1-1 MIGとニムロディウムと鉱山会社の寡占

タロット 運命の輪

アンナ・ドミノの末期、みなみのうお座星域に打ち上げられた無人探査機が一つの鉱石を持ち帰る。
そこから発見された新物質『ニムロディウム』によって、宇宙開発の技術は飛躍的に進歩するが、最大の鉱床、ニムロデ鉱山がファルコン・マイニング社に独占されたことにより、政治、経済、あらゆるものがマイニング社の影響下におかれ、ファーラー一族による一党支配が始まる。
この流れを変えるには、惑星表面積の97%が海洋で覆われた「海の星」、アステリアの深海からニムロディウムを含む海底鉱物資源を採掘するしかない。
特殊鋼業界の雄、MIG(マクダエル・インダストリアル・グループ)の雄、アル・マクダエルは、社の命運を賭して採鉱システムの開発に挑む。
ところが、まさかのプロジェクト・リーダーの失踪。
アルの運命もまた大きく変わろうとしていた――。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 二世紀前。Anno(アンノ) Domini(ドミニ)(西暦)の末期。
 みなみのうお座に向けて打ち上げられた無人惑星探査機パイシーズが、『ネンブロット』と呼ばれる赤茶けた惑星から一つの鉱石を持ち帰った。程なく鶏卵ほどの赤い石から新物質『ニムロディウム』が検出され、これを鉄や銅などのコモンメタルに微量に添加すると、有害な宇宙線の遮蔽能力が格段に向上することが明らかになった。それを皮切りに、ニムロディウムを用いた合金設計の技術も飛躍的に進歩し、それまで絶対不可能とされた恒星間航行の推進装置や、高機能な宇宙構造物が建造可能となった。
 この流れを受けて、ネンブロットの鉱物資源開発に乗り出したのが国際資本グループ『トリアド・ユニオン』だ。代表会議の場に幾つもの三色旗が並んだことから、当初は『トリコロール・ユニオン』と呼ばれていたが、出資者の増加に伴いトリアド・ユニオンに名称を改めた。そのシンボルは「三つ叉の矛」である。
 トリアド・ユニオンの他にも多くの資本がネンブロット進出を目論んだが、トリアド・ユニオンに決定的な優位をもたらしたのがニムロデ鉱山の発見だ。
 ニムロデ鉱山は、ネンブロットの赤道直下に広がる二六〇万平方キロメートルにも及ぶ巨大な単体火山だ。地下深くにはニムロディウム含有率三〇パーセントを超えるニムロイド鉱石の大鉱床が広がり、これをいち早く手中に収めたのが、トリアド・ユニオンの基幹企業『ファルコン・マイニング社』である。
 当時、宇宙開発には幾多の問題が横たわっていた。その最たるものが、旧時代に制定された宇宙開発法「宇宙の領土はいかなる国家にも属さない」という規約である。この曖昧さゆえに、宇宙開発の主導権は『国』ではなく、超国家的な他国資本グループが掌握していた。かつて宇宙船の船体には国家の偉業を称えて国旗が描かれたものだが、新時代の宇宙船には出資した企業のロゴがずらりと並んでいる。
 そんな中、ファルコン・マイニング社がニムロデ鉱山の鉱業権をいち早く取得したのも、宇宙鉱業法が強化される以前の、先願主義の賜だ。
 ファルコン・マイニング社は、宇宙文明の基礎であるニムロディウム市場を瞬く間に独占し、「マイニング社の採掘機が止まれば宇宙船も飛ばない」と言われるまでになった。
 更に系列会社であるファルコン・スチール社がニムロディウムの製錬法を確立し、優れた強度や耐久性を備えたニムロイド合金の大量生産が可能になると、宇宙航空、建設、恒星間通信など、宇宙文明を支える技術が飛躍的に向上し、宇宙植民時代が幕が開けた。
 これを機にUST歴(世界標準時間(ユニヴァーサル・スタンダードタイム))が導入され、人類は宇宙に向かって爆発的に領土を広げたのである。

Product Notes

本作に登場する『ニムロディウム』は架空の物質です。

現存するレアメタルを小説のアイテムとして利用するより、宇宙の彼方で見つかった『新物質』にした方がフィクションとして組み立てやすいと考え、「惑星ネンブロット」「ニムロデ鉱山」という舞台を設定しました。

『ニムロディウム』にまつわる様々な出来事は、フィクションではありますが、様々な社会問題をモチーフにしています。
それに対する答えも作中に描いていますので、現存するエネルギー問題や鉱業問題と照らし合わせながら、今、世界で何が起きているか、考えるきっかけにして頂ければ有り難いです。

金属や鉱業に興味が湧いたら、JOGMEC石油天然ガス・金属鉱物資源機構の『金属資源レポート』など、資料をご覧になると面白いですよ。

金属資源レポート

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注釈

*1 Fortes fortuna adjuvat(運は勇敢な者たちを助ける)
ラテン語名句小辞典』 野津寛(著) 研究社
*2 引用 新約聖書『ローマ人への手紙』第十二章・第十七節~第十九節(文語訳)
文語訳 新約聖書 詩篇付 (岩波文庫)

『アル・マクダエル』のキャラクターは海洋科学技術センター(現・JAMSTEC)の元理事長さん、堀田宏先生へのオマージュです。(タヌキではないです)
詳細は「あとがき」に綴っています。

『タヌキ』のイメージは、某エネルギー会社の理事長さんです。この方も満顔万福みたいな優しい人でした。

たぬき
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