17-3 画像の改ざんと謎のマウンド群

ルノーは36年前のドームの写真を再解析し、画像の改ざんに気付く。
バクテリアマットと思われたものは、実は「自由意志で動き回る生物ではないか」という疑問だ。

さらにカルデラの南側に不思議なマウンド群が存在し、その海底下に温泉のような間隙があることを指摘する。
メンバーは、カルデラ底の再調査よりマウンド群の潜航調査を勧めるが、オリアナはスケジュールの変更に難色を示す。

引用

WEBに掲載している文章は『第二稿』です。書籍版とは内容が若干異なります。
「何か新しい発見でもあったかい?」
 彼もルノーの隣に腰を下ろし、メインモニターを覗き込んだ。
「いくつか興味深いことが分かったよ」
 ルノーはトラックボールを操作しながら、海底地形図を拡大する。
「今、三十六年前のデータを再解析していた。あの頃とはソフトウェアの性能も格段に違う。今回取得したデータと比較するのに役立つかと思ってね」
 二十一インチのモニターが二分割され、同じポイントの海底地形図が並んで表示される。
「右が三十六年前。左が現在。大きな差はないが、カルデラ壁北側の形状がかなり違ってるのが分かるだろう。ノヴァク研究員と最初に潜ったポイントだ。この鯨瞰図をぐるっと縦横左右に回転してみると、よく分かる」
 立体地形図を様々な角度から映し出すと、カルデラ壁の地形の変化がはっきり見て取れる。
「この三十六年間にドームがあった周辺で何度も崩落しているんだよ。それが扇状に広がり、重なりしながら現在の地形になった。あのドームも消えたんじゃない。確かに埋まったんだ。ちなみに、ドームが撮影された六月三日から、二度目の無人機探査が行われた七月一日の間に、メテオラ海丘から三〇キロメートル離れた震源地でマグニチュード8の大地震が起きている。その後もマグニチュード4前後の余震を繰り返し、一七二年にはマグナマテル火山の破裂噴火を引き金に、ウェストフィリア東部一帯が観測史上最大の火山活動期に突入している。メテオラ海丘でもカルデラ壁の崩落やガスの噴出など、いろんなイベントが続いてもおかしくない」
「なるほど」
「むしろ気になるのはドームの中身だ」
「中身?」
「ドームのピンぼけ写真、最新のソフトウェアで画質補正すると、貝の口みたいな開口部の周囲にバクテリアがびっしり生息している様がよく分かる。まるで厚手のフェイクファーみたいに。しかも孔の奥まで一面だ」
 ピンぼけ写真では白い靄のようにしか見えないが、補正後の画像では房の一つ一つまで色や形状がはっきり見て取れる。まるで極上の毛皮コートのような分厚さだ。
 それについて驚きはない。
 似たようなものならステラマリスの深海にも数多く存在する。他の生物には猛毒でしかない硫化水素も、地上の生物なら瞬時に潰れる超水圧も、ある種の生物には天国だ。アステリアの深海にも、豊かな生命圏が存在しても何の不思議もない。
 だが、ルノーはさらに画像を拡大すると、モニターの一点をポインターで指した。
「気になるのは、この箇所だ。孔の奥で見辛いが、この白銀色の細長い房、なんとなく泳いでいるように見えないか?」
「泳ぐ?」
「そう。水泳だ。オタマジャクシみたいに水中を泳ぎ回っている」
「おい、墓場の幽霊みたいなことを言うなよ。『泳ぐ』ならバクテリアじゃないだろう」
「その通り。真実なら国際宇宙開発機構が飛んでくる」
「光の加減で泳いでいるように見えるだけじゃないか」
 彼はルノーがポインターで示した箇所に目を凝らしたが、ルノーはポインターを右にずらすと、
「この辺りの房の方向を見てみろよ。バラバラじゃないか。これが本当に羽毛状に発達したバクテリアマットなら、熱水の動きに従って、藻のように揺れるはずだ。イソギンチャクの触手みたいに、一斉に。だが、この房は各々が好き勝手な方向を向いている。まるで意思をもった触手みたいに、右に、左に、自由自在に」
 そう言われてみれば、オタマジャクシみたいに自由意志で泳いでいるように見えなくもない。
「もっと画像を拡大できないか」
「無理だね。解像度が低すぎる。これがぎりぎり精一杯だ。それに明度も乏しくて、エフェクトを加えると画像の色合いや質感まで変わってしまう」
 ルノーは試しに拡大してみたが、モザイクをかけたような粗い画質になり、個々の形状も認識できない。
「僕が計算したところでは、この白銀色の房の大きさは二センチ前後、よく発達したバクテリアの塊としても不思議はない。でも、開口部のフェイクファーのようなバクテリアマットとは明らかに種類が違うし、動きも異なる。更に言うなら、当時、無人機の水中カメラを通して、リアルタイムに目視していた調査員らは、必ずその違いに気付いたはずだ。なぜって、これだけの写真を撮影するには、はっきり目視できるほどカメラを近付けないと無理だからだ」
「それじゃあ、現場は何かに気付きながら事実を揉み消したと?」
 彼の脳裏に、ホテルの浴槽で溺死したローガン・マクダエルのエピソードと、ファーラーに急接近したオリアナの姿が浮かんだ。そして、その間に居るのは、父に一番近い存在だったレイモン・マクダエルだ。
「しかも、事実はそれだけじゃない。この写真がオリジナルではなく、コピーという点だ」
「コピーだって?」
「そうだ。本元の画像データは別にある。撮影時の位置情報やファイル・プロパティはそのままだが、この写真は画質をわざと落としている。現存のソフトウェアでぎりぎりいっぱいに拡大しても、細部の形状が認識できないよう、解像度を下げているんだ。」

Product Notes

謎の海丘群はこちらの論文を参考にしています。なんとなく面白そうだったので。

八代海南部の海底で発見された海丘群の潜水調査報告

2004年の9月から11月にかけ,八代海南部海域において第十管区海上保安本部所属の測量船「いそしお」によるマルチビーム測深機(SeaBat8101)を用いた沿岸測量が行われた.その結果,水俣市から西南西約10km,水深約30mの海域に直径約50m,比高約5mの海丘からなる海丘群が発見された。

伊藤弘志:海洋研究室 
和志武尚弥,那須義訓:第十管区海上保安本部

海底地形図

海洋調査 データ 八代海 海丘群
八代海 謎の海丘群
海上保安庁海洋情報部海洋調査課

この海丘群は、第十管区海上保安本部所属の測量船「いそしお」による海底地形調査により、熊本県水俣市から西南西約10キロメートルの海域において発見されました。周辺は水深約30メートルの平坦な海底で、直径約50メートル、比高約5メートルのほぼ円形の海丘約80個が密集して存在しています。それぞれの海丘は、形や大きさがほぼ等しく、北西-南東方向に並ぶように配列しています。このように平坦な海底面に突如として存在している海丘群は、他の海域ではみられない非常に珍しい地形です。そこで、この海丘の実態を把握するため、鹿児島海上保安部所属の巡視船「さつま」(船長:日高睦男、総トン数:1200トン)と同船所属の潜水班による潜水調査を行いました。

「おにぎり」か「アポロチョコレート」みたいでカワイイ(*^^*)
八代海の海底にこんなユニークな地形があるって、御存知でした?

八代海 海丘群

プチスポット火山の話題も面白かったです。

プチスポット火山とは (日本火山の会)

発見された場所は、北緯37度:東経150度周辺です。 ここは、およそ1億3500万年前の太古に中央海嶺で形成された、古くて冷たい太平洋プレートがしんしんと日本海溝へ沈み込みつつある場所です(図3)。 そのような場所で若い火山活動(5~103万年前)が確認されたということだけでも驚きです。

このような場所は、現在活動的な地殻変動(火山や断層な ど)は無いと思われていたので、今までほとんどの人が注目していませんでした。このような場所は、ただ深海泥がしんしんと降り積もり、リュウグウノツカイ や巨大イカといった深海生物が泳いでいだけだろう、と思われていましたから。

プチスポット火山

しんかい潜航で判明した深海底ストロンボリ式噴火とプチスポット火山の成因の解明

これらの火山は、これまで地球上でほとんど知られていなかった新しい成因の火山活動として認識されつつあり、現在も活動中の(可能性が高い)単成火山群である(Hirano et al., 2001; 2004; submitted; Yamamoto et al., 2003)。本海域は、白亜紀の古く冷たい海洋プレートが日本海溝や千島海溝へ沈み込みつつある「静」的な場所とされ、中央海嶺やリフトゾーン、沈み込み帯や造山帯、ホットスポットや洪水玄武岩といった地球科学分野の「動」的な場所に比べてあまり注目されてこなかった。しかし、この火山群の発見により、北西太平洋下の地質、テクトニクス、マントル構造が多方面の分野から注目されはじめている。

本研究の火山はプレート内火山でありながら、ホットスポットやマントル上昇流に代表される火山を否定し、浅部の枯渇マントルの微小部分溶融を述べている。つまり、マグマは枯渇マントルに相当するアセノスフェアの微小部分溶融の結果形成された可能性が高く、プレートの破壊に沿ったマグマの上昇が示唆される。火山の起因となったリソスフェアの破壊過程や、マグマの起源であるアセノスフェアのマントル論などが、新たな地球科学の展開として大いに期待される。

北西太平洋の新種火山「プチスポット」の総合調査:メルト生成場とマグマ噴出場の分布解明(リンク切れ)

北西太平洋の海底で発見された火山活動「プチスポット」は、既存の火山活動場、中央海嶺、島弧火山、ホ
ットスポットとは異なる様相を示している。その成因解明にむけて、地球物理学、岩石学、地球化学、数値モデ
リングなど様々な手法を用いた総合的な観測・観察・研究が進行している。

画像データ改ざんに関しては、こちらの資料が参考になると思います。
改ざん検知システムの開発

Photo : http://elartwyne.deviantart.com/art/Sea-Volcanoes-268022262