直面するのは明らかだし、ネンブロット以外に資源供給地を求めているのは何処も同じ。むしろファルコン・グループに近い位置にある企業ほど共倒れを恐れて、独自路線を開きたい意向が強いかもしれない。ファルコン・グループも、ここまで企業としての悪評が高まれば、第二、第三のネンブロットを作るどころではなくなるでしょう。私たちも、もっとニュートラルな視点で考えるべきかもしれない。企業同士で戦争してるわけじゃないのだから」
「それでいいと思うよ。君まで先代の諍いを継承することはない。協力できる部分は協力し、譲歩できる部分は譲歩して、フレキシブルな活動を心がけたらいい。その方が人々も安心する」
「私がこういう見方が出来るようになったのも、私利私欲を離れて、一所懸命に働きかけるあなたの姿があったからよ。何もかも、あなたのおかげよ」

Product Notes

ネタばれです。

「ウェストフィリア」はここをモデルにしています。

http://www.56thparallel.com/kamchatka-critters-and-craters/

ダイナミックな火山。雄大な河。不可思議な風景。目される豊富な天然資源。

カムチャッカ アイスケーブ

カムチャッカ

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