8-2 海洋情報の開示と海洋社会の基盤

海

ファルコン・マイニング社の進出を受けて、ヴァルターは海洋調査データの開示と共有に一つの打開策を見出す。
古株のダグとガーフに、アステリアの海洋情報管理について尋ねる。

それがどれほどの効力を持つのかと訝るダグとガーフに、彼はなお主張する。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「俺は実例を知っている。ステラマリスの『グローバル・シーネット』が良い見本だ」 
 ステラマリスにおいては、各国が領海権を保有し、領海内の海洋調査データは官庁や専門機関が厳重に管理している。一方、民間企業によるソリューションサービスや研究機関によおるシェアなど、権利や責任の所在も複雑で、一口に「誰のもの」と断言はできない。
 また海洋調査を行う組織も、官庁、自治体、民間企業、研究組織など非常に多岐にわたり、蓄積されたデータも膨大なものだ。
 これを百カ国以上、数十の機関や企業が協賛してオープンデータシステムを構築し、どこからでも手軽に検索や情報交換できるようにしたのがグローバル・シーネットで、遠方の海象や海底地形、潮流や水温変化なども瞬時に把握できるようになったことから、海上の安全や臨海開発、海洋科学の発展に大いに役立った。
 対して、アステリアは歴史も浅く、全海洋が一つの「経済特区」に括られ、国境も領海権も存在しない。海洋情報を管理する法律も統一され、情報管理ははるかに容易いはずだ。
 しかしながら、現時点では公共の海洋情報サービスは質も機能も限定されており、情報管理や活用に関する明確なガイドラインもない。これでは有用なデータも活かされず、区民には遠くの海で何が起こっているのか知る手立てもない。
 一方、ファルコン・マイニング社が既存の海洋調査データを元に採鉱プランを立てているにしても、鉱物資源の賦存状況を正確に把握するには、まず島のインフラを整え、基地を築かなければならない。それを建造するには、第一に大型タンカーも係留可能な港湾施設が必要で、船舶を運航するには、地形、潮汐、海流、水温、化学分析など、詳細な海洋データが必要になる。
 まして深海の鉱物探査をしようと思ったら、音響測深機と解析システム、高分解能の水中カメラ、無人探査機、グラブ型採泥器、船上研究施設といった専用の設備はもちろん、熟練の航海士、機関士、クレーン操縦士、無人機オペレーター、IT技師、司厨部など、何十名もの技能者と、海洋科学や地学の専門家が必要で、調査チームを組織するだけでも、どれだけの資金と歳月が必要かしれない。
 ファルコン・マイニング社や系列会社が大艦隊を率いてウェストフィリアに上陸しようと、本格的に活動できるのは数年先の話であり、その間に海洋情報共有システムを整え、アステリア全体の連携を図り、海洋開発をより良い方向に導くことは十分に可能だろう。
「俺もそれが絶対的に有効とは言わないよ。だが、今の靄がかかったような現状より、一つの情報システムを通じてアステリアの方向性を明確にした方が、健全なものを呼び込めるはずだ。ネンブロットの問題も数々の違法行為や寡占や裏取引を『宇宙文明の基礎』という建前で黙認してきた結果だろう。ロケットを飛ばす為なら、闇市場のプルトニウムでも厭わないのと同じだ。だが、アステリアはそうはならない。開示すべき情報は開示して、社会の合意を取り付けながら一歩ずつ進んで行く。ウェストフィリアで勝手をしたくても、海の情報はガラス張りで、誰もが知り得る権利がある」

Product Notes

海洋情報管理、および、情報基盤に関する元ネタはこちらです。

残念ながら、どこのURLからクリップしたPDFファイルか分からないので、EVERNOTEの公開リンクを貼っておきます。興味のある方は、ぜひご一読下さい。

海洋管理のための海洋情報の整備に関する研究 日本水路財団

海洋情報管理

海洋情報管理

海洋基本計画への提案 ~海洋技術フォーラム~

海洋情報管理

海洋基本計画

「海洋情報ネットワーク」の後半に書いてますが、海洋のフィールドは非常に幅広い。

学術や産業はもちろん、外交や国家戦略も深く関わってきます。
(アステリアは国境がないので、国益に関する話は無いけれど)

「この分野だけ」と区分けできないのが海の難しさであり、また可能性の幅広さでもあります。

Photo : http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KOHO/chikaku/kaitei/sgs/detail.html