14-2 資源開発の意義と社会の需要

イエローストーン

ヴァルターは深海調査の是非を問うために整備工場のフーリエを訪ねる。
開発公社の横暴は予備調査の段階から始まっており、フーリエもまた強引な深海調査のオファーに疑問を感じていた。

一方で、ウェストフィリアの資源開発に対する地元の期待も大きい。
フーリエも「以前から天然資源の宝庫と目されている。今は道路も港もないが、インフラの整ったベースキャンプを設営し、内地にも機材や専門家を送り込めるようになれば、いろんな発見があるはずだ」「だから『何か』あるんだよ。ウェストフィリアにしか存在しない『何か』だ。ニムロイド鉱石に匹敵する高品位の鉱物、非常に希少価値の高い金属鉱床、宝石、あるいは未知の鉱物とかな」と開発公社の思惑を探る。

それでも安全性や公益を主張するヴァルターに、フーリエは諭す。
「それが正論だということぐらい、誰でも知ってる。正しい事が正しいように行われる世の中なら、誰も苦労はしない」

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「まずは、おさらいと行こう。ウェストフィリア島は、北緯六〇度から七〇度にかけて南北に細長く伸びる、アステリアで二番目に大きな島だ。最長一二九二キロメートル、平均幅四〇キロメートル、東西の最大幅三六五キロメートル、中央が膨らんだ紡錘状をしている。面積は四十七万平方キロメートル、ローレンシア島の約七八〇倍だ。ローランド島からの距離は約三五〇〇キロメートルだから、カーネリアンⅡ号だと移動に六〇時間ほどかかる。ウェストフィリア諸島は海底山脈から連なる火山帯の一部で、島の数は大小合わせて五六個、ウェストフィリア島の南端部から沖合三三三キロメートルにかけて、ネックレスのように連なっている。いずれも海底から這い上るような断崖に囲まれた奇岩の列だ。この険しい地形はウェストフィリア島も同様で、島の大半が険しい山地で占められている。特筆すべきは、島の東端に連なるマグナマテル山脈だ。標高二〇〇〇メートル級の山々が海岸線に沿って壁のようにそびえ立っている。最高峰は四三〇〇メートルのマグナマテル火山だ。こいつは二十六年前に大噴火を起こし、山頂の三分の一が吹っ飛んだ。火山灰の高さは上空一万メートルに達し、麓を流れるマーテル河と周囲の海岸は大量の火砕物で埋め尽くされた。それ以前の標高は五〇〇〇メートルだったそうだよ。これだけ地殻活動が盛んなら、珍しい鉱物の一つや二つ、見つかっても不思議ではない。実際、無人航空機が撮影した上空写真では間欠泉やガス噴出孔、岩盤の変色帯など、興味深い現象が多数確認されているそうだ」
「じゃあ、彼らの狙いはニムロディウムに限った訳ではないんだな」
「以前から天然資源の宝庫と目されている。今は道路も港もないが、インフラの整ったベースキャンプを設営し、内地にも機材や専門家を送り込めるようになれば、いろんな発見があるはずだ」
「だが、それなら、ネンブロットでも十分間に合うんじゃないか。まだ人の手の入ってないエリアがたくさんあると聞いてるし、インフラも何もないウェストフィリアを一から探査するより、すでに鉱区として開かれているネンブロットで探鉱に取り組む方が技術的にも商業的にもはるかに効率的だ」
「だから『何か』あるんだよ。ウェストフィリアにしか存在しない『何か』だ。ニムロイド鉱石に匹敵する高品位の鉱物、非常に希少価値の高い金属鉱床、宝石、あるいは未知の鉱物とかな」

<中略>

「だとしても、商業的に採算が合うのかね。たとえ有望な鉱床が見つかったとしても、厳冬期の操業は困難だし、インフラを築くだけでも大仕事だ。輸送コストだけでも馬鹿にならないだろう」
「それは採れる鉱石の質にもよるさ。同じ一〇トンでも、鉄鉱石の一〇トンと、白金の一〇トンでは市場価値が全く違う。『もしも』だよ、ウェストフィリアから、従来の希少金属とは比べものにならないようなものが見つかったら、巨額の資本を投じても採鉱する価値がある。二〇〇年前、ニムロディウムが宇宙航空産業で実用化され始めた時、ニムロイド鉱石があり得ないほどの高値で取引されたのと同じ理屈だ。それに一度インフラが整えば、二の手、三の手で事業も拡張できる。ウェストフィリアが鉱物資源の宝庫で、学術的にも非常に興味深い場所であることに変わりないからな」
「だが、なぜ今頃になって動き出す?」
「オレにも詳しい経緯は分からない。だが、ファルコン・マイニング社が焦ってるのは確かだよ。ニムロデ鉱山から産出されるニムロイド鉱石は、生産量も品質も落ちる一方だし、いくつかの採鉱場は稼働率が五〇パーセントを切って、閉鎖寸前まで追い込まれている。その上、精製技術も発達して、ニムロデ鉱山以外で採れる低品位の鉱石からも高純度のニムロディウムを製錬できるようになった。それに鉱業局の体質もここ二十年ほどで劇的に変わって、以前のような『口利き』『袖の下』も通用しなくなっている。おまけに、汚染水の垂れ流しや廃棄物の違法投棄、過酷な労働問題を放置してきたせいで世間の目も厳しい。それに労働環境の改善によって賃金は引き上げられ、鉱業病の対策費も企業が一部負担することが義務づけられてから、雇用にもコストがかかるようになったし、『闇の手配師』による違法就労や不法滞在者の取り締まりも厳しくなる一方だ。こうした鉱区維持費の負担増加に加えて、ニムロイド鉱石の品質低下と産出量減少のダブルパンチで、マイニング社もいよいよ尻に火がつき始めたんだよ。MIGとは技術力で明らかに差を付けられたファルコン・スチール社ともども、な」

Product Notes

海底鉱物資源の調査については、こちらの動画が参考になるかと思います。
地球の海洋の場合、そのポテンシャルに注目が集まる一方、生命圏に悪影響を及ぼし、自然環境を破壊するのではないかという懸念があります。
小説は架空の舞台で、「海洋に生物はない」という前提で話が進んでいますけども。

一方では着々と調査が進んでおり、もしかしたら、遠い将来にはこうした採鉱システムを目にするかもしれませんが、どうなりますか。

海底鉱物資源 マップ
Photo : http://www.downtoearth.org.in/coverage/mining-at-deep-sea-46049

こちらの記事も興味深いです。

環境保全、領海問題、安全、等々、クリアすべきハードルは高いです。

http://five-oceans.co/the-issue-with-seabed-mining/