20-6 海洋社会の未来と子供の好奇心 深海潜水艇

2017年9月27日建築土木と社会, 自然と科学

自分の間抜けさに落ち込むヴァルターは潜水艇プロテウスに会いに行く。
ところが整備工場には見学の小学生がいっぱい。「プロテウスのおじさん」と呼ばれ、ショックもひとしおだ。
だが、真摯な子供の質問に答え、潜水艇と海洋調査についてやさしく説明する。

その場に居合わせたフーリエは「プロテウスのおじさん」という呼び名に爆笑し、彼の及び腰を軽くたしなめる。
リズがスカイタワーの落成式に出席していることから、一緒にオンラインの中継を観ようと誘う。

そこでフランシス・メイヤーの特別講演『臨海都市開発~ブルーイノベーション~』を目にするが、相変わらずの饒舌に疑念を感じる。

そして、公演の最後には、リズがフリンジの紋入りチューリップをメイヤーに手渡す。
その花言葉と、リズの衣装から、胸に秘められたメッセージを受け取る。

一方、全ての行程を終えたリズはラウンジでウィレム・ヴェルハーレンに再会する。

リズはヴェルハーレンに本物の優しさを感じ、少し心を開く。

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「プロテウスはいつ潜るの?」
「無人機でフォローできない大深度や複雑な操作が要求される場所、科学者が『自分の目で見たい』という場合など、必要に応じて船を出すんだよ。でも、それにはたくさんの人手が必要だし、何日も遠洋を航海しないといけない。とても経費がかかるから、いつでも、思い立った時に、とはいかないんだ」
 一通り質問が終わると、引率の女性教師が「プロテウスの仕組みや部位の名称などを説明していただけますか」と求めた。彼はフーリエに小さなホワイトボードを借りると、バラストタンクや錘を使った潜航のメカニズムや、音波を使った位置測定の理論について、わかりやすく説明した。
 そのうち眼鏡をかけた男の子が「僕、オーシャン・ポータルを見たよ」と口にした。
「アステリアでは、海水から食塩を作ったり、海底の石から金属を取り出したりしてる、って。でも、どうして海水にいろんな物質が溶けてるんですか?」
「それは非常にいい質問だ。実は、このメカニズムは、ステラマリスでも完全には解き明かされていないんだ。一口に『海水』といっても、惑星ができたばかりの頃と現代では全く成分が違う。何十万年、何百万年とかけて、徐々に変化しているんだよ。それはアステリアも同じだ。そして今、産業界の関心を集めているのが、海底鉱物資源だ。ニムロディウムという金属成分が、アステリアの海水にもいっぱい溶け込んでいる。海水だけでなく、海底の堆積物にも。このニムロディウムはどこからやって来たんだろう? どうしてアステリアの海には存在して、ステラマリスの海には無いんだろう? 不思議な事がいっぱいだ。でも、それを解明するには、海はもちろん、惑星の成り立ちや内部の構造、マントルに含まれる成分など、いろんな現象を詳しく調べないといけない。そして、それを分析するには、化学や物理学、地学や生物学など、いろんな知識を総動員する必要がある。それが今、君たちが学校で算数や理科を学習している所以だ。そして、海のことが分かれば、海水から工業原料を製造したり、海流を利用して発電したり、高速の船を造ったり、海上を自由に行き来できるボート型ハウスを作ったり、海底トンネルを掘ってローレンシア島とローランド島を海底特急でつないだり、いろんな可能性が広がる。その為にも、今から一所懸命に勉強して、海に詳しくなることだ。大きくなった時、立派な船長さんになったり、海中ロボットを作る人になったり、丈夫な港を作ったり、魚の養殖を試みたり、知識と技術を活かせば、アステリアもいっそう豊かになる」
「僕、ロボットを作る人がいい」
「それは将来、非常に求められる技術だ。とてもやり甲斐があるよ」
「私はボートみたいな家に住みたいわ」
「それなら、建築デザインと併せて海のことも勉強するといい。海水や潮風が建物にどんな影響を及ぼすか、正しく理解すれば、丈夫で長持ちする洋上ハウスが作れるよ。他には?」

<中略>

 次いで大型スクリーンに『パラディオン』のイメージが映し出されると、会場から一斉に嘆息がもれ、我が意を得たようなメイヤーの顔が大写しになった。
 確かにデザインは美しい。
 隔絶された海洋空間に高級住宅を建設すれば、セキュリティの面でも人気が出るだろう。富裕層が多く投資すれば、ペネロペ湾一帯もいっそう潤い、ウェストフィリアの後方支援も弾みがつくに違いない。
 だが、一方で、庶民が暮らす住宅は絶対的に不足している。安価な集合住宅や公営住宅に入りきれなかった人々が水上ハウスの暮らしを余儀なくされ、その安全性も耐久性も曖昧にされている事実をメイヤーはどう思っているのだろう。
 ペネロペ湾が商業地として栄え、その利益がアステリア全体に還元されるのは願ってもないことだが、それを支える一般人の暮らしも忘れてはならない。高度な技術も、世界に誇るサービスも、社会の底力となる人々の幸福や生き甲斐があってこそではないか。
 彼が厳しい顔付きでモニターを見つめていると、「こんな所に住みたいと思うか」とフーリエが言った。
「見た目はいいけど、まるで桟橋だ。サッカーも出来やしない。ヴェニスみたいに歴史も文化も熟した水の都なら味わいもあるが、商業施設だけなら大した求心力にはならんだろう。実際にこういうものを建造すれば、あっという間に腐食してガタがくるぞ。採鉱プラットフォームでも三〇年が限度と言ってるのに、直径七キロとはね。海底地盤の整備や構造物の維持費だけでも馬鹿にならんだろう。政財界も本当にこんなアイデアを推すのかな。オレにはよく分からんが」
 自腹が肥えるなら推す――と彼は思った。

Product Notes

フリンジの紋入りチューリップといえば、こんな感じ。
綺麗ではあるけれど、ちょっと不安な感じですね。

チューリップ

こちらはチューリップらしいチューリップ。

チューリップ

チューリップの花言葉などはこちらのサイトをご参照下さい。

http://hananokotoba.com/tulip/

可愛いチューリップですが、種類や色によっては、あまり良くない意味もあります。
そこまでこだわる人はないかもしれませんが、何かの参考に。

http://miyakyo0001.com/tyurippuhanakotoba