11-2 ヒアリングと面談の意義 ~たとえ徒労に終わっても

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ビジネス ミーティング

ヴァルターとリズは海洋情報ネットワークの重要性を理解してもらう為、海洋関連の会社や団体を対象にヒアリングを始める。
海洋情報部長の紹介で、アステリアに進出したばかりの産業技術開発機構を訪れるが、話は通じず、胡散臭い目で見られるだけだ。

リズが機転をきかせて、「社長相談役」という作りものの名刺を差し出すと、担当官の態度が一変する。
その後も彼女の機転と意外な度胸に救われ、ヴァルターも心証を変える。

「今後も、ずっとこんな風にヒアリングを続けるつもりなの? メールや電話で済むこともあるでしょうに」と案じるリズに彼は答える。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「君も業界の動向などいろいろ勉強してるんだね」
と労るように言った。
「そうしないと、会社関係の懇親会で賓客と隣り合わせた時、話が続かないからよ。私はたいてい主賓や重要人物の隣に席を当てられるでしょう。同じ年代ならともかく、格のある方はたいてい五十代か六十代、中には八十代や九十代の方もいらっしゃるから、話を合わせるのも大変なのよ。まさか高齢の重鎮を相手にお洒落や恋愛の話をするわけにもいかないしね」
「そうだろうね」
「パパにもきつく言われているの。自身の見解は持てなくても、最低限、相手の話は理解できるようになれと。どうしても間が持たない時は、とにかく微笑むようにしてるわ。無知なお嬢さんと思われても、不快にさせるよりはましだから」
「それでも十分意義があるじゃないか。さっきの担当者も俺の話に辟易してたけど、君に替わった途端、身を乗り出してきた。俺一人なら膠着したまま終わったよ」
「そんなことないわ。あなたの話もとても分かりやすくて、説得力があるわよ。ただ目に見えて利益に繋がる話ではないから、人によっては思ったような反応が得られないだけで、海洋情報ネットワークのコンセプトは十分に理解されているはずよ」
「それでも差しで人を説得するのは難しい。どうしても相手の態度によって緊張したり、気後れしたりする。さっきの担当者も顔を見た瞬間、駄目だと分かった。それでも話すべきことは話さないといけない。時には右から左に聞き流されて、タコに説法しているような気分になる」
「それが普通よ。どこの会社も我が身が大事だもの。いきなり新しい企画を持ちかけられて、諸手を挙げて賛成する人などないわ。それより、今後もずっとこんな風にヒアリングを続けるつもりなの? メールや電話で済むこともあるでしょうに」
「直接会って話すから意味があるんだよ。どこの誰かも分からない、まして肩書きもポジションも何もない人間から唐突にメールや電話を受け取って、相手が真剣に考えると思うかい? 詳しい資料を送っても、ちらと見て終わりだ。そんなコミュニケーションに何の意味がある? それより面と向かって話した方がいい。お互い相手が分かるし、誤解も少なくて済む。俺みたいにコネも実績も無い人間が大勢の支持を得ようと思ったら、自ら出掛けて、説得する以外にないんだよ」
「あなたもパパと同じ事を言うのね。パパも、一に面談、二に面談、重要な話は決してメールや電話で済まさない。どんな面倒な案件も、相手の目を見てはっきり物を言うの。それが一番効果的だって。どんな案件も初回の面談が一番気を遣うと思うわ。相手が何もので、どんな反応が返ってくるのか、アポイントの段階では十分に見えないから」

<中略>

「もう少し、ヒアリング調査の対象を『海洋産業』に絞り込んではどうかしら。スイミングウェアを売っているスポーツショップに聞いても、戸惑うだけだと思うわ」
「俺にもそれぐらい分かってる。先方が戸惑うのも、重々承知だ。だが、どんな些細な事でもいい。前に進むヒントが欲しいんだ。フェールダムの再建コンペに取り組んでいた時も、堤防や土壌改良の助言をくれる人があれば、どんな遠くでも出掛けていった。たとえ十分ほどの会話でも、相手に直接会って話を聞くのは、ウェブサイトの資料を眺めるより心に感じるものが全く違う。あちこち訪ねるうちに、思いがけない所から意外な情報を得ることもあるしね。多分、十中、八、九は無駄足だ。だが、何が無駄で、何が有用かは、最後まで見ないと分からない。自分でも要領が悪いのは百も承知だ。でも、要領のいい人を真似たところで、上手くやれるとも思えない。俺みたいな人間は自分のペースでやっていくしかないんだよ。たとえ傍には不器用に見えても」