3-4 ドラッグの誘惑 帰る家もなく

ダンボ 親子

ある日、ヴァルターは学校の空き地で上級生のマルコに声をかけられる。
他の同級生とは異なる庶民的な雰囲気と親しみやすさからヴァルターも気を許し、勧められるがままにハーブシガレットを口にする。

彼は疑念を感じながらも、好奇心と自棄の気持ちからハーブシガレットを口にし、抵抗もなくなってしまう。
その後、マルコは『清涼剤』を持ち出し、「ハーブシガレットをより楽しむ為の香辛料」と説明する。
それは「清涼剤」とは思えぬほど爽やかで、夜もぐっすり眠れる、魔法の粉薬だった。

そんな中、ヴァルターは母と継父の夫婦関係を知り、ひどくショックを受ける。

母親を口汚く罵ったことで、彼もまた継父から詰られ、ある晩、「清涼剤」を大量に口にする。

病室で、ぼろぼろに傷ついた息子の姿を見ながら、
「どうしてもここで暮らすのが嫌なら、一緒にフェールダムに帰っていいのよ。お母さんが間違ってた。あなたの望み通りにすべきだった」
と母は言うが、彼は背を向けるだけだ……。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 日も暮れて、マルセイユの波止場に足を運ぶと、きらびやかなフェリーが外洋に向かって出航するのが見える。
 俺も遠くに行きたい。
 奴隷の母子みたいに金持ちに囲われて卑屈な思いをするのではなく、自分の力で生きて行きたい。
 ふと水面を見ると、背も高くなり、顔つきもいっそう男らしくなった自身の姿が映っている。 一時期、ジーンズがずり下がるほど痩せて、トレーニングで鍛えた足も山羊のように細くなったが、ラクロワ邸に暮らし、お腹いっぱい食べるようになってから肉付きもよくなり、背もいっそう高くなった。それについては感謝もするし、母が社会的な保護を得て、衣食住にも困らず暮らせるなら、それが一番と思う。
 だが、それ以外には何もない。
 優しい抱擁も、笑いも、心に染みる教えも。
 本当の家に帰りたい。
 でも、どこに帰ればいいのか。
 いつしか夜も更け、無数の星が瞬きだした。
 そろそろ屋敷に戻らないといけないが、母とジャン・ラクロワが枕を並べる住まいに帰りたくない。「一緒に暮らすだけ」と言ったのに、いつからそんな風なのか。ずっと前から、父を裏切り、息子も騙しながら、今も愛してるような振りをしてきたのかと思うと、ぞっとする。これでは最後の瞬間まで愛を信じて、家族を守る為に死んでいった父があまりに哀れではないか。
 再び怒りが突き上げ、(あんな所に二度と戻るものか)と拳を握りしめた。
 そうだ、このまま外洋船に飛び乗って、行方をくらましたっていい。
 汚らわしい屋敷で偽りの家族を演じるくらいなら、どこかで野垂れ死んだ方がましだ。