5-5 潜水艇と深海の接続作業

採鉱プラットフォーム

ヴァルターは潜水艇プロテウスの整備を手掛けるフーリエから機材に関する説明を受ける。

その過程で、ヴァルターは、アル・マクダエルが閉所恐怖症で、自費で建造した潜水艇に一度も乗ったことがない事実を知る。
上から耐圧殻のハッチを閉めて、仕返ししたいと言うと、フーリエは、厳しいのも愛情表現だと説明する。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 彼はしばらくその場に立ち尽くしていたが、右の奥の方でガラガラとパネル式の移動間仕切りを引く音が聞こえると、そちらに足を向けた。
 プロテウスだ。
 夕べはじっくり見る余裕もなかったが、船体前面に取り付けられた装置が幾つか異なる。八つ目のロブスターみたいな外観はそっくりだが、マニピュレーターは海洋調査で使っていたものよりアームが長めで、径も太く、リスト(手首)には光源付カメラが取り付けられている。手先の動きを拡大ビデオで確認する為だ。
 また検査プローブや検体採取用のバスケットは無く、代わりに小型無人機を搭載するランチャーとワイヤーの巻取機が備え付けられている。ランチャーの大きさから察するに、小型無人機は四〇センチ前後。ワイヤーは三十メートルほどか。遠隔操作といっても、対象物にかなり近接して作業するのは確かだ。
 それにしても、これらの機材をアレンジし、自らもプロテウスで潜って水中作業をしていたジム・レビンソンとは一体どんな人物なのか。

<中略>

「俺は海洋調査が専門だ」
「だが、深海でサンプリングや写真撮影をしてたんだろ?」
「それとこれとは訳が違う」
「そう尖るなよ。基本は同じだ。騒ぎ立てるほどの事じゃない」
 フーリエは彼を格納庫の壁際に連れて行き、スチールラックに無造作に置かれた部品の数々を見せた。まるで玩具のブロックみたいに大きな六角形ボルト、コネクター、フランジナット、レバーハンドル、等々。部品といっても一つ一つが大人の拳大ほどあり、ノブもプラグもセレクタスイッチも形状は非常にシンプルだ。大半が蛍光色の緑や黄で色付けされ、水中でも識別しやすいよう工夫がなされている。
「『機械の接続』といえば大層だが、一つは管の口と口を合わせて、セレクタスイッチをOFFからONに切り替えるだけ。もう一つは、大人の掌ほどのプラグを差し込んで、ケーブルを繋ぎ替えるだけだ。多くの部品は接合した瞬間に自動的に回転して、凹凸がガッチリ嵌まる仕様になっている。複雑な操作は何一つない。若いオペレーターでも実験プールで半時間とかからずやってのけた」
「だが、実験プールと深海は異なる」
「それはその通りだ。だが、この一世紀、ステラマリスの石油リグでも水深数百メートル下で無人機を使って同様の操作をしているが、事故が起きたことは一度もない。高電圧リアクターだって、海上のオペレーションルームで主電源をONにするまでは通電しないんだ。まさかお前の存在を無視して、海中で丸焼きにはせんだろうよ」
「丸焼きになる前に、電気ショックで即死すると思うが」
「真顔で反論するなよ。お前も生真面目だな。どれ、試しにオレが実演してやろう。ここにあるのはプロトタイプの残骸だが、現在の重機や揚鉱管にインストールされている部品とほとんど形状は変わらない。オレがマニピュレーターでちょっちょとネジを締めて見せれば、お前も納得するだろう」

 フーリエは六角形の大型ノブがはめ込まれた金属プレートや、腕の太さほどあるオス・メスの円筒コネクター、掌サイズのセレクタスイッチをワゴンに載せると、プロテウスの前面に配置し、自身は耐圧殻に乗り込んだ。
 ほどなく一部の電源が入り、フーリエが操縦席のコンソールからロブスターのハサミのようなマニピュレーターを動かしてみせた。油圧による速度制御(レートコントロール)方式で、ゲーム機のようなジョイスティック型ハンドコントローラーで操作する。
 アームの全長は一・八メートル。海洋技術センターの「プロテウス」のアームは一・五メートルだったから、それより三〇センチ長い。人間の腕と同じように主アーム、上腕、前腕、手など、複数のパートからなり、四つの指を持つグリッパ、リスト(手首)、長さ四〇センチの前腕、五〇センチの上腕、さらに九〇センチの主アームと続き、リストの関節は三六〇度、その他の関節は一二〇度の回転が可能だ。
 フーリエはアームを進展すると、四つ指のグラバーを開いて、六角形の大型ノブをつまんだ。それからもう片方のグラバーで金属プレートを縦にして、ノブを右に左に回して見せる。動きもスムーズだ。
 次に直径九センチのオス・メス円筒コネクターを取り上げる。
 右手に凸型、左手に凹型のコネクターを把持し、大小の筒を重ね合わせるように接合すると、二つのコネクターはがっちり噛み合い、ちょっと引っ張ったぐらいではびくともしない。

Product Notes

自分たちが日常的に利用しているエネルギーが、どこから、どのように採取されているか、いちいち考える機会も少ないと思います。
昔は「石油」といえば中東でしたが、北海やメキシコ湾の海底から採取される石油量も半端ない。
『BP』も欧州では超大手です。
この分野では、海外企業が二歩も三歩も先に行ってます。
↓ これは石油流出事故のオペレーションを説明しています。

無人機 海中作業
Photo : https://goo.gl/Cp4XYk

海底深くから石油を輸送するライザーパイプ。
水深1000メートルの壁を越えて、1500メートル、2000メートルと、まだまだ続きそう。

ライザーパイプ 揚鉱管
Photo : https://goo.gl/jvTFuM

海中の接続作業は、こういう感じです。

海洋関連のイベントで欠かせない超水圧の実験。
「なのに、深海魚は、どうしてペタンコに潰れないんですか?」「それはね……」
素朴な疑問から科学する。

ウォールのPhoto : http://goo.gl/tWm4ow