3-13 意匠の盗用と示談書 CADとコピー

『緑の堤防』が再建コンペで二位を勝ち取り、これで住民の声も大きく反映されるだろうと期待が高まったのも束の間。
ヴァルターはロイヤルボーデン社に呼び出され、39年前の土木専門誌に掲載された広告用パースの意匠を盗用したと追及される。

告訴すると脅かされ、仲間を庇う気持ちで、訳も分からず示談書にサインをしてしまう。

失意のどん底でアパートに帰り着くが、ヤンの口から聞かされたのは思いがけない言葉だった。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「どうやって描画した? 君は潜水艇のパイロットで、大学の専攻も海洋学だ。土木のことなど何一つ知らない」
「専門的とは言えませんが、父が治水管理局の技術者で、堤防や干拓の話をしょっちゅう聞かされました。描画も、父がGeoCADを使うのを子供の頃からずっと側で見ていましたし、自分でもGeoCAD KidsやGeoCAD Juniorで遊んでいました。ソフトウェアを使って図形を描くのが得意だったんです」
「GeoCAD KidsにGeoCAD Juniorねえ」
「潜水艇のパイロットがGeoCADの操作に長けてはいけませんか」
 彼も精一杯、反論した。
「プロのデザイナーでなくても、ハウスメーカーの営業部員が顧客にイメージを伝える為にGeoCADで簡単なパースを描く例はあるし、パソコン教室のインストラクターだってユーザーに使い方を説明するぐらいの知識や技術は持ち合わせています。GeoCAD Civilのように高度な製品は無理ですが、GeoCAD Standardなら工業高校の生徒でも入門編に使用しています。俺も自分で使い方を学んだんです。教本を読んだり、メーカーのユーザーフォーラムを利用したり、時には講習会に参加したり。プロのデザイナーでなくても、一年もみっちり勉強すれば、住宅パースぐらい描けるようになります」
「住宅と堤防は違うぞ」
「でも基本操作は同じです」
 するとローゼンブルフは足を組み替え、
「君は『3Dキャプチャー』という技術を知っているかね。対象物の画像をスキャンして、コンピュータ設計支援のソフトウェアで解析し、基礎フレームを構築する。元々は、自分でマイホームやオフィスビルの外観をデザインしたいというユーザーの為に開発された技術だが、最近では意匠権トラブルの元凶になっている。無知な一般ユーザーが、住宅メーカーのカタログで目にしたパースをソフトウェアに無断で取り込み、基礎の設計データを簡単にコピーできるようになったからだ。それに気付かぬ業者がさらに手を加えて、オリジナルのように完成してしまう。後でメーカーの作品と酷似していることが発覚し、よくよく突き詰めてみれば、3Dキャプチャーが原因だ。時には有名建築家の作品までコピーされることもある。この問題は、どこまでが応用で、どこからが意匠権侵害に相当するのか、法律の専門家でも線引きが難しい。だが、この便利な機能が、『オリジナルを真似て、適当に手を加えれば盗用には当たらない』という誤った認識を広めているのは確かだ。そこで質問だが、君も本当は3Dキャプチャーで当社の広告用パースをGeoCADに取り込み、基礎フレームを描出したんじゃないかね。その後、色やテクスチュアを微妙に調整して、似て非なるジオグリーンを作り上げた。多少手を加えれば盗作には当らないと踏んでね」
「そんなことは断じてありません。俺は本当に新規キャンパスから立ち上げたんです。基礎フレームも自分で一本一本、線を描きました。キャプチャーなんて考えもしません。それにジオグリーンの技術を取り入れたパースは他の会社だって使っています。『緑の堤防』が意匠の盗用というなら、世界中、コピーだらけじゃないですか」
「だが一つ、決定的に違う点がある。他の会社は技術を応用しただけで、デザインまでは真似てないんだよ。だが『緑の堤防』は、明らかに我々のパースを模写してる。君は素人だから知らないだけで、我々の業界では君のような例を『盗用』というんだよ」

Product Notes

ウォールのPhoto : https://www.netgains.org/cad-services-india/