5-11 重役会議と母の手紙

会議室

アル・マクダエルに突然プレゼンテーションを命じられたヴァルターは、適当に原稿を作ってその場に臨むが、実は重役会議だった。
 百戦錬磨の重役らに、
「アイデアだけずらずら並べても、具体性がなければ実効性はないし、『こういう風になるでしょう』という見込みだけで計画は立たないんだよ」
「理想としては分かるが、それだけの設備を揃えるのに幾らかかるか、試算はしてないのかね」
「それでは融資の材料にもならないよ」
と散々絞られ、彼のプライドもずたずただ。

大勢の前で恥をかかされたと臍を曲げ、母から届いた手紙も海に流してしまう。

会員制ヨットクラブの晩餐会では、重役を相手にリズが懸命にホステス役を務めている。
今夜も彼は顔を見せず、彼女の気持ちは沈むばかりだ。

アルは重役会議でのプレゼンテーションを思い返し、やはり再建コンペは”まぐれ”ではなく、身についた能力であることを確信する。

そんな折り、リズはコンシェルジュから来客の知らせを受ける。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 アルは食事もそこそこに、周りの役員らと言葉を交わしながら、重役会議を思い返した。
 不意打ちであの男を引っ張り出し、頭の中にあるアイデアを話させたが、正直、プラットフォームに来てから一週間ほどで、ここまで的確に現場の実情や採鉱事業の本質、アステリアの方向性まで理解するとは思わなかった。
 しかも発表の場にスライドもビデオも何も無い。一夜で仕上げた数枚の企画書だけを片手に、プラットフォームの運営費を軽減する為の節電や給電、人員配置の見直しやシステムの一元管理、情報資産としての海洋調査データの活用、等々。あの日、電話で伝えてきたことを、現場を知らない重役に対して理路整然と、確信もって説明する才気は大したものだ。再建コンペのプレゼンテーションも決してまぐれではなく、やはり能力として身に付いているのだろう。
だが、初期投資はどうするのか、人材はどうやって確保するのか、財務計画は、他部署との連携は、実務面で切り込まれると、たちまち論調が弱くなる。当然だ。彼にはマネジメントの経験が全く無いのだから。
 百戦錬磨の重役らに、
「アイデアだけずらずら並べても、具体性がなければ実効性はないし、『こういう風になるでしょう』という見込みだけで計画は立たないんだよ」
「理想としては分かるが、それだけの設備を揃えるのに幾らかかるか、試算はしてないのかね」
「それでは融資の材料にもならないよ」
と散々絞られ、彼のプライドもずたずただ。
 最後は一言も発せず、木偶の坊みたいに立ち尽くしていた。

Product Notes

企画のプレゼンテーションに限らず、業務の引き継ぎ、申し送り、商品の紹介など、意見やアイデアを伝える場面は非常に重要です。

中には、緊張や見栄からつっかえる人もあるでしょうし、過去の失敗が原因で臆病になっている人もあるかもしれません。

でも、プレゼンテーションも文章と同じで、要は「起承転結」、一つの物語として構築すれば、それほど難しいことではありません。
「自分が一番伝えたいこと」を中心点に、「なぜ、そう思ったか」「そう考える根拠は何か」、枝葉を広げて、あとは一つの流れにまとめればOK。

プレゼンテーションが苦手な人は、「あれも言わないといけない」「これも盛り込まないといけない」と気負いすぎて、取捨択一のポイントが見えないか、「流ちょうな喋り」「笑いを取る」みたいなスタイルに拘り過ぎて、本来、自分が言うべきことを見失っているのかもしれません。

何にせよ、一番大事なのは、自分でどこまで、自分自身のアイデアや意見を信じられるかです。

作中でも繰り返し出てきますが(特に後半)、自分で、自分の考えに確信が持てないのに(オレ、本当に正しいのかなぁ・・みたいな)、力強い喋りはできません。

自分で疑うものは、他人が見ても疑うし、確信の持てないものは、何をも説得できないのです。

スタイルや見栄えに拘る前に、自分でどこまで自分のアイデアや意見を信じられるか、まず自分自身に問うてみましょう。

誰しも迷いは不安はつきものですが、時には、人間ハッタリで突き進まねばならないこともある。

それを「気迫」と呼ぶこともあれば、「傲慢」と誤解されることもあり、万人受けするプレゼンテーションなど、この世のどこにもありません。

それよりは、自分の考えに確信が持てるだけの準備や裏付けに集中すること。

喋りのスタイルや、見栄えのいい資料は、それからです☆

ウォールのPhoto : http://blog.quotesgram.com/25-inspirational-quotes-for-every-occasion/