26-2 結婚の心構えと遺志を継ぐこと

2017年9月27日女性と結婚

EOS海洋開発財団の立ち上げの記者会見を終えたリズは、父の死から今日までの日々を振り返る。

ボート上でのひどい仕打ちに心傷つき、希望も尽きかけた時、リズの心を支えたのは、意外な父の反応と思いがけない彼の行動だった。

父の死後、悲しみに暮れ、これから先のことを思い倦ねている最中、伯母のダナは海洋開発財団の構想をリズに聞かせる。

EOSの代表理事に立つことで、彼やマックス夫妻に子供に無関心だと誤解されるのではないかと案じるリズに、ダナは「二人だけに分かるメッセージを手旗信号として出す」ことを提案する。

重い責任を負い、なおかつ先の見えぬ不安の中、ウィレム・ヴェルハーレンが再びリズに接近を始める。
彼の魅力と優しさは気丈な彼女の心さえも揺るがせる。

引用

 リズの目から涙があふれ、大きなお腹の上に滴り落ちた。
「どうすればいいの……?」
「重要なのはわしの見立てじゃない。お前自身の決意と覚悟だよ。再び壁にぶつかっても、共に乗り越え、生きる方を選ぶか。それとも、このまま完全に別れてしまうか。この世に完璧な男など存在しない。永久に孤独や苦痛とは無縁な結婚生活もだ。わしも彼の欠点は知っている。いつかまた、くだらん事で癇癪を起こして、お前を傷つけることもあるだろう。反面、他人には無い長所もたくさん持っている。お前が惹かれたのは、そういう所だろう。誰かと生きるということは、欠点も引き受けることだ。工業品じゃあるまいし、お前仕様にフルカスタマイズされた完璧な夫などあるわけがない」
「……」
「わしは今までお前だけは譲れないと考えてきた。決して愛情を軽んじるわけではないが、経営者としての社会的責任や、代々受け継がれてきた名誉と財産を引き替えにするほど安気にもなれない。一緒になるなら、お前の立場に合わせるのが筋だと。だが、彼が新たな船出を恐れるように、お前も自立することを恐れている。もうすぐ母親になろうというのに、ぐずぐず思い倦ねるばかりで、何一つ自分で解決しようとしない。どうして彼だけが逃げ腰と責められる? 現実から逃げているのは、お前も同じだろう」
 リズは両手で顔を覆い、嗚咽をもらした。
「わしも正直、ここまでやるとは思わなかった。八月には荷物をまとめてアステリアを出て行くと思っていた。だが、今は本気で構えを正し、自分のした事の結末を見届けようとしている。それもお前やわしの身を案じればこそだ」
「……」
「まだ解らないかね。あの男がバラックみたいな簡易宿舎に暮らし、示談を解消するチャンスもふいにして、身を粉にしながら待っている心情が理解できないか」
「今さら戻れないわ……」
「どうして戻れないんだ。文無しみたいになった男と生きていく自信が無いからか。では、目の色を変えて追いかけ回していた、あれは何だったんだ? お前の愛はその程度のものだったのか」
「今でも好きよ。あの人以外に考えられないくらい……。だけど、怖いの。ここを出て、あの人と二人きりで生きていくのが怖いのよ」
「どうしてだね」
「きっとまた喧嘩になるわ。すれ違い、不満をつのらせ、その度に言い争うなど、私には耐えられない……」
「それが一人の男と向き合うことの現実じゃないか。それが嫌なら、ずっと夢のお城に閉じこもって、家政婦相手に暮らしておればよい。だが、それが本当にお前の望む人生か? 傷ついてもいい、人生を知りたいと言っていた、あの決意は嘘だったのかね?」