7-1 ミッション開始と潜航準備 一つ一つの航海が心の糧

ムーンプール

いよいよ接続ミッションが始まる。
リズとアルはコントロールルームのモニターで作業を見守り、ヴァルターは格納庫で潜水艇プロテウスの最後の調整に入る。
今日接続に成功し、採鉱システムが稼働すれば、鉱業においても、アステリアにおいても、歴史的一日となるだろう。

一方、タワーデリックのオペレーションルームでは、マードックの指揮のもと、揚鉱管の海中降下が始まる。

潜航開始を前に、セスは息子エイドリアンの様子を見るため席を立つが、リズは「不安な顔を見せて、みんなの気持ちを乱したくないわ」とモニターの前で見守る。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 やがてタワーデリックの方で大きな金属音が鳴り響くと、オペレーション室のマードックから揚鉱管の海中降下の準備が整ったと連絡が入った。
 時計の針はきっかり午前八時を差している。
「OK。こちらもプラットフォームのポジションは万全だ。始めてくれ」
 チーフオフィサーのブロディ航海士が答えると、その後ろでダグとガーフィールドも目を見合わせ、「いよいよだな」と声を掛け合った。
 まず、ムーンプールのクレーンに吊り下げられた揚鉱用の水中リフトポンプがゆっくり海中に降ろされる。
 高さ四メートル、縦横六メートルの格子型メタルフレームには十二個の球状チャンバーが搭載されている。チャンバーは水圧をかけて揚鉱管に海水の循環を作りだし、管の内部を負圧にすることで海台クラストの泥漿を吸い上げる仕組みだ。
 ポンプ底部の中心には長さ一五〇メートルのフレキシブルホールが取り付けられ、その先端は重錘式のコネクターになっている。これを水深三〇〇〇メートル下で集鉱機と接続するのがプロテウスのミッションの一つだ。
 白いあぶくを上げながらリフトポンプが海中に沈むと、続いて、パイプラックに縦向きに収納されたライザーパイプがハンドリング装置のアームに一本ずつ掴まれ、タワーデリックのパイプラッキング・システムによって縦方向に高く持ち上げられる。さながら筆箱から機械の手で一本ずつ鉛筆を掴み上げるような要領だ。
 それからドリルフロアに設置された「アイアンラフネック」と呼ばれる連結装置にピストン運動のように打ち込まれ、ネジが締結される。さらに油圧シリンダーで回転力をかけて完全に締め込み、パイプの連結作業が完了する。
 一本のパイプを連結する所要時間はわずか十数秒だ。機械の流れだけ見ていると、深海に向けて細長いロケットを繰り出すようなイメージである。
 水深三〇〇〇メートルに到達するのに必要なパイプの数は約一五〇本。単純計算すれば、一時間とかからないが、適宜、作業を一旦停止して、パイプ先端の位置や深度を確認したり、それに合わせてプラットフォームのポジションを調整したり、何段階もの安全確認が行われるため、実際には倍の時間を要する。また、潜水艇や無人機の降下とタイミングを合わせる為、各部署の進行状況を見ながら抽出のペースを調整する必要もある。
 揚鉱管がリフトポンプの深さまで降下すると、一旦、ムーンプール直下で揚鉱管の先端とリフトポンプの上部を接続する作業が行われた。使用される無人機は、前回マルセルが用いた『ヴォージャ』だ。水深数十メートル下で接続が完了すると、ヴォージャは揚収され、再び揚鉱管の降下が始まる。今度は先端にリフトポンプが取り付けられている為、揚鉱管の抽出も慎重だ。

Product Notes

ライザーパイプ(本作では揚鉱管)のオペレーションを紹介するビデオです。
CGアニメーションですが、イメージの手助けに。

水深3000メートルの海底に到達する『揚鉱管』のイメージはこんな感じです。
山より高いわけですから、技術的にどうよ、という話です。

日本にはオイルリグはありませんから、それを専門とするオペレーション業者もメーカーも目立ちませんが(プラットフォームの設計・建造を受けたり、部品を作っている企業はあります)、海底油田やガスの採掘をやっている国や企業では、オペレーティングや部品製造が一大産業になっています。

私も作中で具体的に数値や名称を出していますが、それが正しいのかどうかは分かりません(^_^;

というか、そんなことが正確に分かるぐらいなら、こんな所で主婦業などしてないです(´д`)

Photo : http://archive.feedblitz.com/261222/~4183532