7-2 潜水艇がぶつかったら、どうなる?

作業船

揚鉱管の降下が順調に進む中、いよいよ潜水艇『プロテウス』が潜航を開始する。
ヴァルターとエイドリアンは手順通りセットアップし、海面に着水する。

だが、場慣れしたヴァルターと、不安を隠せないエイドリアンは、リズの差し入れの弁当をめぐって、早くも臨戦態勢だ。

一方、耐圧殻の二人を案じるリズは、「もし潜水艇が採鉱システムにぶつかったら、どうなるのか」とガーフィールドに尋ねる。

それはあまりに危険ではないかとリズは動揺するが、アルは「お前はパイロットを信用しないのかね」と言い聞かせる。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「潜水艇はどれくらい機械に接近するのです?」
「接続作業を行う無人機『クアトロ』はプロテウスのランチャーから発進して、有索で遠隔操作をします。ケーブルの長さは二十五メートルありますが、対象を目視する為、ぎりぎりまで接近するでしょうね。五メートルか、一〇メートルか……。それはパイロット次第です」
「それほど接近すれば、潜水艇が揚鉱管や集鉱機に衝突する可能性もありますね」
「その可能性は決してゼロではありませんが、確率としては非常に低いです。なぜなら、船上で常に互いの座標を確認し、慎重にナビゲートするからです。潜水艇自体にも前方探査ソナーが備わっていて、障害物を検知したら自動的に推進装置が停止したり、危険回避の行動を取るようになっているんですよ。揚鉱管や集鉱機に機体が接触するとしたら、むしろ無人機の方が可能性が高いかもしれません」
「だけど、万一、潜水艇が接触したら、感電したり、爆発するのではありませんか?」
 するとガーフィールドは肩をすぼめ、
「採鉱システムはそれほど柔じゃありませんよ。当然のことながら、悪天候や誤操作による接触事故も計算にいれて安全対策を施しています。たとえば、揚鉱管に接続するフレキシブルホースは金属ではなく、非常に強くて柔軟性に富んだ特殊樹脂で出来ています。万一、無人機が接触しても、多少の衝撃では折れたり曲がったりしません。それにミッションで直接操作する部分はコネクターとコンソールに限られますから、全速で機体に衝突でもしない限り、人命にかかわるような大事故にはなりません。というより、現在の技術では、深海においてどれほど頑張っても人が歩くほどの速度しか出ないんですよ。それより、海上の波力や風力の方がはるかに大きな破壊力を持っています。深海で本当に怖いのは、船体の位置を見失うこと、船体そのもののトラブルで浮上できなくなることです」
「潜水艇に故障が生じて、自力で浮き上がることが出来なければ、どうなりますの?」
「一応、五日間は耐圧殻のライフサポートが機能しますが、それを過ぎると、まあ、どうしょうもないですな。船外から水や食料を差し入れる訳にもいきませんし、体力的には三日が限度でしょう」

Product Notes

潜水艇の構造や潜航に関しては、ウッズホール海洋研究所の『Alvin』のドキュメンタリーが参考になると思います。

こちらはフランスの潜水艇『Nautile』の潜航の模様。
このクロムイエローの船体が大好きなのです。
深海にも、至る所に、雲仙や別府地獄めぐりみたいな所があるのです。

ちなみに、本作ではJAMSTECの『しんかい』の手順を参考にしています。

こちらは無人機を使った深海調査です。
前半部に、無人機のオペレーションの様子が映っています。
本作では「ジム・レビンソンが泥酔して、後部甲板から海に落ちた」という設定ですが、採鉱プラットフォームもこんな感じで、柵のない場所がたくさんあります。特に重機や調査機器をランチャーするあたり。

Photo : https://www.wired.com/2009/07/nankai/