33-1 対岸の思惑と一般人の不安 全ての人に分かりやすく

2017年9月27日人と社会, 人を動かす, 産業と社会

リズはエイドリアンと『オーシャンEXPO』に出席するが、人々の関心が娯楽に集中するのがちょっぴり不満だ。
もっと技術的な事に関心を持って欲しいと溜め息をつくリズに、何事も取っ掛かりは必要だとエイドリアンは説く。

そんな折り、パラディオン建設の推進派であるマルムクヴィスト議員が彼女の席にやって来て、「EOSも遺産も悪質な資産隠し」だと揶揄し、暗にこの件から手を引くよう求める。
一方、ヴァルターは、地元の小学校の要請を受けて、「海洋調査」と「国土の創造」というテーマで講義を行った。

講義の後、女性教師からパラディオン建設に関する不安を聞かされたヴァルターは、自身のリングについて説明するが、どんな海洋都市なのか、いまいちイメージが掴めないという。
女性教師との会話から、「一般人にも分かりやすく」が鍵になるとヴァルターは悟る。

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「今に皆が水上に住むことになる、ってパパが言ってたわ。船を改造するんですって」
「だからパラディオンを作るんだよ」
 隣の男の子が答えた。
「直径七キロの人工島にホテルやアパートを建てるんだ」
「でも、それはお金持ちの住む豪邸ですって。普通の人にはとても買えないって、パパが言ってたわ」
「だから、いろんな方法を考えるんだ」
 彼はもう一度、最初に見せたパネルを写し出した。
 そこには様々な海洋構造物や臨海都市の写真が並んでいる。
「パラディオンのように鋼製の構造物を設置して、海上に住む方法。沿岸を埋め立てる方法。内湾を堤防で仕切って干拓する方法。これからアステリアの小さな用地をどう活かすか、君たちで考えて、この島に合った新しい方法を考えればいい。その為の勉強だよ」
「こんな小さな島で何が出来るの」
「確かに目に見える部分は小さい。使える土地を全て整備しても、許容人口は四十万が限度と言われている。だが、アステリア全体を見渡してごらん。そのうちウェストフィリアにも大型タンカーを係留できる港ができるし、島の南端では鉱業や製造業の基地も開かれる。火山や温泉を利用した観光業も可能だろう。また、ローレンシア海の裏側にも二つの島がある。どちらも絶海の孤島で、ここから数千キロも隔っているが、全く何の価値もないわけじゃない。南極部の大陸も詳しく調べれば何か出てくるはずだ。海そのものが可能性の塊なんだよ。肝心なのは興味を持つこと。そして、調べること。『何も無い』と見切れば、それまでだ。どんな所にもアイデアの種は眠ってる。それを見つけて、大きく育てるのが君たちの仕事だよ」

<中略>

「あんなのが本当に建設されるのかしら」と再び繰り返した。
「五分五分でしょうね。批判の声も根強いですが、実質、建設に向けて動き出していますから、計画の見直しは難しいかもしれません。中止となれば、損害を被る人も少なくないでしょうから」
「でも、あれほど大きいと、傷んでも取り替えようがないでしょう」
「半永久的にペネロペ湾に残ることになりますね」
「ちなみに『リング』とは、どこが違うのです?」
 これは意外な質問だ。見て分からないものだろうか。
「パラディオンは海底に鋼製の構造部を設置して、その上に建物を作りますが、リングは二重ダムの内側の海水をドライアップして現出した海底面に建物を作ります」
「つまり、海面より低い所に建物を建てるの? すり鉢の底みたいに?」
「概念としては、そうです」
「でも、海の底なんて想像がつかなくて。パラディオンは埋め立て地や海上空港と同じイメージだけど、リング状の堤防の中って、どんな感じなのかしら」
 彼はLeopardを開き、ネーデルラントの干拓地の写真を何枚か見せた。
「これは堤防の側の家並みです。海面と二階の屋根が同じくらいの高さでしょう。この家が建っている一帯は二世紀前に作られた干拓地です。最初に自然堤防を築き、徐々に排水して、農耕地や宅地にしているんです。こちらは海水浴場の裏手の駐車場。コンクリートダムの内側の駐車スペースが海面よりはるかに低いでしょう。駐車スペースの内側は車道と自転車道になっていて、堤防沿いに何キロも伸びているんです」
「写真で見たら、ずいぶん自然ですね。『海面より低い土地』って、もっとおどろおどろしいイメージでしたけど」
「干拓地のど真ん中に暮らしていたら、気にもならないですよ。俺の友人は堤防のすぐ側に住んでいましたが、二階の部屋の窓から堤防の天端でランニングする人がいつも見えたそうです。でも、それが日常の風景なんです」

Product Notes

干拓地といえば、オランダのポルダー。
海面下より低い土地を上手にいかし、農業や畜産業に役立てています。
よそでは見られない、ユニークな地形や風景もしばしば。
水際に行くと、よくこんな所に住む気になったなぁ~と感心(?)すること、しきり。
水が家の中に入ってきますよ、奥さん! みたいな所に、普通に家が建っていたりします。。。。日本じゃ考えられない。