5-9 海中の接続作業 有人か、無人機か

有策無人機 ROV

海中での接続作業を前に、採鉱プラットフォームの主任会議でテスト潜航の是非を話し合うが、議論は二つに分かれる。経費の問題から「テスト潜航は無駄」という考えと、「今後は全面的に無人化に移行するのだから、今さら潜水艇は必要ない」という意見だ。

また逆に、ミッション前にテスト潜航したいヴァルターの意向を尊重する声もある。

今さらのように前任のプロジェクト・リーダーや人事のやり方への不満を口にするメンバーに対し、ヴァルターは「馬鹿馬鹿しい」と吐き捨てる。

「それだけ不満があるなら、なんでもっと早い段階で理事長に進言しないんだ? 何年もここでマネジメントに携わってるなら、そのチャンスは幾らでもあっただろう」

「君はジム・レビンソンという人間を知らないから、そんな風に言えるんだよ。人間の嫌な部分を釜で煮出して、発酵させたような人さ」とメンバーは押し返すが、

「そんな人間の屑でも、採鉱システムを完成できるのはレビンソンしかなかった訳だろう。それじゃあ、仕方ない。このプラットフォームの第一の目的は海台クラストを採取することだ。君らに楽しい思い出を作ることじゃない。何をどう訴えようと、タヌキの腹は変わらなくて当然だ。俺がタヌキの立場でも、あんたらの泣き言は後回しにする」

と彼は一蹴する。

また、自身の身の処遇に不安を感じていたレビンソンが、わざと成功しやすい場所でテストして、首を繋ごうとしていたのではないかと指摘する。

「タヌキの理事長はプラットフォームに全人生を懸けている。あんた達の辛い思いと、採鉱事業を秤にかければ、事業に傾くのが当たり前だ。それでも最大限の気遣いはしてきた。だから、あんた達も多少の理不尽を感じながらも、理事長に付いてきたんだろう。だが、もう過ぎた事だ。今、ここでレビンソンがどうこうと暴露大会したところで誰も浮かばれない」

一方、リズは彼の力になりたいと、自分の高級車を売ってテスト潜航の費用を捻出することを思い付く。

喜び勇んで父親に打ち明けるが、アルの答えは意外だった。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「その通り、テスト潜航に三〇〇万エルクも費やすぐらいなら、もうちょいマシな使い道がある。大体、これ以上、プロテウスを使うメリットがどれほどある? もう大方の調査は済んで、大部分が無人機とソナーで十分カバーできる。深海での作業も無人機を自在に操れる優秀なオペレーターが揃ってる。オレには、今さらパイロットを連れてきて、もう一度、レビンソンの時代と同じことを繰り返そうとする理事長の考えがよく分からん。プロテウスを出す度に金も人手も取られて、その尻ぬぐいをさせられるオレやダグの立場に立ってみろ。もう、うんざりだ。あのクソ野郎の時代から、未だかってオレたちの意思がストレートに現場に反映されたことがあったか?」
「馬鹿馬鹿しい」
 ヴァルターが吐き捨てるように言った。
「それだけ不満があるなら、なんでもっと早い段階で理事長に進言しないんだ?何年もマネジメントに携わっているなら、いくらでもチャンスはあっただろう」
「君はジム・レビンソンという人間を知らないから、そんな風に言えるんだよ」
 ノエ・ラルーシュが青白い顔を震わせるようにして言った。
「人間の嫌な部分を釜で煮出して、発酵させたような人さ。ちょっと疑問を呈しただけで口汚く罵られ、ナビゲーションの応答が遅いとマイクで大音量でどやされる。見当違いの方向に誘導して、プロテウスごと海底に沈めてやりたいと思ったぐらいさ。理事長に直訴したことがバレたら、後でどんな目に遭うか分からない。僕の後輩は、もうちょっとで酒瓶で殴られるところだったんだぞ」
「だが、そんな人間の屑でも、採鉱システムを完成できるのはレビンソンしかなかった訳だろう。それじゃあ、仕方ない。このプラットフォームの第一の目的は海台クラストを採取することだ。君らに楽しい思い出を作ることじゃない。何をどう訴えようと、タヌキの腹は変わらなくて当然だ。俺がタヌキの立場でも、あんたらの泣き言は後回しにする」
「あんたもレビンソンと同じ暴君なの?」
 オリガが眉をひそめると、
「俺は現実を言ってるんだよ。タヌキの理事長はプラットフォームに全人生を懸けている。あんた達の辛い思いと、採鉱事業を秤にかければ、事業に傾くのが当たり前だ。それでも最大限の気遣いはしてきた。だから、あんた達も多少の理不尽を感じながらも、理事長に付いてきたんだろう。だが、もう過ぎた事だ。今、ここでレビンソンがどうこうと暴露大会したところで誰も浮かばれない。それより接続ミッションの事を話し合おう。テスト潜航の可否はともかく、一つ意識して欲しいことがある。それは採鉱区の地形と深海流だ」
「どういうこと」
「ここ数日、あんたらの嫌いなレビンソンが残した覚え書きに目を通して気付いたんだが、最初の採鉱区となる段差の下、テスト採鉱した場所より三〇〇メートル深い平地の東側は、毎秒三〇センチメートル以上の強い深海流が流れてる。しかも流量の変動が大きいので、長期にわたって連続的に観測しないと実態がつかめない。レビンソンは自分で何度も採鉱予定区に潜って、プロテウスから有策無人機を遠隔操作する中で、その『おかしな流れ』を肌で感じたんだろう。制御不能とまではいかないが、無人機や潜水艇を定位置に保持するのが難しいと書き残している。俺も似たような経験があるから、レビンソンが何を言わんとしているか、よく分かるんだよ。喩えるなら、車が強い横風に流されてハンドルを切りにくくなるのと同じだ。それに採鉱区は凹凸も多く、平均九パーセントの傾斜がある。重機の稼働には問題ないかもしれないが、揚鉱管の接続口は集鉱機のルーフにあって、微妙に傾いた状態で操作しないといけない。それに集鉱機の場合、安全装置解除のダイヤルスイッチが車体の左側側面にある。手順通り集鉱機を南向きで設置したら、ダイヤルスイッチは傾いた車体の下側にくる。海上から無人機を遠隔操作するにも、完全に水平な状態で作業するのと、車体が傾いた状態で作業するのでは勝手も違うだろう。その上に、毎秒三〇メートルの強い深海流が加われば、予期せぬトラブルも発生するかもしれない。一〇〇パーセント確実と言い切れないのは、無人機も同じだ」

Product Notes

無人機を使った海中作業の一例。

周囲は真っ暗で、水中の浮遊物で視界も悪いです。
機材やシステム自体が古いせいもありますが、地上でパイプを繋ぐようにはいきません。

こちらも有策無人機のマニピュレータを使った細かな水中作業です。
全て船上のコントロール・ルームから遠隔操作しています。

無人機(ROV)にも潜水艇に搭載するような小型のものから、大人の背丈ほどある大きなものまで、サイズも用途も様々。こちらのビデオは細部まで分かりやすいです。

ちなみに作中で話し合われているのは、無人機(ROV)にプラス、潜水艇『プロテウス』を投入し、プロテウスからランチャーした小型ROVを使って接続作業を行うという話です。
詳しくは、5-3 採鉱プラットフォームと海中の接続作業5-5 潜水艇と深海の接続作業あたりに書いています。

ウォールのPhoto : http://www.oceaneering.com/rovs/