8-6 生物冶金と採鉱システムの可能性を世界に知らしめる

製鉄所

リズはローレンシア島の製錬工場を見学し、海台クラストの採鉱事業が収益だけでなく、採掘や生物冶金の可能性を世界に知らしめる目的もあることを理解する。

一方、ヴァルターはローレンシア島に帰島し、アルに冷やかされながらも、リズとの距離を近付けていく。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 製錬工場は第一埠頭の北側にあり、遠目には船会社の倉庫みたいだが、内部は高度な空調システムが取り入れられ、バイオ工場のような様相である。
 プラットフォームから運び込まれた細粒状のクラストは第一チャンバーでさらに細かく選別され、還元分離や溶解の工程を経て、九九・九九九九九パーセントという高純度のニムロディウムに精製される。その過程で特殊な微生物が使われるため、一部のスペースはバイオ工場のように室温や湿度が一定に保たれているのだ。
 リズは、エンタープライズ社の担当や区の行政官、ローカルメディアの取材チームに同行し、オートメーションの制御室やラボラトリ、廃棄物の処理施設などを見て回った。
 製錬されたニムロディウムは棒状や粉状の中間生産物に加工され、大型トラックで島の北東部にある宇宙港に運搬されるが、現在は行政の立ち入り検査のため倉庫にストックされている。
 十月十八日、第一弾の原鉱が到着して以来、製錬工場もフルピッチで稼働しているが、プラットフォームの選鉱プラントで処理されるクラストに若干品質上の問題があり、採鉱システムや選鉱プラントの担当者らと毎日のように協議している最中だという。
「採鉱システムが正常に稼働するからといって、必ずしも理想通りにはいきません」と工場長も渋い顔をする。「要は鉱石の品質の問題、肝心の金属成分が回収できないことには、何トン掘ったところで意味がありませんから」
「それは破砕機に問題があるのですか? それとも選鉱プラントの処理能力に依るのでしょうか?」
「それを今、究明しているところです。破砕機がクラストを掘りすぎているのか、あるいはマッピングデータそのものに間違いがあるのか――。陸上の鉱山と違い、水深三〇〇〇メートルの堆積物や岩盤を肉眼で確認することはできませんから、一度、問題が生じると原因を特定するのは難しいのです」
「では経済的なロスも多いのですか?」
「それは長期にわたって収支を分析しなければ分かりません。ニムロディウムの市場価格にも左右されますし、採鉱や製錬が順調だからといって、利益にならなければ採鉱事業そのものが負担になってしまいます」
「負担になる」ということばがリズの心にぐさりと突き刺さった。
「しかし、まだ始まったばかりです」
 工場長も口調を新たにする。
「鉱業に限らず、天然ガスでも石油でも、そうそう計画通りには行きません。相手は地下深くに眠る自然物です。いくら技術が発達しても、完全には把握しきれません。だけども、ここでの生物冶金の手法は世界的にも注目されていますし、既に幾つかの特許も取得しています。仮に目標値を十分に達成できなくても、他が生物冶金の技術を導入すれば、かなりのロイヤリティが入りますし、一部では『真空直接電解法』に匹敵する技術革新と期待されています。二の手、三の手は打っていますからご心配なく」
 そうか――とリズは納得した。
 プラットフォームも製錬工場も莫大な収益を上げることが目的ではない。父も『一つのモデルケース』と言っていた。
 世界に知らしめる。
 ニムロデ鉱山やファルコン・マイニング社が唯一無二の存在ではないこと。
 アステリアの海に莫大な鉱物資源が眠っていること。
 それを商業的に採掘する方法があること。
 硫化ニムロディウムに様々な可能性が秘められていること。 
 人が生き甲斐を感じられる職場や社会もあること、エトセトラ。
 ならば私も父のビジョンを信じよう。 
 ある意味、ファルコン・マイニング社が重い腰を上げたのも、プラットフォームの採鉱事業が無視できない存在になり始めた証ではないか。 

Product Notes

資料を集め始めた頃、一番に躓いたのが、「製錬」と「精錬」の違いです。

さらに「選鉱」と「採鉱」、「精練」と「精錬」(これもボーっとしてると間違う)、素人にとっては、言葉だけではイメージが掴みにくいです。英語のように、Dressing、Refining、Smeltingと、動詞に直結する言葉なら、イメージもしやすいのですが。

選鉱/製錬とは(Dressing/Refining)

神戸製鋼のページにも、原鉱の仕入れから金属製品の相場決定まで、いろんな雑学が掲載されています。

私は関西人なので、やはり神戸製鋼の工場群に親しんできた影響が大きいです。
化学式は理解できなくても、社会の基盤になっている流通や製造について、少しでも知見を広めると、面白いですよ。

昔は「鉄は国家なり」と言われていましたが、今でも凄まじいパワーを感じます。