30-1 用地と農業と水上ハウスの運命

2017年9月27日公共事業と人間の価値, 建築土木と社会, 産業と社会, 自然と科学

ヴァルターは土地開発部の視察に立ち会うため、準備を進めるが、ルークが発熱しているのに気付く。
すぐにワーテリング夫人に連絡し、様子を覗うが、まずまず大丈夫とのこと。
身を切られるような思いで自宅を後にする。

土地開発部のグレアム部長に再会したヴァルターは、意外な意見を耳にし、考えを改める。

その最中、水上ハウスのコロニーから黒煙が上がっているのに気付く。
全力でコロニーに引き返すが、水上ハウスは火の手に包まれ、テラスにはワーテリング夫人とルークが取り残されていた。

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「それほど動きが激しいのですか」
「トリヴィアのディベロッパーや投資会社が競うように好条件の土地を買い漁っている。それに併せて、不動産会社もどんどん売値を釣り上げているからね。まだ造成も始まってない土地まで高値で取引されて、札束が空中を飛び交うが如くだよ。だが、中には悪質な転売や空取引も少なくない。さすがにトリヴィア政府も事態を重く見て、に乗り出しているが、下手に規制すると景気に水を差しかねないからね。さじ加減が難しいところだ」
「そんな状況で、本当にパラディオン建設を進めるのですか」
「やるさ。百パーセント確実とは言わないが、かなりの高確率でそうなるはずだ。まだ噂だけだが、パラディオンにトリヴィアの官庁を拡張するという話もある。あそこに第二の司令塔を置いて、ウェストフィリアを含む新たな経済政策を展開するという話だよ」
「じゃあ、第二の経済特区を創設するという話は、決して風説ではないのですね」
「トリヴィアも各方面で行き詰まってる。飽和状態を解消するには、どんどん活動域を広げるしかない。アステリアの住民が妙な気を起こす前に、一気に体制を固めたいところだろう」

<中略>

「意外と話題に上らないが、アステリアは食料自給率が絶望的に低い。経済うんぬんの前に、住民の生命に関わる話だよ。毎日、トリヴィアから大量の食糧が輸送されてくるし、グリーンファクトリーや養殖プールもそこそこに機能しているが、生産力が人口増加にまったく追いついてないし、一つ間違えば衛生面で重大な問題を引き起こす。みな『食糧は金で買えばいい』と思っているようだが、それも輸送やグリーンファクトリーが正常に機能すればこそだ。万一、供給に問題が生じれば、大変な事態になるのが想像がつかないんだろうか。だが、それを言うと、パラディオンにもグリーンファクトリーが作れるという話になる。もはや『大地で育てる』なんて発想は無いみたいだ。そういう面でも、干拓で農地を増やす方に可能性を広げたかったんだが、結局、パラディオン一色だ。残念というより呆れるね。目先のことしか考えてない」
「百年の計が感じられないのは産業や教育も同じだと思います」
「それはそうと、あれは君が考えたのか? 海のど真ん中に円環のダムを築いて、巨大な干拓地を造成するというアイデアだ」
 彼は「そうです」と小さく答えた。
「まあ、それも一つの方策には違いないだろうよ。技術的に可能であれば、十分、検討に値する」
 彼は意外な思いでグレアムの顔を見た。
「だって、そうじゃないか。コンペの入賞作はいずれもペネロペ湾の開発を対象にしたものばかりだ。アステリア全体を考慮したアイデアは今まで取り上げられたことがない。本当にそれで農地も住宅地も一気に拡大できるなら画期的だろう。総工費に幾らかかるか知らないが、パラディオンに二十兆も使うぐらいなら、真に社会の土台となるようなアイデアに投資した方が良いような気もするよ。ちなみに都市部の計画はどんなだね?」
「排水用の運河やポンプを設置する以外、特にこれといったものは……普通の町並みと同じですよ。牛も飼えるし、サッカー場も建設できる。条件さえ整えば、中層以上のビルも作れるし、大通りにトラムを走らせることも可能です」
「じゃあ、パラディオンよりいいじゃない。低層で、見た目も同じ建物で統一するより自由度も高い。用途の限られる巨大な海上都市を建設して、何のメリットがあるのかね」

Product Notes

オランダの干拓をテーマにした動画です。