8-5 海洋情報ネットワークの概念とメリット

海洋情報

産業振興会の役員や海洋行政の担当官、コンサルティング部の営業主任や沿岸調査会社の役員など、様々な分野の専門家を集めて、「海洋情報ネットワーク」のプレゼンテーションを行う。

様々な質問に対し、ヴァルターは「いつの時代も、最後に世界を動かすのは大衆の良心」と締めくくる。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
 プロジェクタには『海洋情報ネットワーク』の構想を分かりやすく伝え画像やテキストが次々に映し出され、一気にアイデアに引き込まれる。 
 彼は「今後のアステリアの方向性」に主眼を置き、「海洋都市」のメリットを活かした自治体の基盤作りを説いた。
「それにはまず海洋調査データを社会資源として活用する必要があります。誰もが手軽に利用できるオープンデータ・システムを提供し、海への理解を深めるのです。提供する調査データは、海洋図、潮流、潮汐、波高、水温といった汎用情報から、海底地形、海底地質、海水分析、海底ボーリングなど、研究開発に必要な専門的データまで多岐にわたります。これまで行政や企業、学術団体などが個別に保有するデータを一元管理し、ポータルサイトを通じて、誰もが手軽に参照できるデータベース・システムを構築するのです」
 それから彼はネンブロットの鉱業が寡占や汚職など違法行為の巣窟となった経緯を語った。
 一つでも多くの企業を誘致したいが為の先願主義の探鉱権付与や、猫の目のように変わる鉱業法、鉱山に関する情報を一部の企業連合が「機密」を理由に独占し、排他的な環境を作り出したことなどを例に挙げ、
「アステリアはその逆を行く。社会資源としてのデータ共有によって、海の状態や可能性を広く知らしめ、公正と透明性をもって優良経済特区に育てます。大航海時代、海洋国家に発展した国々は、造船技術だけでなく、正確な海図を作成する知識や調査力にも長けていました。その海図に相当するのが海洋情報ネットワークです。それは単なる検索サービスにとどまらず、企業、研究者、行政官、一般ユーザーが分野を超えて意見交換したり、グループワークを行う場も提供します。他にも様々な応用が可能でしょう。ここには国境も領海も無いからこそ、より柔軟性に富んだシステムが構築できるはずです。こうした情報サービスは直ぐさま需要を呼び込んだり、テーマパークで観光客を集めるような訳にいきません。けれども、アステリアの海に何が有り、どんな可能性が秘められているか、多くの人が正しく理解することによって、海上の安全やマナーの向上、人材の育成や新規産業の創成など、海洋都市の基盤となるはずです。アステリアも次のステージに上ろうとしている今、真に必要とされるのは海洋都市としての通念であり、指針ではないでしょうか」

<中略>

「ここに、どれほどの資本をもって乗り込んできても、海を理解しないことには船一隻操縦することはできません。ローレンシア島とローランド島、一見双子のような島でさえ、海岸の形状も、海底の地質も、海況も大きく異なるのです。まして北方のウェストフィリアは大半を雪と氷に閉ざされた火山列島です。ローレンシア島での港作りのノウハウをそのままウェストフィリアに持ち込んでも、決して同じ調子には行かないでしょう。ファルコン・マイニング社が何を企てようと、前準備の海洋調査やインフラ整備だけで数年を要しますし、資源量把握はさらに長い歳月が必要です。その間、海台クラストの採鉱はMIGの独壇場です。それ以上にまだ先行者利益が必要ですか? ノボロスキ社やサン=セザル造船所も同様です。ライバル企業が乗り込んで対等に渡り合うには、まず同等の技術やノウハウを身に付けなければなりませんし、社長一人で気張っても、腕のいい海技士がなければウェストフィリアに航海することさえできません。その十年、二十年の合間に、法整備やインフラ強化、人材育成をしっかり行い、海洋都市の方向性を明確にすれば、たとえファルコン・グループでもそうそう身勝手な真似はできないはずです」
「では、仮にプロジェクトを立ち上げるとして、どんな準備が必要か説明してくれないかね」
 エンタープライズ社のコンサルティング部長が身を乗り出すようにして質問すると、彼はもう一度、自身で作成した里程標(マイルストーン)をプロジェクタに映した。
「データベースが提供する情報の種類は、大きく分けて二種類。海流、水温、海上気象、潮位といった自然科学的な情報と、港湾・沿岸の利用状況や船の運航、海洋開発計画や研究機関といった社会的な情報です。そこで、行政機関、民間企業、学術団体など、将来ユーザーになりそうなものを対象にヒアリング調査を行い、どんな情報を、どのような形で利用したいか、ニーズを把握します。たとえば、海況に関する情報も、海運業者の知りたいデータと、観光業者の知りたい事は全く異なります。誰が、どんな情報を必要としているかを把握し、システムのアウトラインを明確にするのが第一歩です。また、それに並行して、IT面の環境を整えます。サーバーは誰が管理するか、データシステムはどのように構築するか、ポータルサイトはどのようなデザインにするか、購入手続きはどうするか、システムの基礎が整い次第、徐々に情報提供を開始し、利用者のフィードバックを参考にしながらサービスを拡充します」
「それで本当に機密は守られるのかね」
「オープンデータ・システムは、一般ユーザー向けのコモンベースと、利用者を特化した機密ベースに分けて、個別に管理します。たとえば、エンタープライズ社の情報システムも、一般社員の使う汎用ネットワークと、機密ネットワークが完全に分離され、情報漏洩することなく上手く機能していますが、それと同じです」

Product Notes

海上保安庁の一部門として、『海洋情報クリアリングハウス』が存在します。

海洋情報クリアリングハウス

こちらはアメリカの海洋大気庁のオフィシャルサイト。

海洋大気庁

海洋大気庁

Photo : http://www.noaa.gov