31-1 対案への決意 住民の為に

ヴェニス 運河

水上ハウスの火災の詳細が明らかになり、問題もいったん落ち着くと、ヴァルターは『リング』を対案に立てる決意を語る。
エヴァとマックスは懸念を示すが、最後には彼の決意に共感する。

ヴァルターは焼け残ったハウスを訪れ、子育ての思い出になるものを拾い集める。
そこへ水上コロニーの住人が声をかける。
彼らは、以前、ヴァルターが署名集めに奔走していた時、無視した事実を詫び、自分たちに代わって声を上げて欲しいと願いを託す。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「今度のことで目が覚めた。俺は現実を恐れ、運命を恐れ、目の前の事象から目を反らしてきた。今でも運命なんて言葉は嫌いだが、この世にはそうとしか言い様のない出来事がたくさんある。理事長との出会いもそうなら、今度の火災もそうだ。予期せぬ出来事が大きく物事を変え、思いもよらぬ方向に人を導いていく。望む、望まざるにかかわらず、人はそうした不可測な車輪の上に生きているし、歴史の潮流から逃がれることもできない。世の中には、自分の意思でコントロールできることと、できないことがあって、できない方はまさに『運命』と呼ぶ他ない。王子に生まれつくのも運命なら、嵐に巻き込まれるのも運命だ。だが、俺はそんな事は絶対に認めたくなかった。父の死を運命と悟ったところで、誰も救われないし、意思より運命の方が強いなど思いたくないからだ。だから、彼女と出会った時も、心に何かを感じても気のない素振りをしてきた。目の前にリングが浮かんでも、子供時代の思い出と自分に言い聞かせてきた。だが、そうして見て見ぬ振りを続けても、どこかで矛盾は生じる。俺が俺がと拘っても、結局は自分が損するだけだろう。ならば、思わぬ出来事を正面から受け止め、その中に潜り込んだ方がいい。最初は納得いかなくても、目指す生き方が変わらなければ、悪い状況も良い方に変えられるものだ。そして、それが『運命を愛する』ということなんだろう。いろんな恐れと躊躇いゆえに、認めまいとしてきたが、何もかも、ずっと以前から心の底では識っていたような気がする」

<中略>

「そうかもしれない。でも、俺はやると決めたなら、リングを最大限に活かす方を選ぶよ。実作の有無にかかわらず、それを一生のシンボルにする。いつも理事長に教えられた。『一つの人生に、一つの目的』。俺には長い間、その意味が分からなかった。接続ミッション、海洋情報ネットワーク、ウェストフィリア実況。その時々に成すべき目標はあったが、目的とは似て非なるものだ。では、目的とは何か。それは自身の理念を生涯かけて体現することだ。理事長が持って生まれた力を社会に還元し、その信念を行動で証明してきたように、俺も自分の力を最大限に活かしたい。地位も資本も無くても、体現できることはたくさんあるはずだ。リングやオーシャン・ポータルを通じて、人々が海の可能性や素晴らしさ、意思をもって生きることの尊さを感じてくれたら、それも次代の礎になる。父の教えが故郷の仲間の良き手本となったように」
「その気持ちも分かるが、リングはどうなんだ。本当にこの絵を掲げてメイヤーとやり合う気か? 理事長とは持って生まれたものの桁が違うし、やろうとしている事の規模も違う。おまけに相手はこの世界の一流だ。バックに付いている人脈や政治力も半端ない。リングを人生の目的にすれば、いつか失望するんじゃないか」
「そうじゃない。リングも手段なんだ。オキタ社長のアンビルトアーキテクトと同じでね。実作されようと、されまいと、それ自体に意味があるわけじゃない。その絵に込められた思想に意味があるんだ」

<中略>

「主人とも話してたのよ、あんな金持ち相手のホテルやレジデンスを作るより、私たちが暮らす町を造ってくれた方がよっぽど助けになるって。私達だって、好きで水上ハウスに住んでるわけじゃない、この辺りで安価に手に入る住宅といえば、それしかないからよ。でも、海面下がどうなっているか自分では調べようがないし、メーカーが『大丈夫』と断言すれば、それを信じるしかないでしょう。小さな子供のいる世帯は、みな不安を感じてるわ。特に火災の後は」
「誰だって陸地に住めるものならそうしたい。だが、サマーヴィルは満杯だし、新しい北の住宅地も、地価がこの辺りの一・五倍というじゃないか。水上ハウスを売るにも、こんな事故があっては怖がって買い手もつかないし、泣くに泣けないよ。即座に解決は無理でも、せめて子供の代には明るい見通しが立ってもらわないとな」

Product Notes

水上ハウスも、適切な場所に、安全な方法で建てれば、そこそこに快適で良いと思うんですよ。ただ幼子のいる家庭にはお勧めしませんが。

こんなのもある↓ ホントに大丈夫なのか^^;