18-3 父の裏切りと高貴な生き方 見栄を張らない

2017年9月27日幸せな考え方, 海について, 生きていくこと

波乱続きの海洋調査だったが、全ての行程を終え、安堵の中で帰路に就く。
リズに電話する為に甲板に出たヴァルターは思いがけなくオリアナと出くわす。
全ての企みが裏目に出て、オリアナの心中も穏やかでない。そんな彼女に「友人として話そう」とやさしく声かけをする。

話の中で、ヴァルターはマクダエル姉弟が、本当は土着生物の存在を知っていたことに気付く。

オリアナもまた父の裏切りを知り、心を傷つけられる。
いろんな経緯があるにせよ、ヴァルターはオリアナに恩讐を忘れて、マクダエル一家と仲直りするよう促す。
それでも意地を通すオリアナの心には、彼へのほのかな恋慕が芽生えていた。

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「あなたって天然の自惚れ屋さんなの? それともおつむの足りないナルシスト? あんなもの、本当にいい迷惑よ。これで国際宇宙開発機構が乗り込んで、開発公社の事業計画も一から立て直しよ。あんなミミズみたいな生物の為に大勢が振り回されるなんて。泣くに泣けないわ」
「だが、ミミズのおかげで大勢がアステリアに観光にやって来るかも知れないぞ。人が集まれば商売にも弾みがつくだろう。それが回り回って、開発公社の利益にならないか」
「あなたって、よくよくお目出度いのね。世の中、そんな単純に回るわけないでしょう。今度は環境破壊の親玉として吊し上げ、生物の聖域に開発の手を入れるなと、保護団体の大合唱よ」
「それは君たち次第だよ。何にでも話し合いの余地はある。採鉱プラットフォームだって、そうしてるじゃないか。何度も何度も鉱業局や官庁の監査が入って、その度に誠実に対応してきた。だから、こうして採鉱事業に取り組むことができる。開発公社も同じだ。公益を重んじる姿勢があれば、決して悪いようにはならない」
「MIGと開発公社を同じにしないでちょうだい。公社には複数の大企業が多額の出資をしているのよ。家族経営のMIGとは違うわ」
「家族経営でも、賭けているものは開発公社より大きいよ。下手すれば、グループが瓦解するばかりか、娘の命も失うところだった」
 すると、オリアナは心底うんざりしたように唇を突き出し、
「もういいわ。あなたとはどこまで話しても平行線。交わる点など無いことがよく分かったわ。開発公社からお金をもらったら、後はおとなしくしてるのね。あの人たちを本気で怒らせたら、次は本当に泣きを見るわよ」
「今のロバート・ファーラーにそこまでの影響力はないよ。権限もないから、下の判断で実況も叶った。仮に本気で怒らせたとして、いったい俺や彼女に何を仕掛けるというんだ? 俺だって、ファーラーが脅迫した証拠を持っている。下手に手を出せば、都合が悪くなるのはファーラーの方だぞ。世間もいつまでも物言わぬ羊じゃない。たとえファルコン・マイニング社といえど、倫理にもとれば社の根幹も揺らぐ」

<中略>

「多少はね。でも、本当に意味があるのは青い貴石(ブルーディアナイト)じゃない。石の中に針状結晶(インクルージヨン)として含まれる高純度のニムロディウム。それを作り出す鉱化生物がいるそうよ。アステリアにも、ニムロデ鉱山にも」
「ニムロデ鉱山にも?」
「一部ではずっと以前から知られている話よ。ニムロディウムを体内に取り込んで濃縮する鉱化生物が存在すると。生物といってもミクロの世界の話だけども。それも一種類や二種類ではない、様々な微生物が化学的に反応し合って、最終的に高濃度の酸化ニムロディウムを含む鉱石を作り出すの。でも、このメカニズムは非常に複雑で、今まで多くの仮説が立てられ、そして葬り去られてきた。実証するのが難しい上に、マイニング社は機密保全の立場から、絶対に部外者を坑道内に立ち入らせないからよ。そのセキュリティたるや、銀行の地下金庫レベル。勝手に鉱石を持ち出せば、横領や窃盗の罪で訴えられるか、下手すれば消される。ゆえに研究も進まず、『小天体衝突説』も揺るがなかった。実際は小天体と鉱山は何の関係もなく、ニムロディウムはネンブロット星の深部に豊富に含まれ、これらの微生物が繁殖する限り、半永久的にニムロイド鉱石は作られる――となれば、ニムロデ鉱山の価値も一変するからよ。あるいは誰かがこれらの微生物の培養に成功し、生物冶金の手法を確立すれば、業界に激震が走るでしょう。だから、鉱業界は鉱化生物に関する議論をいっさい無視してきたし、時には研究を潰しにかかった。でも、今度こそ、鉱化生物の存在を突き止め、ニムロイド鉱石が作られるメカニズムを実証しようとした学者がいた。それがイーサン父子よ。彼らはマグナマテル火山の噴気孔で硫化ニムロディウムを含む火山昇華物を発見しただけでなく、『何か』を持ち帰った。それこそが本当のトラブルの原因だと、父は言ってたわ」
「土着生物か?」
「多分」
 彼はぐっと手摺りを握りしめた。 
 ならば、ダナ・マクダエルもすっかり真実を話したわけではない。
 今度の調査で『何か』に出会うかもしれない事を前提に「自然と科学を愛する人には、ウェストフィリアも真の姿を見せてくれるでしょう」と言ったのだ。

<中略>

「だからって、彼女やその家族まで目の敵にすることはないだろう」
「理不尽だからよ。何の努力もしなくても、あの人にはうなるほどの財産があって、『アル・マクダエルの娘』というだけで世間に最大級の敬意を払ってもらえる。いったい、あの人自身に、どんな徳があるというの。全て親の七光りじゃない。私だって、今度の調査は必死に勉強したわ。海洋地質学、海洋物理学、船舶工学、何とか話に付いていこうと、寝る間も惜しんで準備して、専門家に話も聞いて……でも、報われなかった」
「それは付き合う人間が悪いからだ。ロバート・ファーラーみたいな男と一緒に居て楽しいか。権力者と寝れば、自分も権力者になったような気がするだけだろう。君に改ざん写真を持たせて、ファーラーに接近させた君の父親もたいがいだ。理事長なら、娘にせがまれても、ファーラーみたいな男には近付けない」
「……」
「君だって心の底では分かってるんだ。でも、それを認めたら、君のたった一つの心の拠り所がなくなってしまう。だから両目をつぶって、見ないようにしているだけだろう。悪いことは言わない。あんな男とはさっさと手を切って、本来の仕事に戻れ。一所懸命に努めていれば、いつかきっと誰かが君の実力を認めてくれる」
「お目出度いことを言わないで。いったい、どこに、そんな誰かが居るのよ」
「いるさ。君のやってる事はデタラメだが、俺には君の秀でた能力が分かる。俺に分かるということは、他の誰かにも分かるということだ。現に君はマイニング・リサーチ社のような一級の会社に職を得たじゃないか。それもロバート・ファーラーの口利きか? 違うだろう。自分の実力で採用を勝ち取ったんだろう?」
「……」
「勇気を出せよ。意地や背伸びとはまったく違う、本物の勇気だ。俺も似たような時期があったから、君の強情や突っ張りはよく分かる。でも、そんなものは周りを疲れさせ、自分自身も消耗して、本当にプラスになる人間を遠ざけるだけだぞ。ほんの少しの勇気で、君も必ず良い方に変われる。船を下りたら、一緒にマクダエル一家を訪ねよう。のんびりお茶でも飲んで、昔語りを楽しんで、数分でも優しい気持ちになれば、心の凝りも少しはほぐれる」

Product Notes

カムチャッカ半島の美しい写真をどうぞ。(Flickr)

Kamchatka

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Tolbachik Eruption, Kamchatka

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ウォールのPhoto : https://flic.kr/p/nSYqSF