5-8 鉱業権と鉱山会社の寡占 ~権利の応酬

鉱業

ヴァルターは総務部のカリーナ・マードックからアステリアの政治区分、トリヴィアの鉱業権、開発史について聞く。
採鉱システムの確立は、技術以前に、権利の問題でもある。
ファルコン・マイニング社の圧力、トリヴィア政府の思惑、鉱業局の立ち位置など、様々な思惑が絡み合う世界だった。

カリーナはさらにニムロディウム精製法をめぐるファルコン・グループとMIGの長年の確執について語る。

カリスマ的な存在であるアル・マクダエルも六十歳。いつまでも元気に陣頭指揮を執れるわけではない。
要となる人が抜けたら、MIGや採鉱プラットフォームはどうなるのか。
将来に不安を感じるカリーナにヴァルターは言う。

とはいえ、ここに長居するつもりもなく、(ここがどうなろうと、俺の知ったことじゃない)と自分に強く言い聞かせる――。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 しばらく島の形状や海洋情報に見入っていたが、ステラマリスの排他的経済水域のことを思い出し、「ローレンシア海域の鉱業権はどうなっているんです?」とミセス・マードックに訊ねると、
「トリヴィアの資源探査規制法に基づいてるわ」
 夫人は黒い丸眼鏡の縁を指で押し上げながら答えた。
「アステリアはトリヴィアの属領(dependency(ディペンデンシー))なの。部分的に自治権を与えられたトリヴィアの『特別経済開発区』なのよ。『地方都市』との大きな違いは選挙が無いこと。区政の最高意思決定機関は『管理委員会』は十二人の管理委員で構成されているけど、彼らは全てトリヴィア政府に任命された行政官なのよ」
「じゃあ、アステリアの産業活動や区民の社会生活もトリヴィアの法律に基づいているわけですね」
「そういうこと。そして、アステリアの鉱物資源は全てトリヴィア政府の資産であり、企業はトリヴィア政府から鉱業権を借り受ける形で探鉱や採掘を行うの」
「それならセス・ブライト専務から聞きました。ティターン海台の鉱業権は『リース権』で、営業利益率に応じて二〇パーセントから二十五パーセントのロイヤリティを支払うそうですね」
「形態としてはそうね。ただ、アステリアに関しては、本格的な探鉱や採掘はMIGが初めてだから、ネンブロットに比べたら審査基準も曖昧で、政府も進捗を見ながらルールを書き換えるような感じだったわ。それがMIGにとって有利に働くこともあれば、あり得ないような条件を突きつけられたこともあった。その度にマクダエル理事長が鉱業局に直談判して、どうにかこうにか現在に至る、よ」
「鉱業権の期限はどれくらいです?」
「探鉱ライセンス――いわゆる排他的探鉱権は五年間。申請すれば五年まで延長可能よ。準備期間に相当するリテンション・ライセンス(活動継続権)も五年で、こちらも五年の延長が可能だけど、アステリアの海洋資源に限り、さらに五年の延長が認められているの。トータルすれば、最長十五年間、権利の保有が認められる訳ね。さらに資源の採掘から販売までカバーする生産権は二〇年。これも五年ごとに延長が可能で、最大十年の延長期間が認められているわ。トータルすれば、最長三〇年、生産可能よ」

<中略>

「MIGも元々はファルコン・スチール社の関連会社だったの。『マクダエル特殊鋼』といって、高度な合金設計を手がける中堅の特殊鋼メーカーだったのよ。だけども、UST歴三〇年代、『トリアド・ユニオン』によって惑星ネンブロットの鉱山開発が始まると、市場を拡げ、良質なレアメタルを仕入れる為にユニオンに資本参加し、ファルコン・スチール社に付いて、まだ貿易中継基地に過ぎなかったトリヴィアに第二の生産拠点を築いたの。その頃はまだ右も左も分からず、儲け話に乗ったような感じだったのでしょうね。そして九〇年、トリヴィアが自治権を獲得すると、自治領政府はネンブロットを『属領』として取り込み、管理機関として『鉱業局』を設立した。そして独自の『地方鉱業法』を制定して、世界中の鉱山会社を誘致し始めたの。だけども、この『地方鉱業法』がくせ者でね。税制やライセンス制度が猫の目のように変更され、優良な鉱業会社が突然探鉱権を停止されたり、ロイヤリティを大幅に吊り上げられたり、トラブルが絶えなかった。国際批判の高まりを受け、かなり改善されたけど、裏で糸を引いていたのはファルコン・マイニング社とも、彼らの母体であるクレディ・ジェネラルとも言われているわ。彼らは鉱業局や産業省のトップに根回しし、自分達の都合の良いように鉱業行政を操ってきたのよ。そのせいでネンブロットからは優良な鉱山会社が撤退し、得体の知れない合弁会社や投資家がどんどん入り込んで、市場や鉱区を引っ掻き回してきたの。それでも世界中の国や企業がネンブロットに頼らざるを得ないのは、ニムロディウムを筆頭に、安価で良質な原鉱や半製品を大量に輸出しているからよ」
「なぜ、そこまで一局に集中したんです?」
「Anno Domino(西暦)に制定された国際宇宙開発法『宇宙の領土はいかなる国家にも属さない』という古びた一文が、逆に巨大資本グループに有利に働いたからよ。本来、平和や協力を目的とした『超国家的』の前提が、彼らに都合のいい無政府状態を生み出したの。問題が可視化した時には国や司法機関でさえ抑えが効かないほど肥大し、今でも根っこの部分は変わってないわ。国や民族にとらわれない『自治領』というスタイルが理想の新社会という人もあるけれど、区分や差別は依然としてあるし、巨大資本のよる支配と従属は何も変わってないのよ」

Product Notes

世界中で愛用されている『AutoCAD』。

CADが登場した時は、オンラインでのグループ作業も「遠い理想」でしたが、今は完全に現実のものとなっています。

作中に登場する『ライントラスト』や『水を治める技術のアーカイブ』は、今でいう『グループウェア』や『クラウディング』の概念を描いたものだったのですが、私の方が遅れをとってしまいました(1995年に発表してればなぁ・・)

今はCAD=設計のみならず、工程、経理、法務など、全てが一体化したプロジェクト・マネージメント・システムが各所で取り入れられています。
不正会計がデフォルトの職場は別として、コスト削減や情報周知、工程管理は、今後もオンライン共有化でいっそう簡素化され、前時代的な組織や手法はどんどん淘汰されていくでしょう。

AutoCAD、大好き♪

AUTO CAD 公式サイト

CAD

海外では鉱山会社の採掘現場にも女性が普通に任務を得て、重機を動かしたりしています。
マッドマックスのフュリオーサ大隊長で有名なシャーリーズ・セロンが主演した『スタンドアップ』でも、炭鉱で働く女性のハラスメントを描いています。

本作では「悲惨な採掘現場」が登場しますが、一般的な鉱山会社の採掘現場では「奴隷のように鞭打たれて」というのは前時代の話。巨大なハイテクマシンが全自動でガンガン露天掘りをやってます。

鉱業
Photo : https://goo.gl/2u5cSv

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おまけ。
海底 パイプライン
ウォールのPhoto : http://goo.gl/uuQcls