5-6 採鉱予定区のマッピングとテスト潜航

海底地形 深海 海台

父の隠れ家である海辺の別荘に落ち着いたリズは、ますます海の魅力に取り憑かれる。
「十五歳の時から自活してきた」というヴァルターの生き様を思い、自身も少しずつ生き方を変えていく。

一方、ヴァルターはマードックから無人の調査プローブを使った採鉱予定区のマッピング技術と、接続ミッションのスケジュールについて説明を聞く。

自分の不運を嘆くヴァルターに、マードックは「本当は強運じゃないか」と返す。

だが、実際を知るにつれ、ヴァルターは初めての深海下での接続作業に不安を感じ、プラットフォーム・マネージャーのダグにテスト潜航を申し入れる。
それに対して、ダグの返事は素っ気ない。

そして、彼に「そんなにテスト潜航したけりゃ、予算を自分で捻出しろ」と迫る。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 採鉱に使われるマップは、無人調査プローブが採取したデータを専用ソフトウェアで分析し、七色のグラデーションで彩色した3D地形図だ。そこには詳細な地形だけでなく、基礎岩を覆うクラストの厚さや形状までもが一〇ミリ単位で描出されている。
 このマップから採鉱する場所を選定し、破砕機や集鉱機のオペレーションシステムにロードアップして重機の動きを制御する。
 効率的に有価なクラストを採掘できるか否かは、重機の性能にも依るが、資源の賦存状況をいかに正確に把握するかにかかっている。どこに、どれくらいの量の硫化ニムロディウムが存在するか、地形は重機の運用に適しているか、といった事だ。そして、豊富に硫化ニムロディウムが含まれるクラストだけを基礎岩から引き剥がし、海底からもれなく回収する。

<中略>

「今もマッピングの範囲を広げてるのか?」
「もちろん。現段階で十分なレベルに達しているのは五年分だ。それ以外の部分は、今も調査クローラーを使ってデータ収集と分析をしている。大半は自動化されているが、やはり人目で描出されたマップを確認して、気になる箇所はピックアップし、必要に応じて再調査や再分析をしないといけない。それに有価な部分が存在しても、重機に適さない地形もある。傾斜が激しかったり、大きな凹みがあるような場所だ。それも人間の目で見て回避しないと、重大な事故を引き起こす。どれほど機械化が進んでも、最終的には人の目が物を言う。それを見分ける教育も必要不可欠だ。だから、うちのオペレーターは工学理論や機械操作だけでなく、鉱物学や海洋学の講義も受けている。簡単な内容だが、学術的に理解して動かすのと、何も知らずに機械だけいじるのでは大違いだからね」

<中略>

「だとしても、なぜテスト採鉱の時、実際の採鉱区で試験せずに、わざと平坦な場所を選んだんだ? 最初の二回は慎重を期したとしても、三回目のテストは本採鉱を頭に入れてやるはずだ。それなら実際の採鉱区でやらないか?」
「それはマッピングと大いに関係がある」
「マッピング?」
「採鉱区のマッピング・データは既に重機のオペレーションシステムにロードアップされているからだ。十月十五日から来年三月までの半年間、どこを、どれだけ掘り返すか、既にプログラムされていて、これを変更するとなると、一からプログラムを組み直さなければならない。だから、実際の採鉱区はノータッチで、近隣の環境でテストしたんだ。テスト結果が良好なら、実際の採鉱区でも問題なく稼働する――という判断からだ」
「それでも納得いかないな」
「君が思い描いているより重機の性能ははるかに柔軟だ。僕も三度のテストをつぶさに見てきたが、地形や深度の違いはそれほど足かせにならない。それに稼働中もコンピュータと人の目の両方でチェックする。万一、問題が生じたとしても、突然重機が横転するような事故にはならないはずだ」

<中略>

「だが、その大学生だって深海で思いもよらぬ状況に陥ったら、冷静に対処できるわけじゃないだろう。そいつはプロテウスの構造の隅から隅まで知り尽くしてるのか? 俺なら出来る。通信系統のトラブルも、油圧の故障も、海上ナビゲーションとの行き違いにも対処する自信がある。プロテウスのことなら、ネジ一本まで頭の中に入ってる。俺はプロのパイロットなんだよ、ダグラス・アークロイドさん。大学生のアルバイトとは訳が違う。パイプだけ繋いで済ますつもりはないし、学術的な目的もある。申請書にも書いてる通り、採鉱区の状態を目視するのが一番の動機だ」
「現場が見たいなら、無人機の水中カメラで十分だ」
「十分じゃないから、必要性を説いてるんだよ」
「どこがどう物足りないんだ」
「カメラの視野はどうしても限られる。解析能力だって未だ人間の目には及ばない。微妙な色の違いや形状の変化、細かな粒子の動きなんかは、現場に行って直接見てみないと分からない。何かに気付いた時、すぐにサンプルを採ったり、録画したり、迅速に対応できるのも大きなメリットの一つだ。だから機械操作のテストを兼ねて、一度、自分で見てみたいと言ってるんだよ」
「お前の好奇心の為に三〇〇万エルク?」
「好奇心じゃない。確認だ。事前にどれほど調査を重ねて、精密なデータを揃えても、いざ採鉱機を動かして、海山表面の形状が変われば、思わぬトラブルに直面することもある。そういう不測の事態に供えて、最後にもう一度、採鉱区の様子を間近で目視したいと言ってるんだよ」
「お前、一回の潜航にかかる費用と人手が分かってるのか。プロテウスの運航スタッフは、みなノボロスキ社から呼んでいる。整備工、クレーンのオペレーター、ナビゲーター、ダイバー、彼らの送迎費、滞在費、時給、運営コスト。お金だけじゃない、彼らが宿泊すれば居室の準備もいるし、食事だって、その分余計に食材を手配しなければならない。何日も前から各部署でスケジュールを組んで、それに合わせて業務も調整するんだ。そして、十月十五日まで、みな決められたスケジュールで動いている。よほどの緊急事態でない限り、さしたる理由もなしに大きな変更は加えられない」

Product Notes

海底地形のマッピングは世界中の海洋機関が総力を挙げて取り組んでいる事です。
地上のように肉眼で目視し、ドローンやヘリコプターで上空からくまなく撮影・・とはいきませんから、技術的に難度は高いです。

採鉱 海底 マッピング
Photo : https://goo.gl/S1bu0Z

採鉱 海底 マッピング
Photo : https://www.niwa.co.nz/coasts-and-oceans/faq/how-do-we-map-the-seafloor

採鉱 海底 マッピング
Photo : http://pubs.usgs.gov/fs/fs039-02/fs039-02.html

ウォールのPhoto : https://goo.gl/YgyqAD