14-1 深海調査のオファー 海底鉱物資源を探せ

アイスランド

ウェストフィリア開発公社は本格的な資源探査に向けて近海の海洋資源調査を企画する。
マイニング・リサーチ社に勤めるオリアナは、開発公社の代理人としてエンタープライズ社を訪れ、ヴァルターに有人潜水艇プロテウスを使った深海調査の助力を申し入れる。
ヴァルターはオリアナとマイニング社への反発から「分野が違う」と突っぱねるが、ウェストフィリアのダイナミックな自然には魅了される。

新米のパイロットをいきなり深海調査に駆り出す姿勢に疑問を呈し、ヴァルターは無人探査機の使用を促す。

そこで、深海調査に協力する条件として、深海調査の実況と、ウェストフィリアに関する情報共有を要求する。
だが、オリアナは企業機密に関わることだと首を縦に振らない。

オリアナは捨て台詞を吐き、ヴァルターも釈然としないまま、いったん交渉を終える。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「私たちとしては、ここがネンブロットの二の舞にならないよう願うばかりね。ファルコン・グループも表向きは民間企業だけれど、政財界に隠然たる力を振るい、税制や法律さえも自分たちの都合のいいように書き換えてきたわ。ウェストフィリアの資源開発に成功して、アステリアが潤うのは結構だけど、その見返りとして経済政策や海洋行政にまで口出しされたら、ここまで必死に築き上げた秩序がメチャクチャに壊れてしまう。なお悪いのは、人々が独占と圧力に馴れてしまうことよ。異議を唱える気力も、疑念も無くし、不自然な取り決めも当たり前のように受け入れてしまう。そうなれば、改革など永久に望めなくなる。でも、仕方ないわね。誰だって我が身が可愛いし、下手に楯突いて会社ごと消し飛ぶようなリスクは負いたくないから」
「しかし、まだウェストフィリア開発に成功すると決まったわけではないでしょう。精査すれば、期待したほど資源もないかもしれない。商業的価値がゼロと分かれば、彼らだって撤退を余儀なくされるでしょう」
「そうね。でも、ファルコン・マイニング社だって馬鹿じゃない。確信があるから進出してくるのよ。共同出資しているガス会社や鉱山会社もそう。ニムロデ鉱山のように大当たりとまではいかなくても、かなりの成果を上げるんじゃないかしら。鉱物資源に関しては、死火山みたいなネンブロットより種類は豊富かもしれないから」
「海洋情報部にもアクションがありましたか?」
「もちろん。ここで詳しくは言えないけど、開発公社やトリヴィア政府の担当に観測システムやデータ管理について、いろいろ聞かれたわ。それは一向に構わないのよ。彼らだって安全に操業したいでしょうし、現行の管理体制について意見したり、要望を出すのは当然でしょう。だけども、アステリアに進出するからには『公』も意識してもらいたい。予備調査で知り得た地形や海象のデータを、何でもかんでも『企業機密』で蔵匿するような事はして欲しくないのよ。もちろん、私たちも戦略的な情報までタダで寄越せとは言わないわ。でも、一方で、公益にも配慮して、共有できるものは広く共有し、全体の底上げに協力してもらいたいのよ。海底地形一つ調べるにも、ウェストフィリアまで調査船を出すのは多大な経費と人員を必要とするから」

<中略>

「ウェストフィリア島の東側には巨大な海底プレートの沈み込む場所が二カ所あって、アステリアの中でも地殻の動きが非常に活発なエリアで知られています。島の北方には大洋底にネックレスのように連なる北冠状海山列があり、全長はおよそ二八〇〇キロメートル。島の南側には全長三〇〇キロメートルに及ぶ海底山脈が連なり、いずれも平均水深四〇〇〇メートルを超える長大な海溝を伴っています。ウェストフィリア島、および大小五十六個の島々からなる南部諸島は、海底山脈から連なる長大な火山帯の一部を構成し、ウェストフィリア島において現在までに確認されている火山の数は一〇〇以上。そのおうち二十三個が活火山で、この十年の間にも、火山灰が上空一〇〇〇〇メートルまで達するような大規模な噴火が七回も観測されているます。活発なのは島周辺の海底火山群も同様で、これまでに少なくとも五〇カ所で金属硫化物を伴う熱水噴出域が確認されています。調査範囲を広げれば、もっと見つかるでしょう。それで、三月の調査では、ぜひとも有人潜水調査を取り入れたいという上層部の意向なのよ」
「それならノボロスキ社に頼めばいい。熱水噴出域も場所が把握できているなら、無人探査機でも十分にアプローチできる」
「ええ、分かってるわ。でも、一〇〇〇メートル級の試験潜航を数回繰り返しただけのパイロットに、熱水噴出孔のぎりぎりまで近づいて周囲の堆積物を採取したり、噴出孔の斜め上で静止して的確に写真撮影するような芸当が出来るかしら」
「サンプリングは『芸』じゃない」
 オリアナは一瞬、気圧されたが、
「……つまり、サンプリングやホバリングを行う高度な操船技術よ。有人潜水はそれでなくても経費がかかるし、必要な人員も半端ない。いくら開発公社が潤沢な資本に支えられているからとはいえ、『今日失敗したから、明日またもう一回』と簡単にはいかないのは ご理解いただけるわよね。それで、ぜひ、あなたの力をお借りしたいの。新米パイロットに実際を教える意味でも、良いお手本になるのではないかしら。ねえ、エリザベス。あなたからもお願いしてよ。まかり間違えば大事故に繋がりかねない危険な調査よ。なんといっても人の命がかかっているのだし、まさか知らぬ存ぜぬなんて、ねぇ……」
 オリアナがわざと「人命」を強調するように言うと、横からセスが身を乗り出し、
「それほど危険と思われるなら、パイロットが習熟するまで計画を延期してはいかがです。何が何でも三月に実施しなければならない重要な調査でもないのでしょう。六〇〇〇メートルまでの深海調査なら、ノボロスキ社の無人探査機で十分に対応できますよ」

<中略>

「だったら、一つだけ条件がある。ウェストフィリアに興味があるのは、開発公社の関係者やオーシャン・リサーチの研究員ばかりでない、アステリアに暮らす一般市民も同様だ。それでなくても、ファルコン・グループには誰もが疑念を抱いているし、過酷な未開地での開発事業を問題視する声もある。それについて、開発公社は正しい情報を伝え、社会の不安解消に努める義務がある。俺に助力を要請するなら、まず第一に、情報共有と区政への協力を約束してもらいたい」
「もちろん、そのつもりよ。調査で知り得たことは、鉱業法やその他の法律に則り、公的機関にも提出します。それとも、開発公社がデータの改ざんや隠匿を行うと疑っておられるのかしら」
「そうじゃなくて、俺が言ってるのは一般向けの広報だ。社会への協力だよ。ウェストフィリアがどんな島で、開発公社は何を目的に資源探査を行うのか、調査には誰が関わるのか、また、どんな事をするのか。必要な設備、調査の実際、開発のメリット、デメリット、そして可能性。できる範囲で情報を公開し、必要に応じて説明も行う。地理的に遠く離れて、情報も遮断されているのをいいことに、既存の社会を無視して好き勝手するな、ということだ」

Product Notes

海底には不思議な地形がいっぱい。

いつか海が干上がれば、素晴らしい光景を目にすることができるのに。

人間の目で全容を見ることは絶対に叶わない、海底の山々。

海底火山
Photo : http://www.livescience.com/24331-volcanic-cone-pumice-raft.html

めちゃくちゃカッコええですな。行くなら宇宙より深海でしょ。

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Photo : http://www.underseahunter.com/n25/national-geographic-seamount-expedition.html