12-2 鉱山会社の法令遵守 隠蔽と中傷

建築

ファルコン・マイニング社のロバート・ファーラーがトリヴィアの大手メディアに出演し、ウェストフィリア開発の意義を高調すると共に、採鉱プラットフォームの海洋汚染を指摘し、あたかもMIGが利益誘導してきたかのような印象を与える。

同時期、新聞にも中傷記事が書かれ、採鉱事業の担当者からも不安の声が聞こえる。

リズは、チャリティを利用したロバート・ファーラーの巍然と厚顔無恥を思い出し、彼らのやり口に激しく憤る。

そんな折り、鉱業局から立ち入り調査に関する通達があり、現場に再び緊張が走る。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「ウェストフィリア開発公社は、自治領政府、ファルコン・マイニング社、ファルコン・スチール社、スタットガス、GPオイル、カメル・コーポなど、名だたる企業が合同出資して設立されました。またステラマリスの海洋調査会社オーシャン・リサーチと事業提携し、ウェストフィリア島および周辺海域に埋蔵するガス、オイル、鉱物など、様々な天然資源の探査を行う予定です。当面は自治領政府の提示する『十ヶ年開発計画』に基づき、陸海両面からの基礎調査、資源量評価、物理探査や生産技術の検証などを行いますが、商業化に向けた準備が整えば順次、事業を分割し、民間企業に譲渡する予定です。周知の通り、アステリアは、ローランド島のリゾート施設や分譲住宅地を中心に急ピッチで開発が進み、今後ますます資源の自給自足が必要とされます。ウェストフィリアの資源開発に成功すれば、現在、原料調達にあえぐ現地企業の負担を軽減するばかりでなく、『第二のネンブロット』としてトリヴィア経済を支える大きな基盤となるはずです。ウェストフィリアは数十年の長きにわたり、そのポテンシャルが取り沙汰されてきましたが、具体的な開発計画に着手されることはありませんでした。この度、社会の要望に応え、本格的な資源探査に乗り出せることを悦ばしく感じております」
 まるでウェストフィリアの資源開発に成功すれば、アステリアにもトリヴィアにもバラ色の未来が開けているかのような口調であった。
 だが、話が一段落すると、女性キャスターはすかさず身を乗り出し、
「しかし、現時点で、ウェストフィリア島には船を係留する施設も、道路も、通信網さえ開かれていないと聞いています。それについては、どのように対処なさるおつもりですか」
とファーラーの滑舌を遮るように質問した。
 すると、ファーラーは前から用意していたシナリオを読み上げるように答えた。
「本来、開発の主対象とすべきウェストフィリアに社会基盤が作られなかったのは、既にローレンシア海域に進出している一企業の意向が大きく影響したからだと聞いています。本来、公共に還元すべきアステリア開発を私物化し、今度は海底鉱物資源を独占して、巨利を貪っているのです」

<中略>

『海底鉱物資源の採掘は本当に安全なのか?』
 二千字ほどのコラムだが、売り上げナンバーワンの日刊紙『デイリー・エクスプレス』に掲載されていること、寄稿しているのが辛口の社会評論で人気のコラムニストであることからインパクトは大きい。
 氏の主張を要約すれば、「海上プラットフォームを利用した採鉱システムは危険性が高く、廃棄物の流出や海底地形の変化による環境破壊も深刻である」「ステラマリスでは十数年前からすべての海上プラットフォームが操業を停止し、海洋環境の保全に努めている、現在、アステリアで行われている海台クラストの採鉱は、安全性を無視した前時代的な方策と言わざるをえない」――というものだ。
「今更、こんなことを持ち出すなんて」
 採鉱事業部の部長が憤懣やるかたないように言った。
「採鉱プラットフォームは企画の段階から政府の専門機関で設計図や提案書を元に何度も協議が繰り返され、ようやく安全性や経済効果が認められて着工の認可が下りたのですよ。昨年も三度のテスト採鉱で厳しい審査を受け、産業省の技術開発機関から高く評価されて操業に至ったのです。それに海洋汚染というなら、沿岸の工場や居住区から排出される重油や産業廃棄物も同様でしょう。これも海洋安全局が中心となって海水や海底堆積物の調査を進め、浄化技術の研究を推し進めています。でも、知らない人がこの記事を見れば、海上施設でそんな危険な作業が行われているのかと疑念を抱くでしょうね」
「それに記事中程にある『劣悪な労働環境』というのも、あまりな言われようですね」
 採鉱事業部で福利厚生を受け持つ古株の担当者がオンラインでこぼした。
「確かに、通常でも一~二週間、状況によっては一ヶ月近く海上施設に拘束される不便はあるものの、他の海上勤務に比べれば融通は利く方です。アコモデーションズも狭いながらシャワー・トイレ付きの個室ですし、これも従業員の強い要望を取り入れて、ぎりぎりの予算でアレンジしました。食事も、娯楽設備も、貨物船や作業船に比べればはるかに充実していますし、何をもって『劣悪』というのか理解できません。プラットフォームの安全性を問うなら、こんな紙面ではなく、関係者の立ち会いの元、然るべき場所で意見を交わすべきでしょう。このコラムニストも一度も現場を訪れたことがないくせに、どうして危険だと断言できるのか、首をひねりたくなります」

Product Notes

『商人と屏風は曲がらなければ立たない』という諺があります。

「正直なだけでは商売として成り立たない」という現実的な視点で語られた言葉です。

私がこの諺を知ったのは、故・伊丹十三監督のヒット作『スーパーの女』。

客に誠実なスーパー『正直屋』において、徹底した合理化、現実主義で経営を推し進め、「リパックも商売の知恵だ」と主張する役員に対し、主人公の花子(宮本信子)が、「商売と屏風は曲がらねば立たぬ。これが、このスーパーのテーマソングみたいね」と反論する場面です。

それはリパックに限らず、何でもそう。世の中には『必要悪』という都合のいい言葉があって、実際、その通りなのかもしれないけれど、十年後、二十年後の、企業の質(=製品)を見てごらん、って話です。

ちなみに1990年半ば、私の周りの主婦はダイエー消滅を予言していました。特に生鮮食品がサイアクで、駅前の大型店舗も閑古鳥だったのです。その二百メートル先に、ちょっと割高だけども、産地直送の新鮮な野菜や果物を扱う小さなスーパーがオープンした途端、買い物客が殺到。ものの見事にダイエーの店頭から主婦が消えて、非常に興味深かったです。ちなみに、私が利用していたダイエーの食材宅配サービスも、野菜、肉、何もかも、劣悪でした。

食品の鮮度だけが理由ではないけれど、流通がどう、合理化がどう、と、大看板を立てたところで、主婦が何を求めているか、理解してないところに客は来ないでしょ。主婦に嫌われるということは、国民の半分(=消費者)を
失うことでもありますしね。

何にせよ、技術と庶民感覚のない会社に未来は無い、ということで。

庶民というのは、社会を底辺から支えている、物言わぬ善良な人々のことです。