16-1 メテオラ海丘 海洋調査の目的と段取り

2017年9月27日海について, 自然と科学

カーネリアンⅡ号はウェストフィリアに向けて出航する。
ミーティングでは、調査対象であるメテオラ海丘の説明がなされるが、一方で、雑な手法に不信感もつのる。

しかし、有人潜水艇を投入するには時期尚早ではないかと指摘すると、オリアナはコンチネンタル号が撮影したという四枚の写真を見せ、沈殿物からニムロディウムが検出されたという『ドーム』の再調査を主張する。

だがヴァルターはそれほど重要なデータが36年間も非公開とされてきたこと、今すぐ潜水艇を投入しなくても、まずは無人機などでじっくり精査すべきではないかと主張する。

それでもオリアナはマイニング社の指示だと強行しようとする。

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 今回、有人潜水調査の対象となるのは、マーテル海岸の東沖一四〇キロメートルに位置する『メテオラ海丘』だ。
 水深三〇〇〇メートルの海底面から盛り上がる「深海の丘」は、最大幅八キロメートル、最長二十六キロメートル、標高八〇〇メートルのなだらかな海底火山である。
 ウェストフィリア島が存在するウェストフィリア・プレートの東端に位置し、その先には東大洋底プレートと、北冠状造山帯が存在する北海プレートの境界がある。いわば三つのプレートが┻型に接する交叉点に形成された海底火山で、幅七四キロメートルのダイヤ型の海底盆地にぽつんとそびえている。
 複数方向から力が働くせいか、きれいな山形ではなく、粘土を左右に引き延ばしたような歪な形をしており、頂上にはU字型の扁平なカルデラを有している。
 カルデラ底の水深は平均約二五五〇メートル、カルデラ壁の高さは三〇〇から五〇〇メートル、上から見ると『⊂』の形をしており、南北幅は三キロメートル、東西幅は七キロメートル、一見するとはサッカースタジアムのように整っているが、開口部の東側には溶岩流が何層にも積み重なり、雪崩のように海丘の麓へと続いている。
 またカルデラ内には、中央やや北寄りに高さ一五〇メートル、直径四〇〇メートルの中央火口丘がそびえ、東側には大小四つのマウント(いずれも数十メートルの小さなものだ)、南側には深さ約八〇メートルの二つの大きな凹地があり、いずれも度重なる火山活動で形成されたと思われる。
 興味深いのは、西側のカルデラ壁から斜面にかけてレードル(匙)でえぐったように陥没し、一部は階段状に凹んでいる点だ。
 また海丘の東側は一〇キロ以上に渡って粘土を引き延ばしたように平べったく、カーテンの襞のようにたくさんの溝や亀裂が走っている。
 さらに海丘の周辺には高さ数メートルから数百メートルの大小様々なマウントが無数に存在し、その幾つかは頂部が凹んで、さながらミニ火山の様相だ。
 これらは年明けの精査で初めて詳細な海底地形の把握がされたばかりで、地質もメカニズムもほとんど解っていない。

<中略>

 メテオラ海丘の調査が再開されたのはこの年明けで、ローランド島に新しくオープンした海洋調査会社『SEATECH』が請け負った。
 ソナーや無人探査機による調査の結果、カルデラ底の中央、南寄りに見つかった高さ三〇メートルほどのマウントの周囲で、熱水の噴出を示唆する水温異常や、サイドスキャンソナーの音響イメージで熱水の揺らめくような陰影が認められたからだ。
 活動中の火山では、地中の水がマグマによって温められ、岩の隙間から水蒸気となって噴出したり、温泉として湧き出たり、強酸性の火山湖を形成することがある。
 こうした熱水は、地中に含まれる様々な物質――硫黄、鉄、銅、亜鉛、金、銀、マグネシウム、ニッケル、マンガンなど――を水の中に溶かし込み、地表面に湧き出して冷やされた時に「湯の花」のような沈殿物や金属鉱床を形成することがある。
 それは海底の火山や熱水噴出域でも同様で、様々な金属成分を溶かし込んだ熱水が地表面に湧き出した時、海水で急激に冷やされ、噴出孔の周囲にマンガン、コバルト、ニッケル、金、銀、銅など重金属硫化物を沈殿させることがある。
 条件によっては、地上の鉱山に匹敵するほどの巨大な金属鉱床を形成し、これらは一般に「海底熱水鉱床」と知られていた。
 一時期、ステラマリスでも三基の海上プラットフォームが稼働し、それなりの成果を上げていたが、領海にまつわる政治的問題や各国ごとの税制、廃棄物による海洋汚染、生物環境の破壊、地元住民や自然保護団体の反発など、技術以外の課題も多く、結局、陸上の鉱山業ほど収益を得られなかったことから、いずれも数年で操業停止に追い込まれている。
 その点、アステリアには領海もなく、複雑な税制もなく、厳重な環境保護法もなく、原生生物も発見されていない。
 ある意味、技術さえあれば、企業の自在に採鉱活動ができる旨味があり、開発公社が興味を示すのも頷ける話である。

<中略>

「一六五年六月三日、コンチネンタル号が投入した自律型探査機ROVーONEが北のカルデラ壁直下で撮影した水中写真よ。オペレーターの不手際でこれ以上の写真は撮れなかったけれど、長年、某所のデータベースに保管されてきた。非公開とされた理由は、ドーム周辺の沈殿物からニムロディウムが検出されたからよ。しかも、この画像がカメラに収められたのは、ただの一度だけ。一ヶ月後の七月三日、同じポイントに無人機を下ろした時には跡形も無くなっていた。以来、どこをどう探しても同じものは見つからず、三ヶ月後にコンチネンタル号は座礁した。それ以降、調査船や探査機を用いた海洋調査が行われていないのは皆さんもご存じの通りよ」
「つまり、その『ドーム』とニムロディウムに深い関わりがあると?」
「だから、それを調べていただきたいの。もしかしたら、海台クラストをはるかに上回る何かが見つかるかもしれない。ニムロディウムの研究者にとっても興味深い材料でしょう」
「では、なぜ、それほど価値のあるデータを三十六年間も非公開にしたんだ? もっと早くに公表すれば高度な精査ができただろうに」
「今、あなたと情報行政について論じてる暇はないの。鉱業においてはニムロディウムが非常に価値の高いものだということは知ってるでしょう。国家的資源戦略のデータと、科学誌に掲載するデータを同じように扱わないでちょうだい」
 彼が押し黙ると、オリアナは一同を見渡し、
「前のミーティングでも説明した通り、ドームが水中カメラに捉えられたのはただ一度だけ。以来、どこを、どう探しても、同じ物は見つかっていない。確かに存在した証といえば、その不鮮明な写真四枚だけ、今また同じポイントに潜航しても、同じドームが見つかる可能性はきわめて低いでしょう。それでも、その手掛かりとなるものを探して頂きたいの。ドームの内部に繁殖しているのは何なのか、なぜ周囲の沈殿物から多量のニムロディウムが検出されたのか――」
「だったら、尚更、事前調査を徹底して、狙いを定めた方が芳しい結果を得られるんじゃないか。短期間で現れたり消えたりするようなものを、盲滅法にプロテウスで探し回るより、航続時間の長い自航式探査機や有索の遠隔探査機を使って白色帯の存在を再確認した方が手間も経費も軽くて済む。プロテウスを使った有人調査はそれからでも遅くないはずだ」
「だから、そんなことは百も承知だと言ってるじゃない。それでもやらざるを得ない理由があるから、こうしてわざわざ助力を求めてるのよ。開発公社はね、どこかの国立海洋研究所みたいに潤沢な予算に支えられて一からデータを揃えている余裕はないの。これだけのデータで何処まで真実に近づけるか、二五年後の現場はどう変わっているか、分析加工された数値と実際にはどれだけ開きがあるか、少しでも手掛かりが得られたら、今回は及第点なのよ。ひと月そこらで全容解明に至るほど容易でないことは誰もが理解してるわ。それでも一度、目視することに意義を見出せばこそ有人潜水に踏み切ったのよ」

Product Notes

海洋調査船って、カッコいいですよね♪

こちらはフランスの国立海洋開発研究所(IFREMER)の支援船、『Le Pourquoi Pas?』

http://flotte.ifremer.fr/fleet/Presentation-of-the-fleet/Vessels/Deep-sea-vessels/Pourquoi-pas
IFREMER_-_Pourquoi_pas_-

海洋調査船

船の内部も、馴れたらオフィスか工場みたい。一度、乗ってみたいですネ♪