8-3 コミュニケーションのとり方が分からない

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ヴァルターは海洋情報ネットワークの構築に向けて、草案づくりに没頭するが、リズには何の連絡もなく、不安は増すばかり。
自分から電話やメールをして相手の状況を確かめればいいのに、幼い頃からの習性でその勇気もない。
海岸で石のように立ち尽くすリズに、運転手のベルマンが言う。

一方、ヴァルターは、リズに何の連絡もとらず、「彼女も分かっているはず」と相手の気持ちなど何も考えようとしない。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「ところで、お嬢さんとは仲良くやってるの?」
 ミセス・マードックが唐突に切り出した。
「仲良く?」
「ええ、そう。電話でお喋りしたり、メール交換したり、順調に交際が進んでいるのかと訊いてるのよ」
「二週間前、電話で話したよ。ウェストフィリアのニュースがあった日だ」
「それだけ?」
「だって、今は特に話すこともないから」
「特に話すことがなくても、『調子はどう?』とか『気持ちは落ち着いた?』とか、いくらでも話題にすることはあるでしょう。あなた、自分の都合しか考えないの?」
「俺は俺でちゃんと考えてるよ。海洋情報ネットワークも、突き詰めれば彼女の安全とMIGの権益を守る為だ。俺にとってはそれが最大の誠意だよ」
「それは自分にとっての誠意でしょう。お嬢さんはもっと別の優しさを求めていると思うけど」
「別の優しさ?」
「そうよ。慰めとか、励ましとか」
「それなら二週間前に言った」
「いや、そういう問題じゃなくて」
「毎日、祈祷文みたいに繰り返すものかい? 俺が彼女を大事に思っているのは彼女だって知ってるはずだし、心の底でいつも気に懸けている。毎日のように説明しなくても、一度口にすれば十分だと思うが」
 マードック夫妻は呆然と顔を見合わせた。
「あなた、人間のコミュニケーションはイルカのテレパシーじゃないのよ。電話もせず、メールも送らず、心の底で気に懸けている事がどうやって相手に伝わるのよ」
「俺には俺の考えがある。今手がけている草案が完成したら、一番に知らせるつもりだ。物事に取り組んでいる最中にあれこれ実況中継するのは、俺の好みじゃない。どうせ話すなら、ちゃんと形にしてから伝えたいだけだ」
「お前が好む、好まないの問題じゃないだろう。彼女の方は五分でもお前の声を聞きたいと願っているはずだ。TVや食べ物の話でもいいじゃないか。もっと相手の気持ちも考えたらどうだ」
「彼女だって電話もメールもしてこないんだ。俺一人が悪者にされるのは腑に落ちない」
「遠慮してるんだよ。お前に迷惑をかけまいと」
「遠慮?」
「そうに決まってるじゃないの。あなたの状況や自身の立場を思えばこそ、そこいらの女の子みたいに気軽にアクションを起こせないのよ」
「じゃあ、明日電話するよ。――せっかくのサプライズだったのに」
「海洋情報共有サービスがあなたのサプライズなの?」
「画期的なアイデアと思うが」
「普通、女の子は喜ばないわよ。気持ちは有り難いでしょうけど、『元気にしてる?』とか『今度食事に行こうね』とか言ってもらった方が嬉しいに決まってるじゃないの。あなたの考えが間違いとは言わないけれど、もう少し相手に合せることも考えたらどう?」

Product Notes

今も昔もコミュニケーションが難しいのは変わりません。
でも、単純に考えたら、「相手の立場になって思いやる」、ただそれだけの話なんですね。
それが出来ないということは、そもそも人間に対する想像力が欠けているか、自分の痛み苦しみしか分からない利己主義か、どっちかでしょう。
最大限に気を遣っても、予期せぬところで躓くのがコミュニケーションというもの。
それでも相手と繋がっていたい、一緒に生きていきたいと願うのは『愛』ではないでしょうか。

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