23-1 アイデアを無駄と決めつけず考え抜く

2017年9月27日仕事と人生, 創作と芸術, 経営とリーダーシップ, 運命と意思

幸せな旅行から帰った二人を待ち受けていたのは、「アル・マクダエルの退任」という衝撃のニュースだった。
だが、当人は以前から段取りしており、クーデターや引責ではない。
周りの騒動とは対照的に、飄々と過ごすアルはヴァルターをディナーに招き、今後の心構えを説く。

アステリアの未来を憂うアルに、ヴァルターはぽつりと『リング』のことを口にする。
だが、突飛で非現実的なアイデアと思い込み、それ以上、突き詰めようとしないヴァルターに、アルは「考え抜け」と助言する。

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「わしに聞かなくても、既にお前には分かっているはずだ。不安というなら、誰もが不安だ。
わしでさえ物事が決まってから、大きく心が揺らぐことがある。人に尋ねたところで、百パーセント正しい答えなど誰も教えてくれないし、真っ当な答えを得たところで、必ず上手く行くとは限らない。本当にこれで良かったのか、きっと死の前日まで自問自答し続ける。死んでもなお、心は行く末を気に掛けるだろう。責任とはそういうものだ。だからといって、何もせずに一生を終えるか? お前なら、断じて否だろう。大事なのは行動することだ。正しい考えも、行動しなければ、ただの夢想に過ぎない。そして、お前には行動力がある。考える力も、豊かな感性も。正答が見えなくても、何かが心に訪れたら、迷わずやってみるといい。お前なら無茶はしない。そうだろう?」
「それは分かるが、もし間違いだったら自分も周りも不幸にする。中には取り返しのつかない過ちもあるだろう。俺はあんたみたいに利口じゃないし、コネも資本もない。ことある毎に、自分の未熟や無力が嫌になるほどだ。それが分かるから、時々、決断するのが恐ろしくなる。何かとてつもない渦に巻き込まれそうな気がして」
「己の無知を自覚することは未熟とは言わない。物事に慎重なのも同様だ。本当に未熟で無力であれば、自分の愚について考えもしない。物事が思うように運ばないのを、ただただ不思議がるだけだ。何をそんなに迷うことがある? これまでも父親なしで十分にやってきただろう。もっと自信をもてばどうだ。海洋情報ネットワークも、深海調査の実況も、誰にも指示されなくても、あそこまで出来たじゃないか。後は腰を据えて掛かるだけだ。地に足を着けて、責任を負う身になれば、何が良いだの、間違いだのと言っておれなくなる」
「そうかな……」
「オキタ社長が言っていた。お前は新しい価値観を恐れているだけだと」
「新しい価値観?」
「そうだ。目の前に、今まで考えもしなかった生き方や役割が見えている。これこそ我が道と直感しても、今までの価値観とはあまりに違いすぎて、どう受け止めればいいのか分からなくなるんだ。そうではなく、無価値と決めつけてきた事への見方を改め、別の可能性について考えてみる。あるいは、大事、大事と抱え込んできたものを思い切って手放してみる。一口に言えば、頭の切り替えだ。同じ考えに留まっても、新たな展開はない」
「似たことを前にエヴァにも言われた。『幸せになる』ということは、新しい考え方を受け入れることだと」

<中略>

「正直、俺にはペネロペ湾のアイデアコンペの意義が見えない。ペネロペ湾が潤えば、その利益が全体に還元されるという理屈も分かるけど、でも、その前にやるべき事があるんじゃないか」
「どんな風に」
「郷土だよ。アステリアには社会の基礎となる十分な土地がない。鉱物資源、新規産業、学術、観光、様々な可能性を秘めながら、その担い手となる人々の暮らしを支える礎がないんだ。あんたも知ってるだろう。サマーヴィルでは安価な集合住宅にも入居できない人たちが水上ハウスに暮らしている。安全性も確立されていない改造ムーバブルハウスだ。ネーデルラントでもボートハウスに暮らす人は少なくないが、自ら好んで水上に暮らすのと、住宅不足でやむなく水上に居を構えるのでは訳が違う。あんなコンテナを繋ぎ合わせたような水上コロニーで何年、何十年と、どうやって生きていくんだ? ペネロペ湾では富裕層向けの高級住宅や豪華なレジャー施設が次々に建設され、居住に適した平地も全て商業地にあてられているが、それは本末転倒じゃないか。俺はネーデルラントに生まれ育って、その地に生きる人々が自らの手で国土を建設する意義を肌で知っているから、余計で疑問を感じずにいない。今後ますます産業が栄え、企業が利益を上げるのは結構だろうが、それを支える人々の基盤なくして真の社会の発展など有り得ない。この海の星に、十年、二十年で腐食し、老朽化するような海上施設を作って何になる? まして一部の恵まれた層だけを対象に立派な建物をこしらえて、誰が救われる? 本当に必要なのは共同体の基礎となる郷土だ。百年、二百年と社会を支える、安全で緑豊かな大地だよ」

<中略>

「何かいい方法が?」
「海を干拓するんだ。ダムで仕切って、内部の海水をドライアップする」
「だが、内湾をダムで仕切ったぐらいでは、創出できる用地も限られているだろう」
「そうじゃない。直径十五キロメートルの円環の二重ダムで仕切るんだ。地盤が強固で、浅海であれば、海岸から離れた沖合でも作れる。高さ数十メートルの鋼製ケーソンを約四八〇個、連続的に建造する能力と、これを海底に固定する技術があれば、数十万人が暮らす用地を一気に確保できる」
「だが、それほどの規模なら建設費も数兆エルクは下らないだろう。それはどうやって工面する? 必要な人材は? 設備は? 高さ数十メートルの鋼製ケーソンを四八〇個も建造するなら、膨大な鋼材が必要だぞ。それはどこから入手する?」  
「そこまでは……」
「『分からない』で済まさず、とことん考えてはどうだ。わしだって、採鉱プラットフォームの構想を描き始めた頃は、どうやって資金を調達するか、必要な設備は、人材の確保は、全くの白紙だった。いくらMIGという後ろ盾があっても、数十億、数百億の資金を一夜で捻出できるわけがないし、人材も然りだ。プラットフォームの設計図だって、自分では一枚も描けない。それでも成そう、成さねばならぬ、その気迫で考え抜いた。もちろん、わし一人の実力ではない。ダナも知力の限りを尽くしたし、両親も資金繰りや政治面で粉骨してくれた。それ以外にも、技術や口利きで協力してくれた者は大勢いる。それはさながら、真っ白なキャンバスに一本、一本、線を引き、組み上げるが如くだった。最初からお膳立てされた新規事業など有りはしない。大企業、個人に関わらず、新規に事を成そうとする者は、すべからく同じ辛苦を味わう。成否を決める要素は様々だが、全てに共通するのは粘り強さだ。考えて、考えて、考え抜いて、様々な障壁を乗り越えた者だけが目標を達成することができる。最初から腰砕けでは、どんな優れたアイデアを日の目を見ることはない」

Product Notes

こちらは、未来のGreen House。野菜工場と住居が一体となったユニークな構想です。

こんなのも非現実的といえばそうですが、別の形で活用することはできます。

実用的かつ、美麗で、エコロジカル。絵や動画で、その理念は十分に伝わりますね。

こちらはフランスのパリで構想されている、Smart City。

実際に建設されたら「虫」とか「枯れ葉」凄そうな気もするのですが、アイデアとしては面白い。

このように、人は何を構想してもいいし、何を表現してもいい。

要は、どこまで説得力があり、公共性があるか。

個々の必要性に応じた配慮があるか、ですね。

こちらも参考にどうぞ。

ウォールのPhoto : http://www.archdaily.com/611976/vincent-callebaut-masterplan-predicts-future-of-self-sustaining-cities