20-5 復讐するは我にあり ~イタチのような男

2017年9月27日公共事業と人間の価値, 創作と芸術, 建築土木と社会, 経営とリーダーシップ

サボタージュを宣言しながらも、結局、休みきれず、仕事に取り掛かる。だが、リズのことが気になって集中できない。
行動することも、心を決めることもできず、無為に時間だけが過ぎていく。
そんな折り、マックスから電話が入り、エヴァが無事に出産した事を知らされる。

マックスは、アルから「来年開催されるペネロペ湾のアイデアコンペに出場しないか」と誘いを受けたことを話す。
だが、話の流れで、陰で『ウェブ屋』と揶揄されている事実を知る。

アルに陰で嘲られていると感じたヴァルターは、ローカルニュースで、ファーラーとリズが協同の意思を示した事を知り、二重にショックを受ける。

一方、リズはフランシス・メイヤーに接近すべく、特別講演「臨海都市開発~ブルーイノベーション」の花束贈呈を引き受ける。
建築の才能以外にも隠然たる実力を持つメイヤーのコネクションはリズも知っている。

イタチのように警戒心の強いメイヤーも、リズの態度を訝るが、MIGの代表として冷静に振る舞うリズに少しだけ気を許す。
リズはメイヤーと握手を交わしながら、「どんな策を弄そうと、必ず尻尾をつかんでみせる」と心に誓う。

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 今年四十九歳になるメイヤーは、思い描いていたよりずっと長身で、顔にも張りがある。頬骨の高い顔に四角いハーフリムの銀縁眼鏡を合わせ、銀灰色の髪をテクノカットに刈り込んだスタイルは、今日の講演が大勢の目に触れることを意識した定番のスタイルだ。服装も、黒いタートルネック・シャツにグレーのカジュアルジャケット、白いコットンパンツという若手起業家のような出で立ちで、ラフな中にもセンスの良さがにじみ出している。通販で購入した色違いのカジュアルシャツをぶっきらぼうに着回している誰かとは、百八十度異なる美意識と自尊心の高さである。
 リズはわざと椅子に腰掛けたまま、メイヤーが他のメンバーと話す様子をじっと見守った。
 見たところ礼節をわきまえた知的な紳士で、何も知らずに接していたら、「一流建築家」と何の疑いもなく敬仰していたに違いない。
 だが、父の話やスプ・ロサの情報から、メイヤーが必ずしも己の実力だけでここまで上り詰めたわけではない事を知っている。
 実家が国際的な観光業者メイヤー&パーマー・グループの創業者一家で、フランシス・メイヤーの父も、親族も、方々に顔が利くということ。
 フランシス・メイヤーの二番目の妻はオーストラリアで一、二を争う宝石商『ジェム・グレース』の創業者の孫で、トリヴィアやネンブロットにも市場を広げようと野心を燃やしていること。
 そして、メイヤー&パーマー・グループはしばしばロイヤルボーデン社と大型リゾート施設の建設を手がけており、その結びつきは昨日今日に始まったわけではないということ。
 その繋がりを知れば知るほど、ヴァルターと再建コンペで争うことになった「フェールダム臨海都市計画」の裏側が透けて見えてくる。誰が具体的に動いたかは知れないが、メイヤーを担ぎ出した地元産業界のお歴々は、いずれも資本や事業でロイヤルボーデン社と繋がっており、住民の反対運動さえ無ければ、今頃、デンボンメルの森は基礎工事で掘り返され、関係者には黄金のシャワーが降り注ぐはずだった。その目論見を潰された恨みはメイヤーでなくとも深い。
 やがて女性司会者が椅子に腰掛けているリズに気付き、ミーティングの輪に呼び寄せると、リズはわざと初な顔を作って皆に挨拶した。
 他の参加者は特に気に留める様子もなく、「こちらこそ、よろしくお願いします」と型通りの挨拶を返したが、メイヤーだけは少し構えるような表情を見せた。「イタチのように小胆で警戒心が強い」という父の言葉通り、メイヤーもまたマクダエル父娘とヴァルター・フォーゲルの繋がりを調べ上げているに違いない。
 リズはメイヤーにもぺこりと頭を下げ、若輩者らしく自己紹介すると、「メイヤーさんに花束をお渡しするのは講演の後でよろしいんですね」と分かりきったことを質問した。
 すると女性司会者が念を押すように、
「そうです。講演が終わったら、いったん私が舞台に出て締めの言葉を述べますので、お嬢さんは進行係から花束を受け取って、舞台袖で待機して下さい。あとは会場の様子を見ながら『花束の贈呈』となります」
と答えた。
「花束をお渡しする時は、アップで撮って頂けるのでしょうか」
「もちろんです。お嬢さんのお顔も綺麗に撮影しますから、ご心配なく」
 女性司会者は娘心を汲むように答えたが、メイヤーは訝しげにリズの横顔を見つめ、
「わたしの講演を利用してMIGのイメージキャンペーンですか」
と含みのある言い方をした。
 一瞬、気まずい空気が漂ったが、
「申し訳ございません。私も一度はお断りしたのですが、主催者の強い希望もあり、お受けすることにした次第です。MIGもアステリア開発の先鋒として奮闘して参りましたが、ペネロペ湾に関しては大きく遅れをとっています。これを機会に湾岸開発の在り方について勉強させて頂けたらと願っています」
「MIGが湾岸開発に興味をお持ちとは知りませんでした」
「当然ですわ。もはやペネロペ湾は単なる商業地ではありません。今後数百年のアステリアの未来を体現するシンボリックなエリアです。優れたアイデアを支援し、地元の発展を促すと同時に、自社の新たな可能性を切り開くのは経営者として当然の務めです」
「では、いずれ、アイデアコンペで争うことになるのでしょうか」
「争うなど、とんでもない。望みは一つ、真に優れたアイデアです。パラディオンが理想の未来図となるなら、協力を惜しまないつもりです」
 メイヤーはじっとリズの顔を見ていたが、先の尖った手を差し出すと、
「お嬢さんとはまた改めてお話できたらと思いますよ」
「光栄ですわ。私もメイヤーさんの創作哲学がどのようなものか、とても興味がありますのよ」

Product Notes

世界中に魅力的なベイエリアは幾つもありますが、一番印象的なのは、南アフリカのケープタウンではないでしょうか。

Cape Town

夜景も素晴らしく綺麗。

Cape Town By Night

こういうベイエリアの一等地は高級住宅です。

Camps Bay, Cape Town, South Africa

背後に迫るような丘陵が本当に綺麗です。

Trendy Spot