曙光 Morgenrood

第6章 断崖

-イタチ-

生きる海は一つ 海洋政策シンポジウムと建築家の思惑

Introduction

海洋政策シンポジウムの意見交換会では、ペネロペ湾開発の影で取り残される既存社会の不満が爆発し、推進派と言い争いになる。海の平和を願うリズは聴衆をなだめようとするが、場は荒れる一方だ。そんな中、ヴァルターが助け船を出す。
一方、パラディオン計画は着々と進行し、リズはメイヤーから協力を要請される。強大な潮流が押し寄せる中、ヴァルターはある賭に出る。


Quote

 定員一五〇名の小ホールはあっという間に満席になり、座りきれない人が壁際に立っている。
 彼はどうにか一番左端の後方に空席を見つけ、グレーのパイプ椅子に腰を下ろした。
 演壇のマルチスクリーンには、オンラインで参加している四名の主席パネリストが映し出されている。その手前に進行役と現地パネリストの席が四つあり、その右サイドに発言者を映し出す大型のプロジェクタスクリーンが設置されている。
 やがて演壇に進行役とパネリストが姿を見せると、聴衆も居ずまいを正し、演壇のプロジェクタスクリーンに注目した。別会場の発言者はそこに写し出されるようだ。
 討議はまず現行の海洋政策から始まり、産業、学術、生活など、様々な面から今後の展望を話し合った。何度も繰り返されている内容だが、実際に現地に暮らす区民の声が生で飛び交うのは非常に興味深い。とりわけ、政府の支援がローランド島、特にペネロペ湾に集中し、ローレンシア島のメアリポートや工業港など、既存のものがなおざりにされている事実に大勢が不満を感じている。数十年前、それが社会の中心になると信じて積極的に投資を行い、事業を展開し、人生の根を下ろしてきた人たちにとって、十年、二十年前とは比べものにならないような優遇措置により、ペネロペ湾の方がどんどん開発が進んでいる現実は、単なる制度の不公平感にとどまらない。ともすれば、人間の尊厳に関わる根深い問題であり、金さえやれば気が済むというものでもないだろう。
 一方、高度技能者の不足も深刻な問題になりつつある。
 開発初期は高度技能者とその家族が大半を占めていたが、島が発展し、選択肢が増えると、その子供世代、孫世代は、まったく異なる分野に進むようになる。例えるなら、父親が造船技師でも、子供はIT業を選び、海洋の専門職を目指す層が減っているという話だ。教育システムを拡張して技術者の養成に努めるにも、設備投資、寄宿舎の増築、ステラマリスからの専門家の招聘など、必要経費は半端なく、その認可と予算申請に何年も待たされるのが現状だ。そうこうする間にも、現場は高度技能者の争奪戦、子会社は大資本に勝てず、やり繰りに奔走する間に、どんどん新しい設備やサービスが誕生して、顧客もチャンスも奪われていく。それを「競争」の一言で片付けられては、あまりに弱者が浮かばれない。なのに、トリヴィア政府は、ペネロペ湾の開発やウェストフィリア探鉱など、新しい事ばかりに注力し、この十数年、アステリアの発展を支えてきた既存の中小企業を見捨てるつもりか──という声が上がると、会場から大きな拍手が湧き、進行役もたじたじとなった。
 次いで、不満の捌け口がペネロペ湾のアイデアコンペに向かうと、「第二の経済特区を作るという話は本当なのか」という意見がメアリポートの関係者から上がった。
「それについては、トリヴィア政府でも明確な答えは得られていません」
と区政の担当。
「だが、ペネロペ湾に総工費二〇兆エルクの高級リゾートを建設して、そこを拠点に第二の経済特区を作るというもっぱらの噂だ」
「そんな金があるなら、メアリポートの補修を急いだらどうだ。前から公約している工業港の拡張工事もだ」
 皆が口々に不平を鳴らすと、
「二〇兆とは大げさな。まだ正確な試算もしていないのに、憶測で物を言うのは止めて頂きたい」
 担当も強い口調で言い返す。
 すると、窓際に座っていた中年男性が勢いよく立ち上がり、堰を切ったように訴えた。
「それでもペネロペ湾に多額の予算を注ぎ込み、アステリアの中心に据えようとしているのは誰の目にも明らかじゃないか。それでなくても希少な産業用地を観光優先で無駄遣いして、資材置き場を確保しようにも、小企業には手が出ないほど土地も物件も高騰しているのが現状だ。立地の好い所に倉庫や工場を拡張したい企業もたくさんあるのに、景観を損なうという理由で遠隔に追いやられ、船着き場から遠ざかるほど負担になるのが分からないのか」
 次いで、隣に座っていた男性も顔を紅潮させ、
「いったい、政府はアステリアの何を見ているんだ。ローランド島はともかく、ローレンシア島ではメアリポート港、セントクレア港、産業港、いずれも補強や拡張の必要な箇所がたくさんある。アステリアを底辺で支えているのは、いったい誰だ。ペネロペ湾にクルージングに来る客が我々の製品を買ってくれるのか。我々の代わりにコンテナを運んでくれるのか。港だけじゃない。道路、住宅、学校、病院、全てが曲がり角に差し掛かり、今ここで舵を右に切るか、左に切るかで、将来が大きく違ってくる。だが、政府や一部の有力者からは、物事を公平に見ようという姿勢が全く感じられない。開発だ、発展だというが、大きくしたいのは自分のテリトリーだけじゃないか」
 するとオンラインのパネリストが、「それこそ誤解ですよ」と弁明した。
「まずは大きな可能性が見込まれるところから注力して、そこで利益を得れば、隅々まで還元しようというのが政府のシナリオです。小さな屋台を百戸並べても、ペネロペ湾のホテルが一夜で稼ぐ額には到らない。そして今は効率優先で物と人の流れを良くし、十分な体力を整えようとしている最中です。絶好の機を逃せば、あなた方が望んでいる港の補強や、住宅地の造成や、福祉施設の増設など、それに回す十分な予算を得ることも出来なくなるでしょう。これは単に戦略の問題です。一番目か五番目かの違いです。政府は完全に無視しているわけではありません」
「詭弁だ!」
 最初の発言者が叫んだ。
「あんた達は『後で分け与える』というが、その前に、自分たちに有利な法規を作って、周りに分け与える以上のものを独り占めするんじゃないか。その為の第二の経済特区だ。だいたい富裕層向けのレジデンスが一体何の役に立つんだ? 地元住民でさえ住宅不足に困窮しているのに、それは後回しか? 巨大建設に従事する数千の労働者をいったいどこに住まわせるんだ? 一時雇いの労働者が何千とやって来たところで社会には根付かないし、むしろ保護や支援で大変な負担になる。その行き着く先は、トリヴィアのように治安の乱れた分断社会だ。帰属意識も公共心もない仮住まいの人間が増えたせいで、一部は無法地帯になっている。いずれアステリアも同じ道を辿るだろう。後先を考えない経済政策のせいでな!」
 それを皮切りに、会場からは怒号や罵声が飛び交い、司会の声も通らなくなっている。
 彼もこの場を収めなければと周りを見回すが、みな興奮して割り入る隙もない。
 やがて、後方から「『海洋開発』の看板を掲げて乗り込んでくる企業や団体はみなグルだ」という声が上がると、「お鎮まり下さい!」と澄み渡るような女声が響いた。
 一瞬、その場が静まると、プロジェクタスクリーンにリズの顔が写し出された。
「EOS財団の理事長、エリザベス・マクダエルです。皆様のご不満は当財団をはじめ、トリヴィア政府でも重く見て、慎重に審議を進めているところです。ペネロペ湾のアイデアコンペや第二の経済特区に関する風聞はいったん横に置いて、皆さまの意思を一つに合わせることに集中して頂けませんか。討議の場が荒れれば荒れるほど、一部の思惑通りになってしまいます。立場の違いこそあれ、望む未来は一つのはずです」
 その眼差しは以前にまして慈愛にあふれ、地上の諍いを憂うように濡れてきらめく。
「この三十年、あるいはそれ以前から、この海に尽力くださった方々のご苦労を私どもは決して忘れておりません。船を接岸する設備もなく、宿舎もなく、砂浜にテントを張って缶詰を口にしながら幾日も過ごした方もいらっしゃるでしょう。その方たちの必死の努力があって、アステリアはここまでに成長したのです。だからこそ感情的になり、問題を荒立てないで欲しいのです。押し問答になれば、最後は力の大きさで物事が決まってしまうからです。それよりは皆の声を一つにまとめ、共生の未来を拓きませんか。トリヴィアには、その声に耳を傾けようとする方もたくさんいらっしゃいます」
「では、その方々にお伝え下さい。いったい誰が窓口になってくれるのかと。我々には声を届ける術も、話し合う場もありません。経済特区管理委員会も海洋政策局も、結局は政府のいいなりだ。選挙によって区民の代表を立てる機会すらない。経済特区とはいえ、我々にも一つの独立した共同体という意識があるのです。我々が帰属するのはアステリアであって、トリヴィアではない」
 男性が力強く主張すると、会場に再び拍手がわき起こり、
「行政区分を再編しろ」
「なぜ自らの代表を選挙で選ばせない」
という声が次々に上がる。
「ですから、今もっとも注目されるペネロペ湾で開発を推し進め、共同体としての許容力(キヤパ)を拡充しようと試みている最中です」
 マルチスクリーン越しに、推進派と目されるトリヴィアの下院議員が意見を呈した。
「もう一度、ローレンシア島とローランド島の地図をじっくり眺めて下さい。この両島はどう頑張っても四〇万人が居住するのが限界だ。いや、そこらじゅう埋め立て、掘り返しても、一〇〇万に達するのは無理でしょう。ゆえに、今後の海上空間の利用法を考える上でも、ペネロペ湾の開発が重要な意義を持つのです。一つ成功すれば、二つ、三つ、可能性も広がり、内外の企業にとっても起爆剤となります。あなた方、地元企業にも儲けが循環し、経済全体の底上げが期待できるのですよ」
「だったら、ペネロペ湾以外にも、メアリポート、工業港、セントクレアにも目を向ければどうです」
 初めてヴァルターが口を開いた。
「他を差し置いて、あたかもペネロペ湾だけが未来のシンボルのように語られるから、皆が不公平に感じるのです。今まで誰がアステリアの社会を支えてきたか、よく思い返して下さい。トリヴィア政府でもなければ、リゾートホテルのオーナーでもない、自腹を切って道路を敷設し、通信網を拡張してきた、名もない企業であり、労働者でしょう。ようやく基盤が熟して、さあこれからという時に、今まで黙って見ていた連中に要領よくただ乗りされて気分が好いわけがない。経済戦略がどうあれ、報われるべきものが報われず、『力が全て』の状況になりつつあるから、みな怒っているのです」
 会場がざわめき、リズも信じられないように目を見開いた。
「あなた方がどのように説明しようと、大勢を納得させることはできません。それは、あなた方が皆の粉骨砕身をまったく理解せず、『経済戦略』という、もっともらしい理屈で個々の不安や不満を押し込めようとしているからです。一般市民には到底手の出ない高級住宅を次々に建造して、公の配慮を感じるでしょうか。陸上の集合住宅に入居できない人が、安全性の確立されていない水上ハウスで事故の危険に怯えながら暮らしている実態をご存じですか。小綺麗なリゾート施設は投資の呼び水に過ぎません。それもブームが弾ければ簡単に沈水するでしょう。その時、後に残るのは、老朽化した浮体と空っぽの箱だけです。永久に続く社会の基盤にはなりません」
 下院議員も一瞬気圧されるように口をつぐんだが、
「では、君には有効な経済政策があるのかね。大衆を納得させられるような、現実的な具体案だ」
 彼もまた押し黙り、手詰まりのチェスプレイヤーのように思い巡らせたが、一瞬、プロジェクタスクリーンのリズに目を向けると、改めて下院議員に向き直った。
「俺には玄人はだしの政策を提示できるほど知識もキャリアもありません。けれども、理想とする社会について一見識は持っているつもりです。素人は黙れというなら、この世に会議も選挙も必要ありません。政治学と経済学を学んだ人だけで社会のことを取り決めればいいのです。でも、現実には、政治経済の専門を標榜する人がリーダーに立っても、何一つ解決できずにいる。なぜ政治のプロであるあなた方が、万人の納得するような政策を打ち出せずにいるのです? 本当に『くにづくり』というものを真剣に考えるなら、皆が必要とするものを作って下さい。プールとミニマリーナ付きの十LDKの住まいではなく、四人家族が安心して暮らせる三LDKの手頃なアパートです。年に一度しか訪れない旅行者向けのフィットネスクラブではなく、現地の子供たちがのびのびプレーできるサッカーグラウンドです。これからも、この海を支えていくのは庶民の汗と良識です。その人たちが快適に暮らせる場所もなく、いったいどんな未来が望めるというのです? どうか、もっとよくアステリアの現状を間近でご覧になって下さい。空の上から報告書だけ目を通しても、決して人々の肉声までは聞こえないはずです」
「だが、それも豊かな財源があればこそだよ」
 下院議員は切り返した。
「公団住宅を増やすにも、まず自治体に金がなければどうしようもない。金はあっても、儲かる見込みがなければ、企業も請け負わない。一振りで何でも湯水のように湧いてくる魔法の杖は何所にも無いんだよ。だから、魔法の杖になりそうなものを、まずは確保しようと言っている。それも木の葉が一枚くっついている程度のものではなく、降れば確実に実のなる魔法の杖だよ。それがペネロペ湾だ。君も一度、産業省が試算した経済企画書に目を通してみるといい。これが決して一部の便宜を図ったものではなく、アステリアの五年後、十年後を見据えた公正な計画だということが分かるはずだ」
 彼が即答できずにいると、議員は彼を睥睨し、
「君ら反対派は、二言目には『庶民の生活を優先しろ』と言うが、それを支えるにも豊かな財源が必要だという事を忘れてもらっては困る。対案も提示できないのに、理想論だけ並べられても我々には如何ともしがたい。アイデアを述べるだけなら、誰にでも出来る」
「だから、それを考えるのが政治家の仕事だろう」
 中年の男性が後方から揶揄した。
「素人だの、玄人だのと言い出せば、庶民の大半は素人だ。その人と同じように、理想はあっても具体的にどうすればいいのか分からないから、政治は政府に委ねている。自称『政治のプロ』である、あなた方、政治家にだ。あなたの理屈でいけば、素人には物を言う権利もないと聞こえる。資格がなければ、社会への要望を口にすることさえ許されないのか。それなら、何のための意見交換だ。それでなくても、アステリアには自らの代表を選出する制度もないのに、どうやって要望を上に伝えればいいんだ?」
 さすがに議員が押し黙ると、最前列に座っていた若い男性が立ち上がり、
「結局、おためごかしの搾取なんだよ!」
と叫んだ。
「うちの会社はもう二十年もメアリポートで船の修理工を営んでる。以前は景気もよかったが、今は港の老朽化と共に沈没寸前だ。それを、あんた達は『工夫が足りない』『次代に乗り遅れた』の一言で片付けようとするが、元々、資本もコネもない小さな会社がそう簡単に場所や設備を変えられる訳がないだろう。それも順当な競争で敗れたなら納得もいくが、メアリポートに関しては、明らかに政府の無策が大きい。その全てを個々の事業者の責任になすりつけて、メアリポート周辺の者が自殺しようが、飢え死にしようが、我関せずがあんた達のやりようだ。だが、我々にはその窮状を訴える術さえない。何故って、あんた達がここの住人を奴隷みたいに囲っているからだ!」
 再び、あちこちから怒号が飛び交い、会場は騒然となった。
 リズももう一度、呼びかけようとするが、あまりの激しさに言葉も出てこない。
 ただただ長い睫毛を震わせ、(お願い、争わないで)と口の中で唱えるだけだ。
「どうぞ、お静かに!」
 再びヴァルターの声が響き渡った。
「先ほどマクダエル代表理事が仰ったでしょう。争えば争うほど一部の思惑通りになると。どうか穏やかにいきましょう。叫呼と揶揄の応酬では、腰の重い政治家に代わって、この海の守護神になろうとしてくれているレディに失礼ですよ」
 会場から失笑が漏れると、下院議員に向き直り、
「確かに俺に具体的な方策はありません。皆の気持ちを代弁するのが精一杯です。それでも素人意見ははなから無用とみなさず、どうか多くの人の願いに耳を傾けて頂けませんか。実際に、この海に暮らしているのは我々です。計算で導きだされる五年後、十年後の繁栄より、今、この瞬間の助けを必要としているのです」
「……考慮しよう」
 下院議員はそれだけ言うと、ひとまず議論を打ち切った。
 騒然とした会場もひとまず落ち着き、ようやく司会者にマイクが戻ると、リズが「最後に一言、よろしいですか」と断りを入れた。
 発言が許可されると、リズは今一度、皆の顔を見渡し、 
「どうか、今一度、思い出して下さい。初めてアステリアの海を訪れ、この地に根を下ろして何かを成そうと決意した日のことを。私たちは決してお金の為だけに道を選んだのではないし、自己の栄達だけを目指してきたわけでもないはずです。でも、その理想も、みなが一丸となればこそ。互いに不満をぶつけ合い、政府に憎しみを抱いても、何の解決にもならないばかりか、社会の混乱に乗じて、ますます身勝手な勢力が台頭することになります。私は皆さんの良心を信じます。どうか今一度、志を思い出し、無から築いてきた誇りを持って下さい。私も全力を投じて支援する心づもりです」

*

 彼は意見交換会での彼女の勇姿を思い浮かべた。頑愚なクソじじいを相手に、若い彼女が一言申すのも大変な勇気だろう。
 だが、彼女がどれほど感動的な事を口にしようと、社会は簡単には動かない。上から下までガッチリ押さえられ、弱い声は風に掻き消されるだけだ。
 だが、不満を垂れるだけでは何の解決にもならないし、むやみに攻撃したところで報われるものでもない。階層間やコミュニティの憎悪は問題を見誤らせ、いっそう社会の無力化を招くだけだ。
 そして、それを尻目に台頭するのが、オリアナやロバート・ファーラーみたいな連中だ。物の後先など考えず、勝てば正義と思い込んでいる。
 彼らが祝杯をあげる頃、メアリポートは目も当てられない状況になり、仕事をなくした人とその家族は最後には行き場を失って、旧い港の泥の底に沈んでしまうだろう。
 苛立つ気持ちを抑えるように、ぎゅっとルークの身体を抱きしめると、ルークは小さな足をぱたぱたさせ、きゃっきゃと笑った。声も、仕草も、全てが本当に可愛い。この明るい笑い声を、どうして大人の過ちで潰すことができるだろう。
「君のもう一人のお祖父ちゃんが言っていた。海の深みには、いまだ輝いたことのない、あまたの光の萌芽が眠っていると。君だけじゃない。あの場で発言した人、発言はしなかったけど同じ思いの人、漠然と不安を抱えている人、既に失敗した人だって、全てが光の萌芽だ。きっかけさえ掴めば、輝きを取り戻す人もたくさんいるだろう。世の中は一人の超人で成り立っているわけじゃない。一人一人にいろんな知恵があり、優しさがあり、可能性がある。千人、万人と力を合わせれば、より多くの事を成せるだろう。このアステリアも決して茫漠たる水の平原ではない。これからまた、どんな風にでも成長できる。肝心なのは、何を指針とするかだ。社会から崇高な理念が失われたら、利己主義の蟻だらけになる。皆が好き勝手な方を向いて、餌を食い尽くせば、どんな健康な若木も育たないし、しまいには森を荒らしてしまう。個々に夢や利益を追い求める自由はあっても、社会の理念はまったく別次元のものだ。設計図を誤れば、どんな立派な建物も足元から崩れ去る」
 彼はリングを脳裏に浮かべ、あれが実作できれば……と思い巡らせた。
 だが、自身の仕事もままならぬ中、どうしてアイデアを煮詰めることができるだろう。そもそもあれが解決策と成り得るのか。それ以前に、実作できるのか?
 そんな迷いを吹き飛ばすように、ルークが「だぁだぁ」と海に笑いかける。水面にさす光を両手いっぱいに抱きしめるみたいに。 
「君にはこの海が故郷だね」
と彼が微笑む。
「思えば、俺の父さんもフェールダムの人ではなかった。カールスルーエからやって来て、運河沿いの小さな家に移り住んだ。それでも、フェールダムを心の底から愛して、死ぬまで堤防を守り続けた。それを当たり前のように受け止めてきたけど、父さんだって、カールスルーエを懐かしむ気持ちはあっただろうな」
 彼は今一度、海の彼方を見やると、大きく傾き始めた陽の光を見詰めた。
「俺も何が絶対的に正しいかは分からない。でも、一つだけ確かなのは、失望と無気力からは何も生まれないということだ。君が大人になった時、そんな世の中になって欲しくない」

*

 週明け、リズは臨海開発機構から『アステリア開発協議会』のパネリストになってもらえないかと招請された。
 アステリア開発協議会は、まだ正式に発足してないが、ペネロペ湾アイデアコンペの結果が明らかになり次第、区政や産業界の代表、有識者、トリヴィアの官庁などを交えて、今後のアステリアの方向性について話し合う機関だ。先の意見交換会で、想像以上に激しいやり取りがあったのをトリヴィア政府も重く見て、協議会の発足を急いだ。
 リズがパネリストに招かれたのも、既存社会の受けが良かったからだろう。表向きは「EOS海洋開発財団の代表理事として意見を聞きたい」ということだが、本音は「アル・マクダエルの娘」という看板を利用し、公平さを演出したいのが見え見えだ。
 だとしても、既存社会の不安や不満を代弁する一人として会議に加われるのは有り難い。
 返事と情報収集を兼ねて、官庁街にある臨海開発機構のオフィスを訪ねたところ、通路でフランシス・メイヤーにばったり出くわした。週末には最終審査のプレゼンテーションが開かれるというのに、まだこんな所で油を売っているのだろうか。呆然と突っ立っていると、メイヤーは銀縁眼鏡の端から訝しげな視線を寄越し、「またお会いしましたね」と声をかけてきた。リズも儀礼的に挨拶を返したが、今は一刻も早く立ち去りたい。
 だが、メイヤーは尚も探るような視線を向け、
「せっかくですから、近くのレストランで夕食でもご一緒しませんか」
と意外なことを口にした。

--中略--

 メイヤーは先の意見交換会も録画で見たらしく、
「あなたが既存社会に肩入れされるのは分かりますよ。むしろ肩入れしない方がどうかしている。古くからあの島で活躍している人々にとって、あなたは巫女のような存在だ。あなたの顔を見るだけで、人々は古き佳き時代を思い出す」
「古き佳き時代などではありません。今も人々が切実に求める理想です」
「One Heart, One Ocean ですか?」
 メイヤーがいきなり本丸に斬り込むと、リズも息を呑んだ。
「あなたがスカイタワーのイベントで、『エメラルドグリーンのシフォンドレス』に『斑入りチューリップ』を持って現れた時に気付くべきでした。斑入りチューリップの花言葉は『疑惑の愛』、エメラルドグリーンは『緑の堤防』だ。仇討ちのつもりですか」
 リズがぎゅっと唇を噛むと、メイヤーは軽くいなし、
「お気持ちは分かりますよ。あなたの友人にとって、わたしは不倶戴天の敵みたいなものだ。彼から話を聞けば、わたしは卑劣きわまりない野心家に見えるでしょう。しかし、彼にも落ち度はあります。それは無知という、この世で最も恥ずべき欠点です」
「恥ですって?」
「どこの世界にも暗黙の了解があるものです。少なくとも建築や土木は、まともに学問したことのない人間がああだ、こうだと口を挟む世界ではない。無知なら無知なりに、おとなしく見ておればいいのです。それを正義の犬みたいに吠え立てるから痛い目に遭うんです。もっとも、彼の場合は意匠盗用という悪事がばれたわけですが」
「証拠があるのですか」
「彼自身が証拠です。自ら示談書にサインした」
「強要されたと聞いています」
「どのように脅されようと、身に覚えがないなら断固として争えばいいことです。覚えがあるからサインするんですよ。まったく、卑小きわまりない」
「それでも大勢が『緑の堤防』を支持した事実については、どのようにお考えですの?」
「大衆とはそういうものです。彼らに知性を期待する方がどうかしている。大勢が支持したからといって天才の証にはなりません。デザインとは、もっと奥深いものですよ。亡き父親の思い出で飾れるほど単純ではありません」
「あなたにとって、大衆の願いや気持ちはまるで無意味なのですか」
「芸術と同列で語るものではありません」
「ですが、建築は絵描きのキャンパスと違い、公共と深く結びつい芸術です」
「そうかもしれません。それでも素人にデザインはできないし、理解もできない。まともに耳を傾けていては、創造的なものなど生まれようがない」
「だからといって、町はあなた一人のキャンパスではありません。大勢の希望や理念を取り入れ、創造と公共性の調和を図るのがプロの仕事ではないですか?」
「簡単に仰るが、大衆に高邁な理想などあろうはずがありません。彼らの望みは安っぽい娯楽であり、労せず手に入る安泰です。大衆の好みに合わせていたら、そこら中、キャバレーみたいな町並みになりますよ。時には作り手の創造性を前面に押し出し、社会に挑戦を仕掛けるから、何百年と語り継がれるユニークな建物が建つのです。フェールダムも私のプラン通りにしていたら、今頃、世界に類を見ない水のリゾートになっていたでしょう。投資も呼べたし、観光客も世界各国から訪れた。その経済効果は計り知れません。ところが、その価値をまるで解さず、元の田舎町に戻せと叫き続けたのが、あの男とデ・フローネンだ。無知な田舎者が繁栄の機会を台無しにしたのです。だが、突き詰めれば、あんなちゃちなアイデアを支持した大衆にも落ち度はある。田舎者同士、数百年先も畑を耕しておればいい。他市の繁栄を横目で見ながらね」
「ですが、その畑で採れたものを、あなたも口にしていらっしゃるのでしょう。なぜ田舎が、畑が、と見下すのです? 投資を呼べないのも愚かな方策かもしれませんが、大地をコンクリートで固めるのも同罪ですわ。もし世界中から田畑が失われたら、あなただって飢えることになるんですよ」
「やれやれ。あなたまで田舎思想に感化されたのですか。トリヴィアの工業界を代表するような家柄に育った子女なら、センスも見識も一流かと思っていました」
「私の方も、建築界の世界的権威なら、社会に対する配慮や責任感も人一倍かと思っておりました」
 メイヤーはむっとしたように唇を突き出したが、
「お嬢さんの理想も分からないではないです。しかし、建築に限らず、世の中は複雑だ。こう建てたいと願っても、予算や、構造や、建築法規や、諸々の制約に阻まれ、完璧に自分の思う通りに出来上がることなど、まずない。それでも己の芸術を極めんと日夜研鑽しています。なぜなら、わたしもまたデザインを心から愛しているからです。ペネロペ湾のデザインを引き受けたのも、決して功名心ではありません。この海はユニークだ。しかも生まれたての赤ん坊のように脆くて幼い。それを一から描き直す。計り知れない手応えがありますよ」
「民意が反映されなくても、ですか?」
「民意の方が間違いの場合もありますよ、ミス・マクダエル。皆が皆、社会の必要性を正しく理解しているわけではないでしょう。フェールダムと同じように、その場の感傷だけで道を選ぶこともある。そして、何十年もの繁栄をふいにするのです。あなたのように大衆に同情するだけでは進歩も改革も到底望めません」
「ですが、アステリアに関しては、これまで好ましい環境の中で発展してきました。皆が従来の方策を求めるのは当然です」
「それはゼロから立ち上げて、右肩上がり只中に居たからでしょう。実際にはゼロが五〇になったに過ぎないのに、一〇〇以上のものを達成したと勘違いしている者もいる。勢いのあった頃だけを見て、『昔の方策が正しかった』と思い込んでいるのです。あなたもご存じのように、アステリアは地理的にもいずれ頭打ちになります。打破する道は一つしか無い。それは海洋空間の利用です。マリーナや埠頭とは規模の違う、都市空間の創出ですよ。わたしだって私利私欲の為だけにデザインを手掛けている訳ではありません。もしパラディオンが建設されれば、いずれあなたも感謝することになるでしょう」
「どうして、そう言い切れるのです?」
「莫大な資本が流れ込みます」
「既にそのような確約があるのですか?」
「わたしは無謀な賭けはしないタイプだ。見込みがあるか、否か、慎重に調べた上で判断します。下調べの段階で手応えを確信しただけで、確約とはまた別ですよ」
「仮に手応えがあったとしても、それは限られた富裕層の中での話でしょう。一般の人々はどうなります? 住む場所がなくて、危険な水上ハウスに住んでいる人たちや、公団に入居したくても空きが無く、高い家賃を払ってしのいでいる人たちは? いずれウェストフィリアの開発が本格化すれば、数千規模で労働者が入ってくるでしょう。その人たちは何所に住むのです? もし、あなたがパラディオンこそアステリアの真の救済策だと確信なさるなら、万人が納得するような答えを提示できるはずです」
「あなたは順序を勘違いなさってる。今アステリアに必要なのは新たな財源であり、有力な住人です。彼らは、市民一万人が十年かかってようやく稼ぐものを一夜で作り出すことができる。そして、彼らはエルバラードに代わる安全で快適な生活空間を欲しており、それを得るためなら十億でも百億でも投資を惜しみません。彼らが資産の多くをアステリアに移せば、それは回り回って、メアリポートの改修費になり、集合住宅の建設費となり、中小企業の支援金になります。庶民が蟻のように努力するより、よほど効率的だと思いませんか?」
「かつてトリヴィアも似たような理由で移住政策を拡大したことがありました。目先の利益だけで安価な労働力を掻き集め、その結果、社会の二極化と憎悪をもたらしたのです」
「トリヴィアが失敗したのは、技術も教養もない貧乏人が大量に流入したからでしょう。パラディオンとは根本的に異なりますよ。移住の目的も、人間の質も」
「それでも富が広く還元されるとは思いません。本当に人やお金が公平に流れるなら、トリヴィアも隅々まで潤い、とおの昔に社会全体が豊かになっているはずです。でも、現実には、一握の富裕層だけが空気までも買い占め、そうでない人たちは永久に這い上がれない社会の溝で、何代にも渡って苦しみ続けています。父が大勢の協賛を得て、アステリアの人々に希望を与えてきたのは、ここには還元があり、チャンスがあり、転んでも次の手がある安心感があったからです。それを壊せば、大衆は力を失い、パラディオンも失速させるでしょう。海は一つ、悪い波は必ず全体に及ぶからです」
「それも人間の質によりますよ。ファルコン・グループを筆頭とする旧閥には何かと暗い噂が多いが、ドミニク・ファーラーとて永遠の命を生きるわけではありません。トリヴィアも着々と代替わり進み、新しい価値観を持ったニューリーダーが新興派閥と手を組んで変革に乗り出している。わたしが顧客と定めるのは、そういう新しい人々です。同じ過ちが繰り返されるとは思いません」
「では、仮に新しい人々がトリヴィアに自由と公正をもたらしたとして、今アステリアで起きている用地不足や港湾施設の老朽化、技術者不足や零細企業の救済といった問題にはどう対処なさるおつもりですの。パラディオンが完成する数年先まで待つのですか」
「あなたの考えも極端だ。何も社会のリソースを丸ごとパラディオンに傾注しようというわけではないのですよ」
「でも、数兆エルクもの建設費がそちらに流れるのは確かですね」
「それはトリヴィアの財務省が調整することです。わたしが公費の振り分けまで指図するわけではありません」
「巧みに言い抜けなさるのね」
「では、あなたなら、どうなさいます? こうまでわたしのプランを批判されるからには、確たる構想をお持ちなのでしょうね」
「アステリアは一丸となるべきです」
「パラディオンも一つの円ですよ。建設されれば、何千、何万の住民が一つに結ばれる。工事に従事する間、人々は収入を得て、福利も保証される。富裕層が移住すれば、清掃、給仕、子守の需要も増える。失業の不安からも解放され、いいことづくめではないですか」
 リズがぐっと声を詰まらせると、メイヤーは口の端を歪め、
「そういえば、面白いウェブサイトを目にしましたよ。『オーシャン・ポータル』といって、海の科学館みたいな情報サイトです。テキストのみならず、フォトギャラリーやビデオのコンテンツも充実して、素人サイトにしてはなかなかクオリティが高い。おまけに海洋土木と干拓の情報まであった。さすがに『緑の堤防』には言及してなかったが、こんな所でまだやっていたとは噴飯ものだ。あなたも相当に感化されているのでしょうね。わたしに疑惑のチューリップを贈るぐらいだ」
「素人が声を上げてはいけませんか」
「声を上げるなとは言ってません。あれほど痛い目に遭って、まだ学習できずにいるのが滑稽なだけです。身の程知らずもここまでくれば道化ですよ。本人はいたって真剣なのでしょうがね」
「大勢が支持してもですか?」
「あの田舎者にアステリアの大衆を説得する力があるとは思いません。ここはフェールダムとは違う。身内の共感は得られても、社会の支持を得るのは難しいでしょう。彼は理想だけで、具体策がない。自由、公正と叫ぶなら、小学生にもできます。まだあなたのお父上の方が実際的だ。あの地に多額の投資をして、あまたの事業を成功に導いた」
「でも、いずれ具体策を示すかもしれませんよ」
「どうやって? わたしに対抗して、ペネロペ湾の開発案をデザインするとでも言うのですか? それこそ愚の骨頂ですよ。『緑の堤防』もロイヤルボーデン社の広告用パースがあればこそだ。彼にそんな才があるとは到底思えない」
「アイデアは何所からでも訪れます。無学でも、無資格でも関係ありません。父も海洋学は全くの素人でした。でも、世界で初めて実用的な海台クラストの採鉱プラットフォームを完成させましたわ」
「地位も資本もあればこそですよ」
「無くても、それに代わるものがあります。愛と信頼です」
 すると、メイヤーは声を立てて笑い、
「愛と信頼で人が動かせるなら、これほど容易いことはありませんよ。建築でも、下請けの工夫に綺麗に塗装させるのに、何度も同じ事を言って聞かせねばならないほどです。百の理想を説いて聞かせるより、小切手一枚切った方が早いんですよ。それが子供時代、わたしが学んだ処世訓です、ホテル『メイヤー&パーマー』の日常を通してね。何でも反対の田舎者にはこの世の道理など永久に理解できません。いまだに風と風車がパンをこしらえてくれると思ってる。十七世紀ならそれが国力だったかもしれませんが、今、あの低地に残ってるのは、老朽化した堤防といつ浸水するか分からない恐怖だけだ。なのに低地の田舎者はその現実を直視しようとせず、またも似たような干拓地を再建し、それが正義と酔いしれている。彼の父親も命懸けで堤防を守ったという話だが、わたしに言わせれば、堤防の脆弱性が分かった時点で、家族を連れて安全な高台に引っ越せば良かったんですよ。決壊寸前の堤防を守りに戻るなど、美談でも何でもありません。その判断ミスは棚に上げ、堤防修復に応じなかった自治体を非難し、わたしの作品は素人の付け焼き刃で批判する。彼は単なるルサンチマンの塊だ。芸術家でもなければ、政治家でもない」
「あなたはどうなのです?」
「わたしは創造者ですよ。誰よりも現実を知っているプロデューサーです。わたしが手がけたプロジェクトは、いずれも現地に繁栄をもたらした。閑古鳥が鳴いていたリゾートは息を吹き返し、倒産寸前のホテルチェーンは劇的に売り上げを回復しました。奇抜さだけではないのですよ、ミス・マクダエル。私は建築物ではなく、社会そのものをデザインする。経済、政治、インフラ、娯楽、全ての要素を織り込んで、画期的なプランを作り上げます。どうぞ、その手腕を信じて下さい。彼の提唱する One Heart, One Ocean より、遙かに優れた海洋都市をデザインしてみせますよ」
「あなたに味方しろと仰るのですか」
「反対派は都市設計の何たるかも考えず、『総工費二十兆エルク』という金額に過剰反応しているに過ぎません。二十兆ではなく五千億の工事なら、ここまで文句は言わないはずです。第一、二十兆はあくまで試算であって、公式の数値ではない。実際にはそれ以下で収まるはずです。あなたもやみくもに既存社会を庇い、新しい価値観を敵視するのはお止めなさい。新しい目で見渡せば、いかにわたしが真っ当か、お分かり頂けるはずですよ」
「あなたが真っ当なら、黙っていても多数の支持が得られるはずです。既存社会が立腹しているのはパラディオンそのものではありません。そこに込められた思想や手法に理不尽を感じているのです」
「そうですか。これだけ言っても、まだお分かり頂けませんか。聡明なお嬢さんのことだから、自身の地雷も視野に入れた上で、慎重に振る舞っておられるものと思っていました」
「地雷ですって?」

--中略--

「あなたが望む、望まざるにかかわらず、世間というのはそういうものです。偶像を引き摺りおろして泥まみれにするほど面白い見世物はない。あなたの友人だって、わたしに同じ事をしたではないですか。公衆の面前でわたしの作品をけなし、利欲の権化のように批判した。わたしの作品にも哲学はあります。田舎の価値観と相容れないだけで、わたしにもわたしなりの公共心があり、芸術への献身があります。それを貶められた屈辱をわたしも決して忘れはしない。だが、その屈辱も、あなたに協力いただければ水に流してもいいと思っています。あなたは既存社会で影響力がある。あなたの口からパラディオンのメリットを説いて頂ければ、これほど有り難いことはない」
「脅迫なさるの」
「脅迫など、とんでもない。わたしはただ、お互いに解り合えないものかと道を探っているだけです。あなたの好きな共存共栄の精神ですよ。あなたも、もう少し利口になった方がいい。しかし、困った事があれば、いつでご相談に乗りますよ」
 メイヤーはトルココーヒーを飲み干すと、黙って席を立った。


Product Notes

私が建築に興味をもったきっかけは、スペイン・バルセロナの建築家アントニオ・ガウディの『サグラダ・ファミリア』です。最初に伝記を読んで、それから作品集に目を通すようになりました。
今見ても不思議な色彩とユニークなフォルムで、建物がダンスしているような感じです。

その後、ル・コルビジェとか、フランク・ロイド・ライトとか、日本なら、安藤忠雄、丹下健三、黒川紀章、あの辺りの本を読んで、「ふむふむ」と思った次第。建築は芸術と公共性と二つの側面があって、「これが理想」というのは一口で語れません。

作中に登場する海岸段丘ですが、外観や利用法についてはこちらに詳しい解説があります。「台地農業」というのもあるんですね。

海岸段丘
Photo : 枦山(はぜやま)-西山台地 ジオーパーク

海岸段丘の形成のプロセスはこちらに詳しく紹介されています。
http://junji.la.coocan.jp/AC/kaigandankyu/index.html

      B! 

Kindle Store

Amazonにて販売中。kinde unlimitedなら読み放題です。