7-6 一つの人生に、一つの目的

Chapter: Tags: ,
海 波

翌日、接続ミッションの成功を祝うパーティーが開かれる。
マードックやダグたちは、感謝の印として、青いジュエリーを抱いた有翼の女神像をアルに贈る。

リズは父の代わりにスピーチに立ち、皆の健闘を称えてシャンソンの名曲『La Mer』を歌う。
一途に歌う彼女の姿に、改めて心を惹かれる。

パーティーが終わると、ヴァルターは一人でムーンプールに向かう。
そこには既にアルが居たが、その姿は悦びではなく、憂いに沈んでいるようにも見える。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「あんたは、どうしてこんな採鉱プラットフォームを作ろうと思ったんだ? MIGだけで十分な利益も名誉もあるだろうに」
「理由なら数え切れないほどある。お前がしっかと目を見開き、この海を見れば分かることだ」
 彼はムーンプールに打ち付ける水しぶきを見詰めるが、この海にどんな理由が秘められているのか、今は想像もつかない。
「ともかく契約が切れるまでは仕事に専念しろ。これほど自由に動き回れる機会もないだろう。『一つの人生に、一つの目的』。考えて、考えて、考え抜いて、人生のテーマを見つけ出せ。それがこの二年の間にお前が本当に為すべき仕事だ」
「目的――」
「そう。目的だ。採鉱システムを作ろう、これだけの売り上げを達成しようという『目標』とは違う。もっと根源的な『生きる動機』だ。人生を貫くような、我が我たる理由だよ」
「今なら何となくその違いが分かる。俺も父が亡くなってから、がむしゃらに突き進んできたが、行き先も分からずエンジンだけふかしていたような気がする。コンペに参加したり、深海調査をこなしたり、目の前の目標を達成するのと、自分を生かす道は、多分、別なんだよ。俺の父親は土木技師だったけど、船長でも、ブンデスリーガの選手でも、きっと生き様は同じだっただろう。そういう精神の核を持ってた。だが、俺にはそれは無い。今まで決して無為、無目的にやってきたわけではないが、では生涯かけて何を体現したいのかと問われたら、答えは皆無だ。『緑の堤防』でもないし、大水深の潜航記録を達成することでもない。その時々の目標はあっても、一貫したテーマが無いんだ。だから、ここでダグやマードックが一心に打ち込んでいる姿を見て、焦りを感じるのだろう。俺もテーマを見つけたい。目先の勲章ではなく、一生誇りに思えるものだ」

Product Notes

レンブラントの名作、「嘆きのエレミア」。
エレミアに関しては、ネットにも詳しい解説がたくさん出ていますので、興味のある方はぜひご覧になって下さい。
16.エレミヤ書9章1-8節『嘆きの歌』鳥井一夫 聖書の部屋
エレミヤの労苦と苦悩 牧師と書斎

レンブラント 嘆きのエレミヤ

レンブラントは晩年の自画像が好きです。
人生の深みに光が差すような眼差しと色使い。
オランダの美術館で実物を見たことがありますが、一筆一筆から画家の息づかいが聞こえてくるようでした。

レンブラント

[TABS_R id=2023]