28-4 運命は強い者を選ぶ 女神が下界を見下ろす時

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山

アイデアコンペ表彰式の質疑応答について、メイヤーはメディアで「偏執狂」呼ばわりし、彼もまた心を傷つけられる。

リズも怒り心頭で、今すぐにも彼の所に飛んでいきたい衝動に駆られるが、父の仕掛けたシナリオが完成するまで迂闊なことはできない。

高層階から下界を見下ろす彼女の目には、地上で必死に頑張る人々の姿が見える。

「人間って小さいけれど、なかなかやるものだと思いませんか? あそこで荷物の積み卸しをしている人も、ベンチに腰掛けている人も。ここから見下ろせば、ちっぽけな粘土細工みたいだ。でも、それぞれに人生があり、心がある。その内なる宇宙は計り知れません。本当は生きているだけで奇跡なのだと思います。たとえ大物になれなくても、思う通りに生きられなくても」
 リズが意外そうにエイドリアンの横顔を見上げると、
「僕も理事長から多くを学びました」
 エイドリアンは控えめに答えた。
「あの人も立派ですよ。メイヤーと肩を並べなくても、分かる人には分かります。最初は全然そうは思わなかったけど」
「だからこそ、待ちたいの。これで終わりとは、どうしても思えない。きっとまた立ち上がる。そういう魂に生まれついた人よ。離れていっそう、それが感じられる。だから父も目を引かれたのよ」
 リズは雲間を覗くように足下を見渡した。
「子供の頃、一度だけ、インダストリアル社の社長室に入れてもらったことがあるの。階上から見下ろす町並みは、まるで世界の縮図みたいだった。その時、父が尋ねたわ。『あの中から一人だけ、お前が味方するとしたら、どんな人間を選ぶ?』。私は少し考えた後、『一所懸命に頑張ってる人よ』と答えた。すると父は頷いた。『運命の女神も、お前と同じことを考えるだろうね』。今、こうして眼下を眺めても、人それぞれに願いがあり、人生がある。誰もが成功を望み、幸せに生きたいと願っているわ。でも、誰か一人に手を貸すとしたら、心の強い人よ。踏まれても、傷ついても、何度でも立ち上がる。どれほど才能があっても、途中で諦める人に、運命の女神も手の差し伸べようがない。最後は意思の力が全てを左右すると思うわ。だから、私ももうしばらくここで待ちたいの。もう一度、あの人の声が天に届くまで。その時には、必ず幸運が味方する。そして、父の遺志がリングを形にするでしょう。全てがシナリオ通りになった時、私も運命の輪から解き放たれて、ここから降りていける」

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Product Notes

私も神様の視点で下界を見下ろすのは好きです。
似たことを松下幸之助も著書で書いていました。
松下さんの場合、「誰を選ぶ」という話ではなく、「みな一人一人、尊い」という教えでしたが。

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