3-12 プレゼンテーションと故郷再建の願い

オランダ 干拓地

『緑の堤防』は地元民の支持を得て、順調に予選を勝ち抜く。
そして、最終審査のプレゼンテーション。
「lactor et emergo (わたしは闘い、水の中から姿を現す)」のゼーラント州の記章を胸に、ヴァルターは全力で故郷再建の想いを語る。

彼らの『緑の堤防』は地元住民の圧倒的な支持を得て、堂々の二位に立つ。

だが、意外な落とし穴が待ち受けていた――。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 彼は今一度、深呼吸すると、生涯を貫くあの一言から始めた。
「lactor et emergo (わたしは闘い、水の中から姿を現す)。ゼーラント州の記章に刻まれたモットーを今ほど痛感することはありません」
 彼はプロジェクターに『緑の堤防』に映すと、幾千の聴衆に向かって語り始めた。
 まず最初に洪水直後に撮影された湖岸や沿海部の上空写真、一年経っても泥沼のように腐敗し、草一本生えないデンボンメルの森の跡、コンクリートの破片や巨石が転がる田畑、かつてそこに愛らしいフランドル風のタウンハウスが建ち並んでいたとは思えない住宅街の瓦礫の山。人々が忘れようにも忘れられない悲劇的な光景が映し出されると、彼もまた改めて被害の大きさに胸を貫かれた。
 だけども、lactor et emergo 。何世紀も前から、フェールダムの人々も幾度となく水害と闘ってきた。家を失い、田畑を流され、愛する人を失ってなお、水の底から立ち上がり、より強い堤防と干拓地を築き上げてきた。
 そして、我々の代もそうする。
 脈々と受け継がれてきた治水の知恵と技術を決して無駄にはしない。
 次に、再生の具体案を提示した。
 壊滅的な打撃を受けた北の沿岸部を中心に、無害な廃棄物を使った人工地盤を造成し、糞畜ベースの高機能堆肥や木片、古紙を再利用した土壌改良材を用いて農地の再生と干拓地全体の緑化を促す。
 また北側の盛り土堤防はインプラント工法を用いて嵩上げを行い、全体の強化を図ると共に、人工地盤と一体化した『緑の堤防』として沿岸の美観を整える。
 同じように、締め切り堤防には大口径の鋼管杭を連続的にに打ち込み、防潮機能を高める。
 最後に『緑の堤防』の鳥瞰図――画面の左手前から右上方にかけて真っ直ぐに伸びる締め切り堤防とそれに続く盛り土堤防、その内側に豊かに広がる緑の干拓地のイメージを映し出すと、
「フェールダムの干拓地を新たに作り替えるのも有意義かもしれません。けれども、多くの元住民は以前のフェールダムに帰りたがっています。たとえ現在の住まいが遠く離れていても、二度と戻ることが叶わずとも、自分の愛した故郷が変わらずそこに在ることが心の支えなのです。何もかも洪水に押し流され、町として完全に壊滅したとしても、どうして『死に絶えた』などと諦めがつくでしょう。目の前に愛した我が家はなくとも、チューリップの咲く庭、スープの匂いが漂うキッチン、父が仕事をしていた書斎、サッカーに興じたグラウンド、全て鮮やかに記憶に残っています。以前と変わらぬ姿を取り戻すことがどうして時代遅れであり、不経済だと言い切れるのか。故郷は自身の血肉であり、人生の礎です。我々が求めているのは、心が回帰する場所なのです。どうか思い出して下さい。『この世界は神が創り給うたが、ネーデルラントはネーデルラント人が造った』という諺が我々の社会の背骨です。一緒に再建しましょう。Luctor et Emergoを合い言葉に」

Product Notes

幾度となく大水害に見舞われてきたオランダの沿岸地帯。

オランダ 洪水
Photo : http://goo.gl/2zSzoC

干拓の技術を分かりやすく伝える。

干拓 技術
Photo : http://www.iamexpat.nl/expat-page/the-netherlands/the-dutch-and-water-in-the-netherlands

干拓 技術
Photo : http://www.heardutchhere.net/duoutdoors.html

ウォールのPhoto : http://bridge2more.com/doing-business-in-the-netherlands/