1-3 Lactor et Emergo わたしは闘い、水の底から姿を現す

深海

再建コンペのプレゼンテーションに現れたヴァルター・フォーゲルは、海洋技術センターのしけたプロフィール写真とは全く異なる、雄々しい若者だった。

「大地こそ永続する社会の礎」
「緑なくして未来なし」
「くに作りは百年の計」
「大地は何度でも水の底から姿を現し、生きる力を与える」

壇上のヴァルターは、『Lactor et Emergo (わたしは闘い、水の底から姿を現す)』ゼーラント州のモットーになぞらえ、洪水で壊滅した故郷の再建を力強く訴える。

アルはメールの返信から居場所を突き止め、採鉱システムに関する仕事をオファーするが、ヴァルターの返事は素っ気ない。
持ち金も底をつき、不法滞在で逮捕されるのも時間の問題という中、身の上を案じたアルは、調査員に命じて、彼のPCと『水を治める技術のアーカイブ』を監視させる。

その過程で知り得た『リング』と呼ばれる海洋都市のデザインこそ、アステリアの社会を根本から変えるビジョンだった。

この男と『リング』が未来の曙光となるか、アルはフォルトゥナ号で一路、彼の元に向かう――。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 違法を承知でパスワードを解き、その先を辿ると、大海原に拓かれた美しい円環都市の鳥瞰図が描かれていた
 作品のタイトルは『Der(デル) Ring(リング)』。オランダ語の『De Ring』ではなく、ドイツ語の冠詞だ。おそらく、父親に関連する何かだろう。
『リング』は二重の円環ダムに仕切られた海底の干拓都市*1だ。
 鳥瞰図に添えられた解説によると、外周ダムの直径は十五キロメートル。幅一〇〇メートルの鋼製ケーソンを連結して構築し、海水の浸入を防ぐ。その内側にもう一つ、重力式コンクリートダムを建造して内部の海水をドライアップし、現出した海底面に都市を築くアイデアだ。
 内周ダムの法面には緑化を施し、心理的な威圧を緩和すると共に、花壇や菜園として活用し、雨水の吸収や空気の浄化に役立てる。
 一方、都市部には運河と排水設備を張り巡らせ、土壌改良を施して、ネーデルラントの干拓地のような町並みを作り出す。そこにはオフィス、工場、集合住宅、サッカースタジアム、様々な建築物が可能だ。
 外周ダムに浮体式の海上構造物を連結すれば、船舶の係留や物資の保存、エネルギープラントなど、様々な機能を付加することができる。また、鋼製ケーソンの内部を水力タービンやパイプライン、産業廃棄物の処理に利用することも可能で、その拡張性は計り知れない。
 そして、一つ成功すれば、二つ、三つと、リングを増設することも可能であり、惑星表面積の九十七パーセントを海洋で覆われたアステリアにも「百万人が暮らす自治市(シティ)」を構築することができる。
 アルは思わず立ち上がり、MIGの技術開発部長に電話をかけようとした。
 だが、ちょっと待て。
 これは不正に知り得たアイデアではないか――。

Product Notes

ゼーラント州の州章。『Luctor et Emergo』は私の大好きなモットーです。
干拓地の歴史と地元民のスピリットをよく表現しています。

Luctor et Emergo ゼーラント州 記章