32-2 父の執念と堤防の補強をめぐる謀議

2017年9月27日公共事業と人間の価値, 建築土木と社会, 自然と科学

ひょんな事から父の遺品を発見したヴァルターとアンヌ。
そこにはフェールダムの締め切り堤防の補強工事をめぐる口論が隠しマイクで録音されていた。

口論の様子は、リロイ・ファン・デル・サールの公式ブログを通じて拡散され、謀議の動かぬ証拠となる。

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「年明け、あなたは補強工事の必要性を認め、今秋にも着工できるよう手はずを整えると約束したではないですか。それがなぜ可動式大堤防の改修が優先されるんです? 大堤防の美観よりも、フェールダムの安全こそ重視されるべきでしょう」
 するとバンデンハーグは嗄れた声で答える。
「年明けは年明け、今は今だよ。締切り堤防の補強などいつでも出来る。だが、大堤防の修復は今年度内でないと間に合わない。来夏の国際自転車競技に向けて、大改修が必要なのでね」
「その間に大事が起きたら、どうするつもりです」
「大事とは何だね」
「河川の増水や高潮です」
「増水も高潮も毎度のことだろう。君ら、治水研究会の技術者は、何かといえば異常気象を持ち出すが、毎年来る来ると良いながら、実際にそんなものが来た試しは一度としてない。十年か二十年先かも分からない異常気象に備えて補強工事をするほど自治体も裕福ではない」
「可動式大堤防の改修より割安です。傷みもしないアスファルトを二度も三度も舗装し、歩道のベンチやフラワーポットまで全て新品に入れ替える必要がどこにあるのです。僕には建設会社に便宜を図り、わざと工事費を使わせようとしているとしか思えない。それより、フェールダムはもっと深刻な問題を抱えています。年々、川の水位が上昇し、潮位が警戒レベル寸前に達することも珍しくない。五年前の寒冷低気圧、あるいはそれ以上のものが再来すれば、今度こそ甚大な被害をもたらします。先にフェールダムの補強を行い、大堤防の改修はそれからでも遅くないはずです」
「だから、予算の都合だと言ってるじゃないか」
「では、その予算を見せて下さい。補強工事の費用と、大堤防の改修費と、来年度の治水関連の予算と、あらゆるデータを鑑みて、大堤防の改修を優先せねばならない理由が明白であれば、その時は納得します」
「なんで君にそこまで情報開示せねばならんのだ。それに補強工事の必要性については、ノルディア・コンサルタンツが一つの回答を示しておる。君ら治水研究会の誘導的な測量データとは異なる、真に客観的な分析だ。だいたい、君は部外者のくせに首を突っ込みすぎだぞ」
「どこが部外者なんです。僕は治水管理局の技師として何年も堤防管理に携わっています。実際に堤防の状態を目視し、一住民としてその時々の変化を肌で感じ取ってきました。その場限りの測量で結論づけるノルディア・コンサルタンツとは視点も経験も異なります。誘導的な測量データというなら、ノルディア・コンサルタンツの方でしょう」

Product Notes

オランダの堤防と海岸線の美しさは白眉のもの。
日本の土木技術も多くをオランダから学んでいるんですよ。鎖国時代も唯一、国交がありましたからね。ついでに医学も。

私の中では世界一美しい、水と緑の国です。ついでに知恵と根性もある(住んでみると、そうでもないらしいが)。
州のモットーがLuctor et Emergo(私は闘い、水の中から姿を現す)やもんね。

アフシュライトダイク(締め切り大堤防)も圧巻です。