14-6 広報と実況で心を動かす 海洋社会の理解を深める為に

2017年9月27日人と社会, 人を動かす, 仕事と人生

深海調査の実況を叶える為に、遠隔教育システムを有するローレル・インスティテュートを訪ね、実況の意義を説明する。

続いて、海洋調査を引き受けるオーシャン・リサーチ社の代表を交え、改めて実況に対する意見を聞く。

それぞれの立場、それぞれの考えを一つずつ確かめながら、実況の実現に向けて模索する。

Product Notes

ゾーイは「大山鳴動してネズミ一匹」と揶揄するが、ヴァルターは「百粒の種を蒔いて、一つでも実ればいいじゃないか」と前向きに考える。

リズは「物事が成就するには三つの力が働く」と説き、「時を待とう」と励ます。

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「うちも決して利益本位ではないからね」
と代表はオンラインのモニター越しに言う。
「石油でもガスでも、依頼主の情報資産はもちろん守秘する。だが一方で、海洋調査の学術的な価値も認識してもらい、共有できる部分は共有する。その姿勢がなければ、全体の発展には結びつかない。それはアステリアも同じだと思う。トリヴィア政府もグローバルな海洋調査を行う気はまったくなく、アステリアの区政にもそこまでの力はない。そのくせ、資源は欲しい、投資や観光客も呼び寄せたいというなら、ここは相互協力して、一つの調査を最大限に活かす道を模索すべきだろう。資源戦略の部分までオープンにしろと言わないが、もう少し海洋行政でルールを取り決め、データ取り扱いのガイドラインを明確に打ち出さないと、個々の権利や利益ばかりが優先されて、肝心の海洋科学技術の発展がなおざりにされるよ。せっかく海の星に住みながら、ビジネスの話ばかりで、ステラマリスの学術機関とまともに交流がないなんて信じられないね」
「ですから、今後の海洋行政やデータ管理の在り方について、社会の理解と関心を深める為にも、海洋情報ネットワークの構築を急いでいるのですわ」
 リズが怜悧な瞳を瞬いた。 
「でも、あまりに支援の手が薄いのです。金銭的にも、人材的にも、構想を実現するだけの手立てがないのですわ。だからといって、拱手傍観するつもりもありません。今度の海洋調査はアステリアの新たな可能性を広く知らしめるものであると考えています。その為にも、開発公社の代表と話し合い、僅かでも実況や広報の機会を頂きたいのです」
「ちなみに、潜水艇の耐圧殻から実況できるだけの設備と技術があるのかい?」
 するとリズの代わりにフーリエが答えた。
「技術的には大した問題はないですよ。船上で受信するデータをオンラインで共有するだけの話ですから。ただ、リアルタイムで個人の映像データを船上に送信するとなれば、肝心の水中カメラのデータと送信容量を食い合って、画質の低下を引き起こす恐れがあります。もちろん、送信機能を高めればこの問題もクリアできるでしょうが、今から設備を拡張するのは予算的にも無理だし、テストにも時間がかかります。実況するなら、水中電話を使った通話がメインでしょう。でも、音質は決して良好とは言えません。編集を加えて後日放映というなら分かりますが、リアルタイムとなれば、どうなんでしょうかね」
 ヴァルターはプロテウスの設計図を指し示しながら、
「耐圧殻の上部に安全監視用のカメラがあるだろう。不慮の事故に備えて内部の様子を常時ナビゲーターに送信し、録画もしてる。コクピット内の映像なら、あれで十分じゃないか。TV放送じゃないのは、みな百も承知だ。高画質なんて誰も期待してない。海中の様子を生中継するなら、一般の水中ビデオカメラで十分だろう。ぼやけた画質でも雰囲気はつかめる。詳細は、後日、オーシャン・ポータルできれいに編集したビデオを流せばいいだけだ」

<中略>

「なるほどね。だが、それなら科学番組のように興味深い部分だけを編集して、後日、オンラインで流せばいいじゃないか。どうしてそこまで実況にこだわるんだ?」
「俺も最近実感したのですが、『知っている人』と『知らない人』の感覚の差は非常に大きいです。学術的に貴重なデータを突きつけても、何の知識もない人には数字の羅列でしかありません。また、理解する気のない人に一〇〇回理屈を説いても、やはり右から左に聞き流されるだけでしょう。でも、そんな人々も興味を掻き立てられる瞬間がある。それは『感動』です。海の不思議な生き物、ダイナミックな火山、奇怪な景勝、研究者の熱意。それは面と向かって正論を唱えるより、はるかに説得力がある。もっとも、全ての人が同じ感動を覚えるとは限りません。力を入れたコンテンツも、一瞬で忘れ去られることも多いでしょう。だとしても、アプローチを止めたら、そこで終わってしまう。小さな水の流れもいつかは岩根を削るように、訴え続けることに意味があるんです。今度の試みも、どこまで人の心を動かせるかは分かりません。また、人ひとりの心を動かしたところで、何の意味も無いかもしれません。それでも、その人の周りには、日頃から親しくしている人がいて、またその人の向こうに家族があり、友人があり、職場の仲間がある。誰かに心から語りかけることは、何千、何万に語りかけることと同じです」
「そんなこと、本気で信じてるのかい?」
「理想論なのは百も承知です」

Product Notes

カリフォルニア湾、ペスカデロ海盆の、熱水噴出孔。
地上で見たら、もっとカラフルで、壮大だと思うのですよ。
カメラの画質も、ホントに向上しましたよね。

こちらは深海の不思議な生き物たち。
生態も、解剖も、ほとんど分からない。
どこからどう枝分かれして、何の為にここに生きているのか、だーれも知らない。
でも、生きてる。

一部の映像だけ切り取ってYouTubeに流しても、海の全容が理解できないと、「わー、すごい」で終わってしまうと思うのです。

そこで、一般向けに、分かりやすい、親しみやすいコンテンツを作成して、理解を深める(=社会の不正や過誤に適切に対処できる)とともに、未来の海洋科学者、高度技能者を目指す人材を育成しよう……というのが、広報と実況の趣旨です。

Photo : https://www.lego.com/en-us/city/seek-and-find/deep-sea